第36話 ジュラール その人となり

 男が俺に「頼んだぞ」と言い残して、その場から去っていくのを見送った後、とりあえず馬車を走らせることにする。

  

 車内には姫と呼ばれた少女が乗っていて、俺が椅子に座るとこちらに向かって頭を下げる。


 「先ほどは助けていただいてありがとうございます。お怪我などはありませんか?」


 「ああ、怪我はなかったから安心してくれ。それより、あの人はそんな悪そうな感じには見えなかったし、君のことを姫って呼んでたように聞こえたけど、どういうことか説明してくれるかい?」


 「はい。私はニフソウイ国を治める国王の娘でアナスタシアと言うものです。あの者達はロルローンの騎士団の人間で、逃げ出した私を連れ戻しにきたのです」


 本物のお姫様かよ! それにニフソウイの国王がいるところって、確か首都のロルローンだから今から行く場所じゃないか。


 「どうしてそんなお姫様が国から逃亡したんだ? いやその前にあの団長って人、もしかして騎士団長とかじゃないよな? もしそうなら君をちゃんと送り届けないと殺されるんじゃ……」


 「ええ、あの者はロルローンの騎士団長です。その気なれば無理矢理私を連れ戻すことも出来たはずですが、戦ってみてあなたが信用に足る人物だと思ったんでしょう。だから、無理に私を連れて帰るよりあなたに任せた方がいいと判断したんだと思います」


 下手したらロルローンの騎士団を敵に回してたってことか……。


 「それで? もう逃げなくてもいいのかい? まあ、逃げられたら俺の首が飛ぶだろうけど」


 「逃げたらあなたに迷惑が掛かるのを見越したうえでの判断でもありますからね。一旦城に戻るしかないです。ところでお名前を伺ってもいいですか?」


 「そうだった。俺はソウタって名前だ。一応冒険者ってところかな。俺もロルローンに向かってるから、約束通り送っていくよ」


 「珍しい名前ですね。私のことはアナとでも呼んで下さい。ご迷惑をお掛けしたのでなにかお礼をしたいですから、是非お城に寄っていって下さい」


 命があっただけでも儲けもんだが、ジュラールのことで何か知ってることがあれば聞いてみたいな。


 ロルローンまではもう一つ町に寄らなければならから、連れて行くのは明日になるか。


 町に着いて宿屋を探した後、アナを食事に誘う。


 「お腹とか空いてない? あれだったら一緒にどこか食べに行かないかい?」


 「いいですわね! 実は私、二日間なにも食べてなくてお腹が空いてるんですの」


 「ドレス姿であんなところにいたのをみると、着の身着のままで出てきたって感じだよね?」


 「そうなんです。お小遣いだけ持って城を出てきたんで、他には何も持ってないんです」


 「ある意味見つかって良かったかも。一人であんな格好してたら目立つし、本当に悪い奴等に誘拐されてたかもしれないよ。じゃあとりあえず行こうか」


 食事が出来そうな場所を町まで探しに行ってみると、アナは物珍しそうに店を眺めている。


 「食べたいものとかあるかな? 俺もあまり詳しくないから、行きたいところがあれば

言ってくれ」


 「色んなお店があるんですね。夜の町など来たことありませんから新鮮ですわ。私もこのように場所で食べたことがないので、ソウタ様にお任せしますわ」


 悩んだ結果。たれの焦げた匂いに食欲にそそられ、もくもくと煙が立つ串焼きのお店に入ることにことにする。


 「ここでどうかな? 野菜とか海鮮とかもあるみたいだし、自分で食べる量を調節出来るよ。それにこの匂いがまた堪らないな」


 「いい香りですわね。食材を串に刺して焼いた物など食べたことがありませんわ」


 席に着いて、さっそく注文して食べ始める。

 

 「うまい! 色んな店で食べてきたけど、この炭火のような香りとシンプルな味付けは無かったからな。アナの口に会うかい?」


 「はい! とても美味しいです。普段はコースで食べてますから、こんな風に自分で好きなものを選ぶことなどありませんから楽しいですわ」

  

 お嬢様だから庶民の味を知らないんだろうな。とにかく喜んでもらって良かった。


 「にしても、なんで一人城を飛び出したりなんかしたんだ? 頼めば護衛してくれるんじゃないのか?」


 「ロルローンの元騎士団長であるジュラールって人を探そうとして城を出たんです。反対を押しきってのことでしたし、城の人間以外に知り合いもいないので誰にも相談できなくて……」

 

 「ジュラールって、あのギフトを盗んだってやつか? 知り合いとはいえそんな人間を探してどうするつもりだったんだい?」


 「はい。ジュラールは誰よりも聡明で団員からの信頼も厚い人でした。そんな人がギフトを盗むようなことをするとは思えません。仮にそうだったとしても必ず事情があるはずですし、悪いことに使うとは考えられないのです。ですから、彼を探しだしてことの真相を問いただすつもりでした」


 「俺も噂には聞いてるけど今のところ手掛かりはないし、目的もはっきりしてないみたいだ。ギフトを盗むようなやつだから、極悪人かと思ってたんだけど結構な人格者なんだね」


 「異世界から召喚した勇者などという輩が探し回ってるみたいですが、まだ見つかってないようですね。もし見つかればジュラールが抹殺されてしまうかもしれないので、その前にどうにかしないといけません」 


 お姫様にここまで慕われてるジュラールってどんなやつなんだ? 話を聞く限り何も考えずギフトを盗むようなやつとは思えないな。

 

 「騎士団を退団した後に何かあったのかもしれませんが、彼に付いていった団員もいます。真相は分かりませんが、もし道を過ったのなら彼等が正してくれるはずですし私は彼を信じています」


 「……好きなんだな? そのジュラールって人のこと」


 アナの顔がみるみる赤くなり、手で顔を扇ぎだす。


 「き、急に何を言い出すんですか!? 違います! そうではなくて……その、まあ……確かに憧れてはいますけど……そんなんじゃないです」


 「ははっ、別にからかうつもりはなかったけど顔に出てからさ。でも、アナにそこまで言わせるジュラールって人に俺も会ってみたくなったよ」


 「それはきっと私だけではありません。彼に付いていかなかった他の団員もそう思ってるはずです」


 なんか思ってたのとは違って、話せば分かってくれそうな人物かも。ギフトとか関係なく本当に会ってみたいな。




 


 


 


 


 

 


 

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