Ⅱ-②

都立太刀川魔導高校 校門 08:05時――


 雪乃・リナ・忍が間もなく校門に差し掛かろうとした時、ジャージ姿の先生がこちらに走って来た。


「あ、こちらにいらしたんですか? もう、探してたんですよ? 葛城先生!」 

「はい? 私ですの?」

「職員会議、今日でしたよね?」

「あら? そうだったかしら?」

「とにかく急ぎましょう!さあ!」

「わ、わかりましたわ。では失礼?」


 雪乃はジャージの先生に手招きされ、職員室に行く事を促されている。


「頑張れ、雪乃」


 忍は親指を立て、雪乃に向けた。

 雪乃は後ろ髪を引かれる思いで一度振り向き、小走りで校舎の中に入って行った。


「リナ、行くよ」

「お、おう」


 先程のショックに立ち直れず、うなだれているリナを、忍が手を引き、連れて行く。とそこに、


「「「リナ姉様!」」」


 先程の三羽ガラスかと振り向くと、三羽ガラスを含め、9人が先ほどの「シュートを決めた時のビスマルクのポーズ」をとっている。

 中には泣き出しそうになっている者もいる。


「お前ら、アタイに何か恨みでもあんのか?」

「滅相もございません!」


「さっき、三下にも言ったが、篠田組は、今日で解散だ!」


「リナ姉さん、理由を言っちゃあ、くれませんか?」

「若宮のアネキ!」


 三下とは違う、独特のオーラをまとった女生徒が前に出た。


「何だお前は?」

「上條が言っていた、記憶障害ですかね? 姉さん」

「だったら、何だっつうんだ!」

「拳で、思い出してもらいましょうか?」ポキ


 若宮と呼ばれた者は、指をポキポキさせ、ジリジリとリナに近寄った。


「やるのか? コラ」ベキ

「こういう時は、拳で語り合うのが通例なのでね」

 

 直感でリナはひらめいた。

(そうか、コイツにボゴられれば、愛想を尽かされるな。よし!)


 リナはわざと若宮に殴られるつもりだ。


「さあ、どっからでもイイぜ? 来な」クイクイ


 昔のカンフー映画のノリで、指で挑発するリナ。しかし、一向にかかってこない若宮。


「どうしたぁ、掛かって来ねえのか!」


 イラついたリナは、構えを解き、ノーガードに切り替えた。すると、


「フフ……姉さん、参ったよ」


 若宮は降参のポーズをして、頭を下げた。若宮の顔は汗だくであった。


「どう言う事だ? お前」

「隙が無さ過ぎますぜ、姉さん」

「お前なぁ、喧嘩売っといてこのザマかよ」

「今、6通りの攻撃パターンを想定しましたが、全て弾かれてカウンター食らってますね。手も足も出せねえ」

「は?何だそりゃあ? ヤる前から降参か?」

「ええ。それだけ姉さんがスゲェって事ですよ」


 止まっていた空気が動き出した。


「リナ姉様、さすがです!」ざわ……

「若宮のアネキが、一歩も動けねえとは」ざわ……


 子分たちが騒ぎ出したところに、若宮が膝を突き、リナに懇願した。


「姉さん、お願いだ! もう少し時間をくれ!」

「何だと?」

「アタイらが姉さんの記憶、取り戻します!」


 若宮にならい、他の者も同じようなポーズを取った。



「「「「お願いしやす!」」」」



 暫しの沈黙の後、リナはゆっくりと口を開いた。


「好きにしろ。行くぞ、忍」

「おす」


 リナはそう言うと、忍と校舎に入って行った。



「「「は、あり難き幸せ!」」」



 子分どもは、その後姿をしばらく眺めていた。


「リナ姉様、素敵です」

「これが任侠道でやんすか?」

「おい、作戦会議だ、何が何でも思い出して頂くぞ」




              ◆ ◆ ◆ ◆



 昇降口で忍はリナに聞いた。


「リナ、イイの?あんな事言って」

「ヤバいな、けどよぉ、何か憎めないんだよな、アイツら」

「任務に支障が出る、何とかして」

「わあってる。けどなぁ……」





音楽室 08:05時――


 フリフリのお嬢様系女子に半ば強引に音楽室に連れて来られた薫。


「はわわわ、ココ、ドコ?」

「何を呆けておられるのですか? 薫お姉様?」


 周りを見ると、ピアノがある事から音楽室であると認識した薫。


「「「御機嫌よう、薫お姉様」」」


 全員で8人いた。その中に、


「薫ちゃん、おはよう」

「穂香、ちゃん?」


 五十嵐穂香がいた。


「さあ、皆さん揃いましたよ。お祈りを捧げましょう」


 そう言ったのは、メガネを掛けた、いかにも委員長という感じの女子だった。


「今日のお祈りの言葉は、穂香お姉様、お願いします」


「はい。今日一日、無病息災でありますように、どうかお見守りください」


 穂香は黒板の上にある、『地母神マキシ・ミリア』像と隣にある『戦乙女神 シズルカ』像の共にミニチュアに向かい、祈りを捧げた。

 穂香のお祈りが終わった。すると他の周りの女生徒たちが一斉に、 


「主よ、私たちの祈りを聞き入れて下さい、ジーメン」と唱えた。


「続いて聖歌を歌いましょう。ピアノお願い」

「はい」


 聖歌を斉唱している。他のものはロザリオを手に祈りを捧げている。

 薫は他の子の真似をした。


「はい、結構。これにて朝のお祈りを終わります」


「「「お疲れ様でした」」」


「薫ちゃん、教室、行こ?」

「う、うん」

(ヤバいぜ、このノリ、付いていけねえ)


 薫はこの先が不安でしょうがなかった。




              ◆ ◆ ◆ ◆



3-B教室 08:25時――


 教室に入る。薫の席は、中央の一番後ろだった。


「ああ、良かった。後ろじゃないと落ち着かねえ、って忍?」

「やあ、薫クン、おはよう」


 薫の隣は忍だった。薫はリナを探すとすぐに見つかった。

 リナは窓際の一番後ろで、隣の席は無かった。

 リナは机に突っ伏し、泣きそうな顔をして、薫に向かって手を伸ばしている。


(アネキィ)

(落ち着け、どう、どう)


 リナと薫は、身振り手振りで意志の疎通を図る。すると、

 


 キーンコーンカーンコーン

 


 08:30時になる。チャイムが鳴り、担任の先生が入って来る。HRの時間だ。

 日直が号令を掛ける。


「起立、礼!」


「「「おはようございます」」」


「はい皆さん、おはようございます」


 朝のHRが始まった。




              ◆ ◆ ◆ ◆




3-B教室 11:55時――


 午前の授業が終わり、昼食の時間になった。

 チャイムが鳴ったら三人はすぐに立ち上がり、保健室を目指した。


「アネキ、ヤバいぜこの学校」

「俺もそう思う。メンタルがもたねぇ」

「雪乃、弁当作って来てくれたかなぁ?」


 保健室に着いた。ノックしてドアを開けると、目を疑う事になっていた。


「はいはい、次の人は?」

「雪乃先生、ボクチン、頭痛ぁ~い」

「雪乃先生、膝、すりむいちゃった」


「んもぅ、ベッドが足りないわ」

「雪乃先生、目薬点してちょ」

「雪乃先生、氷枕、こっちもお願いしますぅ」


 雪乃目当てで、男子生徒どもが群がっている。

 災害時か野戦病院さながらの光景であった。

 ふと入口付近を見ると、薫たちが立っている姿が見えた。


「は! カオ、五十嵐さん、丁度良かったわ」

「何だよ、雪乃、先生?」

「アナタ、保健委員でしたわよね?」

「へ? そうでしたっけ?」


 雪乃に委員会名簿を見せられる。


「う。確かに」

「ちょっと手伝って頂戴?」

「手伝えって、何を?」

「この子たちに【ヒール】掛けてあげて?」

「んなもん、お前、先生がすればイイんじゃありません?」

「つべこべ言わずに、早くやりなさい!」

 

 雪乃の無茶ぶりに、薫はキレた。


「こうなりゃヤケだ。レベルUP」キュィィン


 薫は耳たぶを触り、レベルを上げた。


「行くぞ、【ヒール5連弾】!」パパパパパ



「「「「「ふぁうぅぅぅん」」」」」



 薫はすぐにレベルを戻した。

 保健室に来ていた男どもは、薫の【ヒール5連弾】で全回復していた。

 しかし、どうも薬が効きすぎたようだ。


「ああ、薫様ぁ、お美しい」

「はぁ、桃髪の乙女……可憐だ」

「おお、女神様、素敵です」


 連弾を受けた男子生徒どもは、薫に【魅了】されていた。


「へ? 俺【魅了】は使って無いぞ?」

「薫さんって、なんて罪な人なのかしら?」

「雪乃てめえ、ハメやがったな?」

「大丈夫よ。少し寝かせとけば治るわ」

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