第46話 どこのどなた様で?
こんな誰も通らないような道で声を掛けられるなんて思ってもなかった俺は、「うお!」っと奇声をあげて振り返る。
ワイシャツ姿で髭を生やした男が、ニコッと笑いながら俺達の様子を眺めている。
唐突に声を掛けられたこともあるが、男に違和感を覚えてじっと見てしまう。
なんだ? なんで馬車も乗らずこんなとこ歩いてるんだ?
いや、そうじゃない! そもそもこんな服装の人間はこの世界に居ないだろ!
地球では見慣れた光景だからか、一瞬違和感の正体に気が付かなかった自分を叱り、男から距離を取る。
同じタイミングでマリィもみんなに警戒を呼び掛ける。
「みんな離れろ! こいつは敵だ!」
リネット達もその声に反応し、二人の小男を残して男から離れる。
男の背後からもう一人、細身だが筋肉質で目付きの悪い男が現れると、ロープで縛られた小男達は助けを求める。
「だ、旦那達! 助けて下さい! 確かムングスルドに居ましたよね? 俺達はそこの兵士です」
「おっ! そうだったのか! でもどうしてお嬢ちゃん達に捕まえられてるんだ?」
髭を生やした男がポンっと手を叩き陽気に答える。
「いえね。俺達たまたまこの娘達をどうするかって話を聞いてたもんですから、旦那達に代わって捕まえてやろうと思ったんです」
「へえ……。だけど、そのことを知ってるのはごく僅かの人間しかいないはずだけどね? 君達はそこに居たのかい?」
「え!? いや……その……盗み聞きというか……なんというか」
兄貴は言葉を詰まらせ声が小さくなっていき段々と尻すぼみになる。
目付きの悪い男が少々苛立った様子で小男達を問い詰める。
「つまり貴様等は会話を盗み聞き挙げ句、こいつらを捕まえようとしたら返り討ちにあったってことだ? そしておまけに余計なことをベラベラと喋ってた……そうだな?」
「まだ何も話してないです! そんなことより早く縄を解いて下さいよ」
「何を言ってるんだお前等。勝手に人の獲物に手を出したうえに、負けて捕虜になるようなやつを助けるわけないだろ。お前等みたいな情けない生物は生きてる価値なんざないよな? 死ね!」
男は二人の頭を掴んで首に手刀を入れようとするが、髭を生やした男が止めに入る。
「一応あの国の人間みたいだし、殺すと後々面倒なことになるかもしれんからやめておけ」
「あんっ? 元はといえばおっさん達がチンタラしてるからこういうゴミ虫が湧いたんだろ!」
「おっさんはやめろよ! 一応まだ三十代なんだからな」
マリィは呆れた様子で二人の会話に割って入る。
「コントはもういいか? その二人は私達が捕まえたんだから返してもらおうか。こっちも暇ではないし聞きたいこともあるから早くしてくれ」
フィオも髭を生やした男に指を差して催促する。
「久しぶりだねおじさん。そうそう、こっちも急いでるんだから用事あるなら早く言いなよ」
「おう、久しぶりだなお嬢ちゃん達。元気そうで何よりだ。何度もすまないが、今日は戦いにって訳じゃなくて交渉に来たんだ」
「そういえばおじさん、最初会ったときはそんな格好してなかったね」
「はっはっは。カッコいいだろ? それで話があるのは、そこのメガネをかけたお嬢ちゃんなんだ。おっと、その前にこの二人をどこかその辺に飛ばしておいてくれないかバサラ?」
目付きの悪い男は舌打ちをしてロープで縛られた二人を蹴り飛ばす。
二人は空中を舞いながらヒューンと数メートル先にある草木の中へと消えてゆく。
リネットも御者に馬を返し「ここまでで結構よ。荷物は適当に置いといて」と告げ男達に向き合う。
「マリィ達とは知り合いのようだし、私達のことも知ってるようね。姉さんと交渉ってどういうことよ?」
「そろそろ俺達の正体もバレてきてるだろう? まあ、今さら隠しても仕方ないから言うが、俺達はイストウィアからやってきたんだ。目的は……君のお姉さんが知ってるんじゃないか?」
サーシャは少し驚いた表情をして戸惑いながらも心当たりをぼそりと言う。
「お父様とレナードの研究論文……」
「それだ。君のお父上と旦那さんが作り上げたその論文が欲しいんだ。悪いが君達の家の中を調べさせてもらったんだけど、見当たらなくてね。今どこに保管してる?」
「あんなものどうしようというんですか? あれはとっくの昔に破棄しました!」
「確か君も一緒に研究してたんじゃなかったか? だったら口頭でもいいから話してくれないだろうか?」
「そんなのは無理です。私には到底理解出来るものではなかったのですから」
「参ったな……。それさえ教えてくれれば君達の命だけはどうにかなるかもしれないのに。俺は君達を殺したくはない。だから、もし在りかを知ってるなら大人しく話すんだ」
サーシャは沈黙したまま下を向いて何かを考えてるようだ。そんなサーシャにリネットは髭の男の要求を断るよう告げる。
「ダメよ姉さん! こいつらの甘言に耳を貸す必要はないわ! 教えたところで私達を殺すに決まってるし、知らないものは知らないんだから」
「そうだけど、私だけならともかくあなた達の命も狙われてるのよ。私のせいでみんなに迷惑を掛けられないわ」
マリィもリネットに同意をしてサーシャの発言を否定する。
「リネットの言う通りだ。こんな姑息なことしか出来ない連中の言うことなど信用するな。それに私達が助かる方法ならもう一つある! そうだろう?」
マリィはフッと笑みを浮かべるとフィオはウンウンと頷く。
「そうだよ! 全員やっつけちゃったらそれで済む話だからね!」
「あなた達……。そうね! 戦いましょう! そして、みんなでイストウィアに戻るのです」
サーシャもなにかを振り切った顔になり、杖を構える。
髭の男は落胆した様子でため息をすると、目付きの悪い男が大きな笑い声をあげる。
「交渉決裂……だな。はっはっは! 残念だったなフレッド! あんたの顔が胡散臭いから信用してもらえなかったんじゃないのか?」
「笑い事じゃないぜ。帰ったら大目玉だ」
「無駄に俺達のことを話したんだから覚悟するんだな。そんなことよりもう殺していいんだろ?」
「こういう事態に備えてのお前だ。こうなったらやるしかないだろう。お前は黒髪と青いやつを頼む。だが、二人を殺すなよ?」
「知らないな。生きるか死ぬかはそいつの運次第だ。それに生かす理由も今更無いだろ?」
「まあ一応な。俺はピンクのお嬢ちゃん達をやる。どうやら連れて帰って直接頭から吸いだすより他はなさそうだ」
「俺は戦えればそんなことはどうだっていい。ところであの小僧はどうするんだ?」
「俺も知らないが大した戦力では無いだろうから放っておいてもいい。問題は青い髪のお嬢ちゃんだ。まともにエスプリマは使えないらしいが、あの四人の中では一番厄介かもしれん」
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