第45話 ちょっ! 待てよ!

 突然の出来事にしばし呆然とする一同だったが、ハッと我に返り追いかける準備をする。


 ちょっ! 逃げんのかい! 


 俺は慌てて荷物からロープを取り出し後を追う。


 リネット達も追いかけるが差は広がっていく一方だ。兄貴は追いかけてくる俺達に気付いて、後ろを振り返り余裕をみせてくる。


 「ははは! 俺の新スキル【早駆】には付いてこれまい!」


 くっ! このままだと逃げ切られしまうぞ!


 そう思ったその時、後ろから馬に乗ったマリィがやってくる。


 「少し貸してもらった。後は私に任せろ」


 俺は通り過ぎようとする馬にジャンプして後ろに乗る。


 「なっ?! 邪魔だ! 降りろ!」


 「俺の見せ場がなかったんでな。悪いけど乗せてもらうぜ!」


 「ちっ! 私の足だけは引っ張るなよ」

 

 俺達の乗った馬は兄貴との距離をどんどん縮まっていく。


 ヤムーは追い付かれまいとは振り向いてファイヤーボールを打ってくる。

  

 マリィは馬を巧みに操りそれをかわしていき、ある程度の距離まで近づくと片手で手綱を握り、もう片方の手に黒いライフルを出現させ発砲する。


 「うげー! あの女撃ってきましたぜ!」

  

 ヤムーが大声を上げ危険を知らせる。それを聞いた兄貴は的を絞られないようジグザグに走り出す。


 「今のは威嚇だ! 止まらんと次は当てる!」


 マリィは止まる様子のない二人を確認した後、片手でライフルを回転させリロードする。

  

 おお、かっこいい! 某SF映画でバイクに乗りながら銃を撃った後にこうやってるのを観たことあるぞ!


 マリィは狙いを定めつつ、俺に話し掛けてくる。

 

 「お前さっきからそのロープ持ってるが使えるのか?」


 「多分な。もうちょい近づけば投げて捕まえてやるんだが……」


 「なら、私が動きを止めるからやってみろ」

 

 そう言って俺の返答を待たずに、前を走る二人に向かって弾を撃つ。


 パンっ! と音が鳴った瞬間、前方に走ってた兄貴が地面に張り付けられたように、ピタッと足が止まる。


 走ってた慣性が働いて足は直立したまま顔からビタン! と、おもいっきり地面に倒れこむ。


 二人は慌てて起き上がり走り出そうとするが、俺はロープを投げて二人を縛りあげる。

 

 「ふう、どうにかなったな。今の動きを止めるやつどうやったんだ?」


 「影を撃って相手の動きを止めただけだ。あんなのは誰でも出来るから大したことではない」


 いや、普通出来ませんが……。

   

 マリィは平然とそう答えて二人に歩み寄る。

 

 「さて、貴様等がどうして私達を狙ったのか聞こうか?」


 「殺されてもそれだけは言えないな。どうしてもと言うなら金を寄越せ!」


 「……お前達自分の置かれた状況が分かってるのか? 私達が異世界の人間だと知ってるなら、ここで殺人を犯したところで罪には問われんことも分かるだろ?」


 ヤムーの頭にライフルを突き付け引き金に指をかける。


 「ちょっ、おい! 本当に殺すつもりかよ!?」


 俺はマリィの肩を引っ張って止めさせようとするが、それを振りほどき今度は俺に銃口を向ける。


 「前にも言ったがこれは遊びじゃないんだ。お前みたいになんの覚悟もないような人間が首を突っ込んでいいものではない」


 「そうかもしれないけど、そこまでしなくてもいいだろ!」


 「……やはりお前を連れてきたのは間違いだったようだ。やはりあの時殺しておくべきだったな」


 マリィが俺にライフルを向けたまま睨み合いが続く。


 どうしようかと考えていたら、後ろからリネット達の声が聞こえてくる。


 「どう? いきなり走り出して逃げるなんてビックリしたわ。……それで、あなた達は何してるのよ?」


 マリィが俺に向けた黒いライフルを見て、ただ事ではないと思ったのか仲裁に入る。


 「マリィ……あなたがどうしてもと言うなら私も考えてるから銃を下ろして?」   


 マリィ何も言わずライフルを再びヤムーに突き付ける。


 「こいつらが誰に頼まれたのか話さないからって殺すつもりなんだよ。リネットからも止めてくれ」


 リネットは答えづらそうにマリィを庇う。


 「……それは仕方ないわ。私達もこの世界で命のやり取りをしてる以上、殺すことだって殺されることもあるのよ。殺したりなんかしたくないけど私達も必死なの」


 そう言われてしまえば俺もこれ以上何も言えなくなってしまう。


 「確かにそうだけど殺すの良くないよ。殺したら自分も一生苦しみ続けることになる……」


 リネットも黙ってしまい俺もマリィになにも言えずにいたら、少し遅れてやってきたサーシャが俺に賛同してくれる。


 「そうよ。殺しは良くないわマリィ。そこまでしなくても、要はその二人が誰に頼まれたか言えばいいんでしょ?」


 サーシャ! やっぱりサーシャ解ってくれた!


 思わぬ援軍に歓喜してマリィ達に説得を試みるつもり……だったが。


 「だったらまず逃げられないように足の腱を切断して監禁しましょう。その後交代で不眠不休の尋問をして、それから爪の間に針を一本一本刺していくの。これで大抵の人間は白状するけどそれでも無理そうなら……」

 

 おいおいおい! 発想が鬼畜過ぎるだろ! それならいっそのこと殺してやった方がマシだろ!


 忘れてた……。サーシャには狂気の一面があることを……。


 サーシャは笑顔でマリィに提案するが、さすがのマリィも顔がひきつっている。


 「いや……サーシャ……。それの方が酷くないか?」

 

 サーシャ推奨の、殺さないで拷問をするという話を聞いていた二人は、あたふたして今にも泣きそうな声を上げる。


 「調子に乗ってすいません! なんでも話しますからそれだけはご勘弁を!」


 「あら! 話してくださるんですか!? 私達が人を殺すような人間じゃないことが伝わったのね。良かったわねマリィ」


 サーシャはどうして喋る気になったか理解してない様子で、ニコニコと笑顔で手を叩く。


 天然なのか計算なのか分からないが。多分前者だろうな……。


 小男二人を五人で取り囲んで、リネットが聞いてみることに。


 「まったく。最初から素直に言えばいいのに。で? どうして私達を狙ったの?」


 「別に誰かに頼まれたのわけではないんですが。たまたま皆さんの顔を知ってまして……」


 ようやく喋りだした話に耳を傾けて聞いていると、「何を話してるんだい?」と不意に横から聞き慣れない声の主に声を掛けられる。


 

 


 


 


 

 


 

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