エピソードⅣ 三日目 相棒

Ⅳ-①

ペパロニ・フォーレン荘 10月23日(水) 07:40時――


 ミッション開始から三日目の朝だった。

 穂香の誕生日である『Xデー』まであと3日となった。


「さあ、ミッション三日目です。前半の締めくくりです。心してかかりましょう!」


 左京が薫たちを鼓舞した。それに対し、薫たち面々は、


「なぁ、お祈り、って毎日、朝夕やるのか?」

「丁度イイわ。どうか、これ以上けが人が出ませんようにって、祈っておいて下さいまし」

「はぁ、またアイツらの面倒見んのかよ……」

「結構楽しんでる。リナ親びん」

「うっせえな! 忍!」


 和気あいあいとまではいかないものの、高校生と先生らしくなってきた面々。

 そんな四人のやり取りに、左京は暖かい眼差しを向けている。


「イイですねぇ。青春」


 本気で嫌がっているようには見えず、それぞれが学園生活を謳歌しているように映った。


「「「「行ってきまーす!」」」」




              ◆ ◆ ◆ ◆




魔導実習室 二時限目 10:20時――


 二時限目の授業は、先日「机が降って来た事件」の騒ぎがあった時にいた魔導物理の高円寺先生の授業だった。


「はい、じゃあ今日は武器召喚、【サモン・アーマメント】をやってみます」

「武器召喚だってよ?」ざわ……

「どんな武器が召喚されるのかしら」ざわ……


 武器の召喚と聞いて、周りがざわついている。

 薫は時に興味が無いようで、睡魔と戦っている最中だった。


「ええと、もう召喚に成功している人がいるよね? 五十嵐穂香さん?」

「はい」

「ちょっと出してもらえるかな?」

「はい。 来て、『ザクレロス』」ブンッ


 穂香がそう告げると。右手に黄金の弓が一瞬で具現化された。


「か、カッケー!」

「素敵。絵になるわぁ」

「おお、女神様」

 

「この弓はかつて、ハイエルフ族の長が使用したと古文書に記されていますね」

「そんな昔のもんなのか、スゲーな!」

「さすが穂香様。武器も人を選ぶのね」


「穂香さんの場合、これだけレアな武器が召喚できたのは、よほど運が良かったのか、又は前世との強い繋がりがあったんだと思います」


 みんなの視線が、穂香に集中している。穂香は少し恥ずかしがっているようだ。


「ありがとう。しまってくれてイイよ」

「はい。去れ」シュン


 戻す時も一瞬であった。


「それでは順番に召喚してみましょう。青木クンから」


「はい、【サモン・アーマメント】!」バチバチ


 青木と呼ばれた男子生徒は、呪文を唱えた。 

 彼が召喚したのは、鉄製の両手剣であった。


「う、重い」

「上出来だ。その剣はキミと同じで成長する。使い込むごとに使い手になじんでくるんだ。修練に励めよ」

「はい!」


 次々に呼ばれ、武器を召喚していく。


「次、黒田クン!」

「はい」


 忍の番が来た。忍は眠そうな顔をしながら、呪文を唱えた。


「【サモン・アーマメント】」バチバチ


 出現したものは、ダガーナイフのような両刃の短剣であった。


「ん? これは……『苦無』と呼ばれる、忍者が使った万能武器だね」

「忍者?」

「投げる、掘る、と言った使い道が一杯ある武器というか道具なんだ。便利だから苦労が無いってね」


「苦しませないで死ねるってヤツじゃないんだ」

「そっちの説もあるね。詳しいじゃないか黒田クン?」

「うん。名前が忍だけに、ね」


 男子の武器召喚が終わった。大体が鉄製の片手剣か両手剣であった。


「ちなみに無名の場合は、道具と対話して名前を付けられるんだ。慎重に決めろよ?」

「はい!」




              ◆ ◆ ◆ ◆



「次、女子ね。足立さん!」


「はい!【サモン・アーマメント】!」バチバチ


 最初の女子が召喚したのは、レイピアと言われる片手の細い剣であった。

 この後数人の女子がレイピアを召喚した。


「はい次、五十嵐薫さん!」


 薫の番が来た。薫は今まで、武器に関してあまりこだわりが無かった。


「はい。【サモン・アーマメント】!」シーン


 他の生徒のように、バチとか言う事も無く、何も起こらなかった。

 周りの生徒も、唖然としている。すると、


「あ! 薫様! 上です、上!」

「え? うわぁ!?」


 薫のいる所の頭上で、小さな雷雲が発生していた。

 小さな雷雲が雷を落とした。


「いかん!、机の下に入りなさい!」



 ズドーン!



「うわぁぁ!」

「きゃぁぁ!」


 生徒たちはあわてて机の下に隠れた。

 暫くして顔を出すと、薫の手には木刀のような物があった。 


「薫クン、それは?」

「はぁ、どうも刀のようですね」


 先生に聞かれ、薫は木の鞘から刀を抜いてみた。


「おお。これは素晴らしい」

「先生、これは日本刀でしょうか?」

「間違いないね。銘を調べないとわからないけど、多分業物だと思うよ」


 薫は刀をいろんな角度から見て、首を傾げている。


「私に、使いこなせるでしょうか?」

「それは今後の鍛錬次第だね」

「はぁ。そうですか」


 薫は、刀を鞘にしまい、「去れ」と言うと、刀は瞬時に消えた。

 次に、リナの番になった。


「次、篠田クン」


「ほい。【サモン・アーマメント】!」バチバチ


 出現したものは、鎧の籠手であった。


「ん? これは……『ガントレット』と呼ばれる、鎧の籠手の部分だね」

「手、だけなんスか? 先生?」

「籠手だけだからって、落胆するなよ? 近接武器では剣の次に強い」

「ふぅん。そんなもんスかねぇ」


 女子の武器召喚が終わった。予想通りレイピアがほとんどだった。

 授業が終わり、帰り支度をしていると、高円寺先生に呼び止められた。


「薫クン、ちょっと」

「はい、何でしょう?」

「キミが召喚した刀、調べたいんだけど、放課後ココに来てくれないか?」

「はい、イイですよ」

「ありがとう。どうも気になってね」




              ◆ ◆ ◆ ◆




魔導実習室 放課後 15:20時――


 先生と約束していたので、薫は穂香を連れて魔導実習室に来た。


「付いて来なくても、良かったのに」

「でも、気になったから」


 実習室に入ると、高円寺先生が近付いて来た。


「いやぁ、よく来てくれた」

「は、はぁ」

「早速だけど、具現化してくれないか?」

「どうやるんでしたっけ?」


 薫は呼び出し方を理解していなかったようだ。


「『来い』と念じるか、口に出すか、だね。名前がわかればもっと簡単になるよ」


 薫は先ほどの刀をイメージして、命じた。


「来い」ブンッ


 刀は一瞬で薫の手に具現化した。


「そうだよ。コレコレ。ちょっとイイかな?」

「はい、どうぞ」


 先生は慣れた手つきで刀の柄にある目釘を抜き、刀身のみにする。


「銘は……『震電』だね」

「刀の名前、ですか?」

「そうだね。これを打った刀鍛冶の名前だと思う」

「そうですか、震電……か」


 薫は目の前の刀をぼんやりと眺めていた。すると先生がポンと手を打った。


「そうだ薫クン、イイものをあげよう!」 

「何です? イイものって」

「ちょっと待っててくれ、すぐに戻るよ」


 そう言うと先生は奥の準備室に入り、数分後に出て来た。


「どうだい? イイこしらえだろう?」


 先生が自慢げに見せたのは、全体的にオリーブ色や茶色をベースに、金色の装飾が付いている。

 こしらえ、とは、日本刀の刀身以外の部品一式の事である。


「はぁ、良くわかりませんが」

「昔手に入れたんだけど、中身はこの通り、竹光なんだよ」

 

 竹光とは、ツナギとも言われ、竹や樫木などで作る刀身のようなものである。


「こんな綺麗なものを、私に?」

「イイんだ。道具は使われてナンボって事だよ」


 先生が持って来た拵えに、震電をセットする。


「鞘の反りがドンピシャだ! 相性は抜群みたいだね!」

「ほんとだ。スゴい」


 拵えを得て、本当の日本刀となった震電を、薫は上にかざして見ている。 


「九八式軍刀。その拵えの名前だ」

「軍刀? サムライが使ってたんじゃないんですか?」

「もっと後だね。近代化が進み、銃が戦況の主となった為、刀は主に儀礼用となったんだよ」

「そうか。偉い人が持ってたから、こんなに綺麗なんだ」

「そう言う事。気に入ってくれたかな?」

「はい、ありがとうございます!」


 刀の銘がわかり、先生は満足したようだ。

 薫と穂香は実習室を後にした。


「わかってると思うけど、校内の許可されている所以外では、抜刀は厳禁だからね?」

「はい。肝に命じます」

「じゃあ、気を付けて帰りなよ?」

「はい、失礼します」

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