第44話 襲撃?

 ロルローンから出発してしばらく馬車を走らせた頃、フィオは暇そうに足をバタつかせる。


 「グラヴェールに戻るならあそこに居れば良かったね。もう馬車は疲れたよ」


 「そう言うな。これは任務なんだから我慢するんだ。……まあ、確かに移動ばかりだと飽きてくるが」


 そんなフィオにマリィは軽く注意するが、本人も馬車疲れとでもいうのか、窓際に肘をかけて眠そうにしている。


 俺もこの世界に来てから馬車生活が長いから疲れるのは解るなあ。


 俺は先程買った土産物のオモチャを取り出して遊んでいるフィオに声を掛ける。


 「次の町に着けば飯でも食べてリフレッシュしようぜ。もうちょいの辛抱だ」


 「そうだね! 着いたら美味しいものでも食べようよ!」


 俺がそれに対して相槌を打とうとした瞬間、馬車が突然急ブレーキで止まり体が前のめりになる。


 うお! なんだ! 危うく舌を噛みそうになったじゃないか。


 馬車の中に緊張感が走りサーシャ達はすぐさま外に出る。


 俺も続いて外に出ると道の中央を二人の小男が塞いでいる。


 小男の一人はニヤニヤと笑いながら、腰から短剣を抜いて俺達に質問してくる。


 「おい! お前達は異世界からやって来た奴等だろう? さっきロルローンで変な生き物と長い物を出してるのを見たぞ」


 「なんのことです? いきなりそんなこと言われても私達にはなんのことかさっぱり分からないです。人違いですのでそこを通して下さいませんか?」


 リネットが涼しい顔でとぼけてみせたら、短剣を持った小男は戸惑ってしまう。


 「え!? そうなのか? いや、確かに見たはず……。だよなヤムー?」


 「えーと……。そのはずですぜ兄貴。俺も青い髪をしたチンチクリンの女が、変な生き物をいきなり出現させて戯れてるの見ましたぜ」


 ヤムーと呼ばれた小男も少し戸惑い気味でそう答えるが、それを聞いた兄貴と呼ばれた小男は再び威勢を取り戻す。


 「やっぱりお前達だろ?! しょうもない嘘はやめにしてもらおうか!?」


 リネットはやれやれといった顔で小男に質問をする。


 「で? あんた達なんなの? 私達をどうしようっての?」


 「俺達が誰かなんてお前達には関係ない。ロルローンで特に何も掴めなかったからどうしようかと思っていたが、お前等に会えるなんてツイてるぜ! 恨みはないが俺達の手柄のために死んでくれや」


 ん!? 


 「おい! お前等もしかしてムングスルドの偵察兵かなにかか?」


 俺がそう言うと二人の小男は激しく動揺する。


 「そそ、そんなわけないだろ?!」


 「どうせロルローンでジュラールのこと探ってたんだろ? でもなんで変な生き物を出したくらいで異世界の人間って判るんだよ?」


 「う、うるさい! いくぞヤムー! 路地裏の悪夢と呼ばれた俺達の力を見せてやれ!」

 

 「おうよ! ファイヤーボール乱れうちぃ!」

 

 ヤムーは問答無用で手のひらから火の玉を出現させて、次から次へとこちらに向けて飛ばしてくる。


 「青き翼よ! 迫り来る脅威から我らを守りたまえ!」


 背後からサーシャがそう叫ぶと、俺達を守るように巨大な青い翼が出現して火の玉跳ね返す。


 火の玉を跳ね返した青い翼は羽をハラハラとさせながら散っていく。


 「ソウタは馬車をお願い!」


 リネットはそれだけ言い残し、一足飛びでヤムーに近づいて、顔面にドロップキックをかます。

 

 俺は御者と馬車を後ろに下がらせ木剣を構える。


 顔面を蹴られて吹き飛んだヤムーが起き上がり、顔に付いた泥を払い怒りの表情を浮かべている。


 「このアマ! 舐めた真似しやがって! まとめて焼いてやる! 《ファイヤーウエイブ》!」

 

 ヤムーが両手を前に出す。


 すると、突如炎の波が現れてリネット達を襲う。


 リネットは「クゥ・ド・ヴァン!」と言いながら二本の青い短剣を振る。


 短剣から強風が吹き荒れ、その風が炎の波を押し返して、周囲の炎をあっさり掻き消す。


 「この程度の火で私達を焼こうですって? 笑わせないでよね。さあ、あなた達が誰に頼まれたのか教えてもらいましょうか?」

 

 リネットはフッと笑い、ヤムーに短剣を向ける。ヤムーは勝てないと悟ったのか、もう一人の小男に助けを求める。


 「兄貴! こいつら強いぜ! ん? 兄貴どこ行った?!」


 ヤムーはキョロキョロと辺りを見回して、兄貴を探してるようだが、姿が見当たらずに焦ってるようだ。


 「ふふっ、ヤムーよ。俺がお前を置いて逃げると思ったか? 後は俺に任せろ」


 姿は見えないがどこからか声だけは聞こえてくる。リネット達も声が聞こえる方向に目を向けているが特定できずにいる。


 「怖いだろう? これが俺様のスキル【カモフラージュ】だ! そしてこれだけではない!」


 地面を激しく走る音が聞こえ、見えない攻撃でリネットの服が切れる。

    

 気配を察知して間一髪避けたリネットは反撃をしようと辺りを見回しているが、どこにいるか分からないようだ。


 「よくかわしたな。だが、俺の姿が分からん限りお前達に勝ち目はない」


 そう言うと再びタタタッ! と素早く走る音だけが聞こえてくる。


 見た目に騙されて甘く見てたけど案外強いんじゃないか?! 


 敵の位置が分からないからこちらから攻撃が出来ないし、見えない攻撃を避け続けるのも厳しいぞ。


 「いくぞ? いくぞ? はっはっは! いつ仕掛けてくるか分からない攻撃に怯えるがいい!」


 徐々にリネット達を取り囲むよう走ってくる音が聞こえてくる。


 リネットは音の鳴る方を目と耳で追っていたら、不意にフィオが足を前に出す。


 「ぐわあ!」と言う声と共に、どこかでゴロゴロと転がる音と激しく木にぶつかる音がする。


 音のする方向に目を向けてみる。


 見ると、ぶつかった衝撃で木の枝が揺れていて、その木の根本には兄貴が腰に手を当てて痛がってる姿が見える。


 「くそう! どうして俺の位置がバレたんだ?!」


 兄貴は急いで立ち上がりまたもや姿が消す。


 「さ、さっきのはまぐれのはず。今度こそ終わらせてやる」


 すると、さっきと同じようにリネット達の周りを走っている音が聞こえてくる。


 「ふははっ! お前達は俺に触れることなく死ぬのだ! 一方的になぶり殺してくれるわ!」


 くっ! カモフラージュどころか完全に姿が見えないじゃないか。


 リネットが必死に音の鳴る方を凝視していたら、フィオが今度は何もないところで「とうっ!」と横蹴りをする。


 ドゴッ! と鈍い音が鳴った瞬間、兄貴の「ぐわあ!」と叫ぶ声が聞こえてくる。 


 数メートル離れた場所で兄貴が胸を押さえながら立ち上がる。


 「なんで?! お前さっきからどうして俺のいる場所が分かるんだ? まさか見えているとでもいうのか?」


 「見えないよ。けどなんとなくそこに居るかなって」


 「なんとなく……だと? ふざけた子供だな! おいヤムー!」


 呼ばれたヤムーはすかさず兄貴の元に駆け寄り、お互いに顔を見合わせ頷き合う。

  

 なんだ!? まだなにか秘策でもあるのか?


 「乗れヤムー! 逃げるぞ!」


 兄貴はヤムーを背中に乗せ、猛スピードでその場から走り去ってゆく。


 


 

 


 


 

 


 



 


 

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