エピソードⅡ 一日目 東へ西へ
Ⅱ-①
ペパロニ・フォーレン荘 10月21日(月)07:00時――
二階建てのアパートに、朝日が差している。202号室、雪乃の部屋のドアがバァンと開く。
ゴゥン!ゴゥン!ゴゥン!ゴゥン!
雪乃は、フライパンをお玉で叩いている。
「皆さん、起きて下さいまし、朝ですわよ!」
「ふぁぁあ、おす、雪乃」
「眠ィ、まだ酒残ってんじゃね?」
「雪乃、張り切り過ぎ?」
みんながドアを開け、目をこすっていると、下の管理人室から何やら物音が、バァン!
「火事ですか!? 火元は? って、あり?」
枕を抱いたまま、急いで外に飛び出して来た左京。寝巻姿なのだが、何とパンティ一丁にスケスケのベビードール姿であった。
「うひゃあ、左京さん、その恰好」
「プッ。アタイたちを誘惑しても、何も無いぜ?」
「薫もあのような恰好がお好み?」
「左京、襲っても、イイ? 薫、股間の鎮め方、教えて」
「安心しろ忍。朝のは放っときゃあ治る」
「うわぁ、失礼……致しました」カァァ
あられもない姿をバッチリ見られてしまった左京は、耳まで真っ赤になって謝罪した。
◆ ◆ ◆ ◆
202号室 雪乃の部屋 07:15時――
各自洗顔等を済ませ、雪乃の部屋に朝食を摂りに行く。
ちゃぶ台に人数分のご飯とみそ汁、おかずに鮭の切り身が並んでいる。
みんなが席に着いたのを確認した雪乃は、人数分のお茶を淹れ、みんなに配った。
「すみませんでしたの。つい、いつもの調子でみんなを起こしたくなってしまって」
「は、はぁ。皆さんはいつもこの騒音で起床されるんですか?」
雪乃は結果的に恥をかかせてしまった左京に謝った。
「まあ、いつも大体こんな感じだよな?」
「あの位やらないと誰も起きねぇぞ?」
「左京、あの寝巻、どこで売ってるの?」
三人はそれぞれの意見を述べた。
「そうでしたか。私はてっきり『空襲』でもあったのでは? などと思ってしまいましたよ」
左京は正座してお茶をすすりながら、照れ笑いを浮かべる。
忍は寝巻の事が気になって仕方が無いようだ。
「で、寝巻は?」
「ああ、アレですか? 実は私、本当は全裸の方が安眠出来るんですよねぇ」
「うぇ? マジ、か?」
「マジです。ですがやはりそれではマズいと思いまして、アレを」
「で、どこで売ってるの?」
「大体ランジェリーショップならどこでも。後は通信販売でしょうか?」
忍は腕を組み、ふむふむとうなずいている。
◆ ◆ ◆ ◆
203号室 薫の部屋 07:45時――
朝食を済ませ、各自制服に袖を通す。太刀川魔導高校は、男女共ブレザーである。
薫は女子の制服に、少々戸惑っており、雪乃に手伝わせている。
「うん。こんな感じかしら? やはりハイソックスは紺色ですわよね?」
「アタイは、セーラー服の方が好みなんだけどな」
「アナタの場合、超ロングスカートの下に、ヌンチャク入れたりしそうよね?」
「うっさい。そう言う雪乃は就活ルックかよ?」
「地味な方がイイのよ。目立たないようにしないと」
着替えが終わった頃、忍がドアを開けた。カチャ
「薫、どぉ? これでイイの?」
元々細身の忍であるが、男子の制服姿は相当イケている部類に入る。
「お、イイじゃん。結構モテモテクンになってたりして」
外階段を降りて管理人室の前にいる、左京に挨拶する。
「皆さん、とてもお似合いですよ?」
「左京さんは、これから何するんですの?」
「皆さんを、遠くから見守ります」
「やっぱそう来るよな、監視」
「悪しからず。仕事ですから」
「まあ、イイけどよ」
左京が監視役である事は、当然想定内だ。
「じゃあ、行って来ます」
「行ってらっしゃいませ!」
四人を送り出した左京は、薄笑いを浮かべ、つぶやいた。
「それではミッション、スタートです。プフフ」
◆ ◆ ◆ ◆
アパートから高校まで、徒歩で20分もあれば余裕で到着出来る距離である。
道すがら、リナは気になっている事をみんなに聞いた。
「なあ、アタイたちの設定って、どうなってんのかなぁ?」
「そんな事、行ってみない事にはわからないですの」
「出たとこ勝負、って事か」
それぞれが自分の立ち位置を心配して、押し黙って歩いていると、忍が薫に聞いた。
「薫はトランクス派?」
「あ? そうだな」
「ブリーフはイヤ?」
「俺はな。お前は好きにすればイイと思うが」
「そう。わかった」
そんな他愛ない会話をしていると、前の方からドドドと数人の女生徒が走って来る。
「何だ何だ? おい、学校は反対だぞ?」
不思議に思っているリナの前に立ちはだかった三人の女生徒たちは、片膝を突き、頭を下げた。
「「「押忍。リナ姉様、ご苦労様です!」」」シュ
「何だお前たちは!? アタイに何か用か?」
「へ? お忘れですか? どこか打ったんです?」
お互いに?マークが飛び交っている。
「あ? ああ、夕べな、飲み過ぎちまってな」
「そうだったんスか? さすがはリナ姉様。お酒もお強いとは」
「で、お前らはどこのどいつなんだ?」
「記憶障害でしたか。ならば名乗りましょう!」
「1-B 上條カナ子!」
「1-A 中條シズク!」
「1-C 下条ウラン!」
「「「アタイら太刀川魔導高校『篠田組』ブロンズの三羽ガラスでございやす」」」ビシィ
組体操にありそうなポーズをとる三人。
「は?篠田組だと? 何わけわかんねぇ事言いってんだ? ブロンズだと?」
「はあ、アタイらブロンズの上にシルバー、その上にゴールドがいらっしゃいます」
リナは頭を抱えている。薫は吹き出しそうになるのを堪えている。
「リナ、学年だろ? 多分」
「そうか、で、お前、上條!」
「は、何でしょう?」ザッ
リナは上條を指名し、上條は前に一歩出た。
「今日限りで篠田組は『解散』だ! 上のもんにも言っとけ!」
リナがとんでもない事を口走った為、三羽ガラスは動揺した。
「今、何ておっしゃった?」
「聞き間違いでなければ、『解散』と」
「こりゃあ大変だ! 姉様が御乱心なされた」
三人がおどおどしているので、リナはついにキレた。
「とっとと消えやがれ! アホンダラ!」
「「「ひぃぃ、失礼しますっ!」」」
三羽ガラスはリナに怒鳴られ、ヒクついて学校の方にぴゅーっと走って行った。
「全く、どう言う設定なんだ? 組だと?」
「おい、いきなり解散たぁ、あまりにも可哀そうなんじゃねえか?」
「でもようアネキ、アタイは人の上に立つような器じゃねえんだ」
青い顔をして下を向いているリナに、薫はどう慰めるかを考えていると、
「まぁ、薫お姉様! 御機嫌よう♪」
後ろから来たのは系統で言うと雪乃のようなフリフリのお嬢様系女子だった。
「ご、ご機嫌、よう?」
「あら? お顔が優れませんね? 睡眠は十分お取りになって?」
「だ、大丈夫よ? お気遣いなく」
「少し急ぎましょう。薫お姉様、ささ、お早く」
「そんなに急がなくても、まだ全然間に合うでしょ?」
「何をおっしゃいます! お祈りの時間がおありでしょう?」
「お祈りって? うわぁ」ドドドド
お嬢様系女子は、身体に似合わず物凄い力で薫の手を引き、学校に引きずるように連れて行ってしまった。
「あ、アネキー!」
「大丈夫かしら? 薫」
「行っちゃったね」
残された三人は、暫く立ち尽くしていたが、やがて気を取り直して学校に向かった。
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