Ⅱ-③

屋上 12:30時――


 雪乃は、保健室で【状態異常】を起こした生徒を回復させ、各教室に帰した後、屋上に向かった。

 屋上に行く扉の鍵を雪乃が先生特権で借りて来たので、四人は一時的に周囲から解放された。


「さっきはやってくれたな、雪乃?」

「ご、ごめんなさいですの。少しお遊びが過ぎましたの」


 顔を赤くしてキレている薫を、どうどう、と落ち着かせる雪乃。 


「それで、どうでしたの? 午前中は?」

「散々だった……予想をはるかに超えて無理ゲーだぜ?」

「アネキ、アタイの方がヤバい」

「最初は、こんなもん」


 雪乃のお手製弁当を食べながら、二人の事情を聞く。


「それで、穂香ちゃんとはエンカウント出来たのね?」

「そんな敵みたいな言い方すんな。あの子は、どこか遠くを見てる」

「無理も無いわ。あと数日なんですもの」

「普通の女の子じゃなくなるから?」

「そうだろうよ。そうなったら、自由ってもんが無くなっちまうんだからよ」


 三人が穂香について話しているのを横目に、リナは自分に降りかかった災難に動揺を隠せなかった。


「アネキ、アタイはどぉすればイイ?」

「篠田組、まとめてみたらどうだ?」

「んなもん、アタイにゃあ無理だろ?」

「やる前から諦めんのか?」

「うう、でもよぉ……」


 忍が時計を見て、何か思い出した。


「ねえ、5時限目、体育だったよね?」

「うわ、早めに準備しとかなきゃな」

「とりあえず戻るか」

「あ、そうでした。薫、コレを」ジャラ

 

 雪乃は薫にロザリオを渡した。


「朝、渡すのを忘れてしまいましたわ。てへ」



3-B教室 12:50時――


 昼休みがもうすぐ終わる頃、三人は教室に戻った。

 数人が更衣室に向かおうとしている中に、穂香がいた。


「薫ちゃん、早く更衣室行こう?」

「え? 待っててくれたの? 私を?」

「うん。ちょっとね」


 穂香と共に更衣室に向かう。途中すれ違う者たちから口々に言葉が溢れていく。  


「ねえ、素敵よね。桃髪のお二人」

「絵になるわぁ。素敵」

「おい、女神様たちが通るぞ。おお、美しい」

「さすが『桃髪家の一族』の方たち、オーラが違うわ」


 穂香は苦笑いを浮かべて、薫に言った。


「フフ、おかしいよね? 私たちって、髪の毛の色だけでこんなに注目されてるんだもん」

「そうね。もう慣れちゃったわよ。穂香ちゃんは?」

「私は、あまり好きじゃないかな、この色」


 更衣室に着き、体操着に着替える。

 薫はあまり周りを見ないように気を付けて着替えた。



校庭 13:00時――


 体育の時間は、男子がソフトボール、女子が陸上競技だった。

 男子は野球場を使い、女子はトラックの横で走り幅跳びをやるようだ。


「じゃあ順番に、ピッ!」


 体育の先生が笛を吹き、順番に跳んでいく。

 薫の順番が来て、無難に跳び終える。


「きゃー薫様、素敵です!」

「美しく、そしてワイルドなフォームですわぁ」

「へへ。そうかしら?」


 みんなに褒められて、ちょっと浮かれている薫。次は穂香だ。


「穂香様、頑張って下さい!」

「次、ピッ!」


 笛の合図で穂香が駆け出す。薫は何か直感めいたものを感じ、耳たぶを触る。

 リナの方を見ると、やはり耳たぶに触れている所で、アイコンタクトをして、うなづき合った。


「そっちいったぞー! よけろ女子! ふぁー!」


 男子が叫んでいる。どうもホームラン性の当たりが女子のほうへ飛んで来ているようだ。


「危ない! 穂香様!」

 

 と誰かが叫ぶ頃には、穂香は跳躍している最中で、よけるどころか球が飛んで来ている事も認識出来ていない。


(マズい、予想より速いな! リナ!)


 リナも反応が1拍遅れている。ダメか? と思ったその時、




 バシィィン!




 穂香は無事に着地し、無傷であった。振り向くとそこには何と、忍が立っていた。

 恐らく身体レベルを上げたのだろう。


「ねえ? これって、ホームラン、なの?」ブンッ!


 忍はミットで球を確実にキャッチし、軽く投げ返した。

 投げた球は放物線を描き、200m程先にいるピッチャーに、ノーバンで届いた。


 パチパチパチパチ


 忍がふと振り返ると、自分が拍手をもらっている。

 

「ん? 何?」


 拍手の元が自分だと言う事に気付き、不思議がっている。

 体育教師がうんうんとうなずき、親指を立てた。


「ナイスキャッチ! 忍クン!」

「スゴいね、あそこから間に合っちゃうんだ」


 すると、校舎側から校庭を見ていたギャラリーまでもが騒ぎ出した。


「す、すごーい! 忍クーン!」

「キャー! 忍クン、素敵ィィ」

「黒田、お前はヒーローか?」

 

 みんなから注目されている理由が、今ひとつわからずに首をひねっていた忍。


「何だかわからないけど、イェイ!」ニパ


 忍は薫とリナに親指を立てた。


「でかした! 忍のダンナ!」

「ああ、惚れちまいそうだぜ!」


 クラスの女子が、薫・リナ・忍の異色な組み合わせに驚いている。


「あれ? 薫様と忍クンはまだわかるけど、リナさんとも仲良かったっけ?」

「そんなはず無いと思う。だってリナさんって……」


 男子の方に戻ろうとした忍に、穂香はお礼を言った。


「ありがとう。忍クン」

「大丈夫? 穂香クン?」

「うん。平気」


「おーい! 色男! 戻って来ーい!」 


 向こうで男子が叫んでいる。


「じゃ、失礼」シュタッ


 忍は穂香に裏ピース敬礼をして、瞬歩で男子の所に戻って行った。


「忍クン、カッコイイ~!」

「あまり目立たない子だったけど、意外に優良物件よね?」

「特定のお相手、いるのかしら?」


 忍の株は、赤丸急上昇であった。薫とリナは小声で会話した。


「おいリナ、さっきの球、何か付与されてたみてぇだぜ?」

「おう、アタイも感じた。やっぱ、狙われてんだな、穂香」

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