エピソードⅢ 二日目 誰がために
Ⅲ-①
ペパロニ・フォーレン荘 10月22日(火) 07:45時――
ミッション二日目。起床から朝食、着替えを済ませて外階段を降り、管理人室の左京に挨拶する。
「じゃあ二日目、行って来ます!」
「行ってらっしゃいませ!」
三人はアパートを出て、高校に向かい歩いている。
雪乃は教師である為、みんなより少し前に登校している。
大きい道路に差し掛かった所で、リナに声が掛かった。
「「「リナ姉様、一緒に学校、行こ?」」」
「な、何だお前ぇら!?」
三羽ガラスは、フリフリにドレスアップしている。
「どぉ? カワイイでしょ? リナ姉様?」
「お? おう。まあな」
「わぁい、リナ姉様に褒められちゃったわぁ」
「早く行きましょうよ、リナ姉様」ガシッ
旧三羽ガラスは、リナの両腕をがっちりとホールドし、学校に向かってダッシュし始めた。
「では、ごめんあそばせ~」ドドドド
「あ、アネキー!」
リナは妙な三人に連れて行かれた。
薫は忍と顔を見合わせ、吹き出した。
「プッ、何だ? 今のは」
「昨日とは、違うベクトルでぶっ飛んでる」
次は恐らく、と思ったら約束通り、
「御機嫌よう、薫お姉様♪」
「高千穂さん? 御機嫌よう」
「ささ、急ぎましょう! お先に。忍様」ガシッ
高千穂と呼ばれた、昨日と同じお嬢様系女子は、物凄い力で薫の手を引き、学校に引きずるように連れて行ってしまった。
「忍ぅ、何とかしろー!」
「達者でなー! 薫ぅー!」
見る見るうちに小さくなっていく薫を、手を振りながら見送る忍。と、そこに、
「吉兆よ? 美紀」
「そのようね、真紀」
見るからに双子と思われる、背の小さい女子二人が、忍を生温い視線で見ている。
「む? 殺気?」
「忍様ぁ? 昨日、漫研にいらしたようですわね?」
「ん? いたけど?」
「昨日は、わたくしたち美術部の、絵のモデルになって下さるってお約束、でしたわよね?」
「え? 何それ? 知らない」
「あくまで、シラを切るおつもりですね? 忍様?」
「あ、用事、思い出した。じゃ」シュタッ
ヤバいと思った忍は、裏ピース敬礼をして、学校に『レベル1.75』の体力で向かった。
「あ! 忍様ぁ……逃げられましたの」
「追いますよ、真紀」
◆ ◆ ◆ ◆
体育館裏 旧校舎 08:05時――
昨日の部室に連れて来られたリナ。
「こっちだよリナ姉様、みんなが待ってる♪」
「お、おい、何なんださっきから? その気持ちわりぃしゃべり方は?」
部室に着いたリナが見たものは、昨日とは真逆と言っていい部下たちであった。
「やあ、御機嫌よう。リナ姉様!」
「若宮、お前男子の制服だろ? それ」
「イヤだなぁ姉さん、こういうのですよね? 姉様が望んだ路線」
若宮以外の、四人の男子の制服姿の者が、女子とペアを組んでいる。
「まさか、『竹ノ塚』か?」
「そうです! 男役5人、娘役4人で構成しました」
「リナ姉様推奨のさわやか路線!」
「見てくれ! 今ここに生まれ変わった、真の『篠田組』を!」
バァンと効果音が鳴りそうなくらい、ポーズは決まっている。
「あちゃあ、こりゃマズいな。少し薬が効きすぎたか?」
(これじゃあ、まだ任侠もののほうがイイな)
「アタイが悪かった。元に戻してくれ、頼む!」
結局、任侠路線で落ち着いたようだ。
◆ ◆ ◆ ◆
音楽室 08:10時――
朝のお祈りの為に、高千穂さんに音楽室に連れて来られた薫。
「御機嫌よう、薫お姉様」
「御機嫌よう」
薫が見た先に穂香がいた。心なしか表情が豊かになっているようだった。
「薫ちゃん、御機嫌よう!」
「穂香ちゃん、御機嫌よう!」
二人は見つめ合うと、自然と笑みがこぼれた。
「ああ、穂香お姉様、素敵です」
「薫お姉様がいらして、周りが明るくなりましたの」
周りの者は、幸せそうな二人を見て、うっとりとしている。
「では皆さん、朝のお祈りを捧げましょう」
◆ ◆ ◆ ◆
3-B教室 放課後 15:30時――
今日の授業は、特に問題なく終わり、帰りのHRが終わった。
「忍、今日の掃除当番、私たちだから、先に帰っててもイイわよ?」
「その後行くの? 定期連絡」
「そのつもり」
そう話していると、いきなり小柄な二人の女子が、忍の席の横に立ちはだかった。
「忍様? おわかりかと思いますが、この後よろしいですか?」
「よろしくない、って言ったら?」
「選択肢はYES、それしかありません!」
「さあ、行きますよ? 真紀、そっち持って」
忍は両腕を二人に抱えられ、引きずられている。
引きずられながら、忍が薫に言った。
「美術部のモデル、やるらしいんだ」
「そうなの? がんばって」
そうして忍は、教室を強制的に出て行った。
「まあ、忍クンって、人気者なんだね?」
「変わり者だけど、見た目はイケてるから、かな?」
◆ ◆ ◆ ◆
当番が掃除を始めた。今日の掃除当番は、薫と穂香を含む5人であった。
「じゃあ、ゴミ捨てて来るね」
「私も手伝うよ」
穂香がゴミを校舎裏の焼却炉に持って行くと言うので、薫が付いて行く事にした。
「よっこらしょっと」
「なぁに薫ちゃん、伯母様みたい」
「え? そぉかな?」
「フフフ、伯母様は自由奔放、みたいな感じで、ウチのお母さんとはちょっと違う、かな?」
「へぇ。双子でも、性格までは似ないって事?」
「そうみたい」
薫が代わりにゴミ箱を持ち、穂香は畳んだ段ボールを持っていた。
焼却炉がある、校舎裏に差し掛かった時、異変が起きた。
何と、あろう事か上から机が降って来たのであった。
「ふっ!」
いち早く危険を察知した薫は、ゴミ箱を空中に放り投げ、机にアッパーを放った。
「どあらっしゃぁぁぁ!!」ドゴゥ!
机はベコベコに折れ曲がり、数m先に落ちた。
薫は上に放り投げたゴミ箱を当たり前のようにキャッチした。
「ふう。危ない。ちょっとコレ、どう言う事!?」
「何だったんだろう? と言うか薫ちゃん、手、大丈夫?」
穂香は数m先に転がっている机を見て、薫を心配している。
すると、物凄い勢いで走って来る者がいた。
「ちょっとキミたち、大丈夫だったかい?」
「高円寺先生?」
「高円寺先生って、魔法物理の?」
高円寺先生と呼ばれた男性教師は、ゼエゼエと息を切らせながら事の説明を始めた。
「いやぁ、スマンスマン。【武器召喚】の補講で、一人の生徒がどうも【瞬間移動】を使ったようでな」
「【瞬間移動】? スゴいじゃないですか! 大発見ですよ!?」
薫が珍しく興奮して先生に向けて身を乗り出す。
「いや、【瞬間移動】自体は大した事じゃないんだ。レベル1では10m位が限界だしな。位置だって正確に移動させるのに相当の熟練が必要なんだよ」
「ですが、工夫次第では有利に働きますよ? 例えば自分自身を瞬間移動させ、攻撃を避ける、みたいな?」
【瞬間移動】があまり実用性が無いと言われ、薫は尚も食い下がる。とそこに、
「そうなれればスゴい事になるんだろうけど、僕には無理だな」
「清瀬クン!」
清瀬クンと呼ばれた男子生徒は、二人に深々と頭を下げた。
「ごめんなさい! 僕の不注意で、間違えて【瞬間移動】が発動してしまいました」
「そうだったの。気を付けてね? 清瀬クン」
「はい。以後、気を付けます」
思いのほか早急に謎が解けたので、この場は自然にフェードアウトしていくかに見えたが、
「この机、スゴい事になってんぞ? ほらココ」ざわ……
「うわぁ、しっかりグーの跡が付いてる」ざわ……
「これをやったのって……薫お姉様?」ざわ……
やがて人だかりが出来ていた。
場の空気が重くなっていくのを、薫は肌で感じ、苦し紛れに言った。
「あれぇ? どうしちゃったの私? つい夢中だったから……火事場の馬鹿力ってやつかしら?」
(ヤベェ、自主練で常時レベル1.5まで出来てるの、忘れてたわ)
癖である首の後ろを搔く仕草をしながら、今更の言い訳をした。
暫く沈黙があり、そして、
「きゃあ、薫様ったら、お茶目~」
「さすがは文武両道の薫お姉様、とっさの判断で危機を回避するとは」
「桃髪の巫女様を護衛する、これまた桃髪の女騎士、か……素晴らしい。ムフゥ」
ギャラリーたちは今の薫の発言を、ボジティブに受け取った。
「はい。じゃあそう言う事だから、野次馬は解散! いいね?」
「「「ふぁーい」」」
高円寺先生は野次馬を追い払って、清瀬だけを残した。
「薫クン、先ほどの発想、実に理にかなっているね。感心したよ」
「は、はぁ。それはどうも」
「僕もそういう発想は無かったな。今後の課題が出来たよ。ありがとう」
「が、がんばってね? 清瀬クン」
先生と男子生徒はもう一度頭を下げ、校舎に帰って行った。
「ありがとう、薫ちゃん」
「え? うん。たまたま反応しちゃっただけだよ。危なかったね」
「私、やっぱり、狙われてるの……かな?」
「そんな事無いよ。気にしないで、穂香ちゃん」
薫には穂香を慰めるのに適した言葉が浮かんで来なかった。
(そうだ、母さんに定期連絡するんだっけ)
「穂香ちゃんて、中等部まで『聖オサリバン魔導女学院』にいたよね?」
「うん。いたけど?」
「礼拝堂に参拝に行きたいんだけど、いきなり行っても大丈夫かなぁ?」
「一般のひとは何か書類がいるかも。あ、でも私が付いて行けば大丈夫だよ」
「え? イイの? 穂香ちゃん」
「ちょっと寄り道するくらい、薫ちゃんと一緒なら、お母さんも許してくれるよ」
「じゃあ、お願いしようかしら?」
「うん。嬉しいな。薫ちゃんが私を頼ってくれた。ウフフ」
「頼りにしてますとも。穂香クン? フフフ」
校舎に向かって仲良く歩いている二人。
それを見ている生徒たちにも自然と笑顔が浮かんでいる。
「最近の穂香お姉様、表情が豊かにおなりになったわね」
「きっと、薫お姉様が傍にいらっしゃるお陰よ」
「ねえ、薫お姉様って、前からいらしたわよね?」
「え? ええ。そうなんですけど、振り返ると、一緒にいた記憶、ほとんど無いのよね」
「そう言われてみると、忍クンとリナさん、あと保健の雪乃先生も?」
「「不思議よねぇ?」」
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