第37話 ロルローンの騎士団長

 翌日、ロルローンの着いた頃には空が赤くなり始めていた。


 アナに案内されて付いて行くと大きなお城に到着する。


 サルブレム並みに大きい城だな。疑ってたわけじゃないけど、本当にお姫様だったんだ。

  

 城の門番がアナの顔を見るやいなや「姫!  よくぞご無事で!」と城内に通してくれる。


 そのままアナは俺の手を引いて兵士達が訓練しているところへ連れていく。


 へえ、かなりの大人数で稽古してるんだな。訓練でも実戦を想定してアーマを着用して戦ってるんだろうけど、かなりキツいだろうな。

 

 アナはキョロキョロと辺りを見渡し、一際大きな声を出して兵士達に叱咤激励している男性を呼ぶ。

  

 「ガレイーン! 戻りましたわ!」


 男はアナと俺に気付き大きく手を振りながらこちらに向かってきて、俺の肩をポンっと叩く。


 「約束通り連れてきてくれたんだな。さすが俺の見込んだ男だ。はっはっは!」


 アナを探しに来ていた男が嬉しそうに笑っていたのも束の間、アナの方に向き直ると笑顔が消えて説教が始まる。

 

 「姫さんもあまり心配をかけなさんな。自分の立場というもの考えてもらわないと困りますよ。後でお父上にもちゃんと謝るんですよ? いいですな?」


 アナは親に叱られた子供のようにしょんぼりして肩を落として、男に謝罪する。


 「ごめんなさい、ガレイン。あなたにも心配をかけましたね。どうしてもジュラールを探したくて……」


 「それならこっちでも今探してますから、しばらく待ってて下さい。勝手に行動されると探せるもんも探せませんよ? まあ、気持ちは分かりますが一人でどうにかなるもんじゃないですからな」


 「身に染みましたわ。私のような世間知らずが外に出ても何も分からなくて正直不安でした」


 「それが解っただけでも出ていった甲斐があったというものです。今後はこんなことしないで下さいよ。何はともあれ御身が無事で良かった」


 ガレインは厳しい顔つきからホッとした表情になり、頭に手を置く。


 すると、アナスタシアは張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、急に泣き出して抱きつく。


 「ちょっ! 姫さん。部下も見てるし、恥ずかしいから止めてください」


 ガレインは困った顔で言うが、泣いてるアナスタシアは離そうとしない。

 

 「参ったな。娘にもこんなに泣かれたことないぜ」


 ガレインさんも仕事で探してるみたいな感じだったけど、実際かなり心配してたんだろうな。


 ことの成り行きを見守っていたら、ガレインさんが俺に改めて感謝の言葉を述べる。


 「変なお家騒動に巻き込んですまなかったな少年。あのまま連れて帰ってたらまた逃げ出すだろうと思って、お前さんに託したんだが正解だったようだな。俺はこのロルローン騎士団を任されてるガレインだ」


 「いえ、どちらにしろロルローンに来る予定でしたから。それに一人旅で寂しかったから話し相手が出来てちょうど良かったです」


 「短い旅とはいえ、わがまま姫だから大変だっただろう? はっはっは! そうだ! 何か礼をしないとな。ちょっとその腰のものを見せてくれ」


 わがまま姫に反応したのか、アナスタシアが泣きながらお腹を叩く。


 「うごっ! そんなに怒るなよ。でも、それだけ元気があれば大丈夫そうだな。ちょっとこいつに話があるからその辺で待ってください」


 アナスタシアは黙って目を擦り、近くの椅子に座りに行く。


 俺が腰に差してあるブロードソードを渡すと刀身を少し眺めて鞘に戻す。


 「あれだな。新しい剣なんかどうだ? 今お前が使ってるこの剣は初心者用のやつだろ? 木剣で俺と戦うようなやつが随分お粗末な代物を使ってるんだな。そのくせ首にぶら下げてる魔法石は一級品みたいだし。わけのわからんやつだ」


 「新しいやつを買おうと思ったんですけど、ある人にしばらく木剣を使えって言われたから買わなかったんです。それに良い剣が売ってるところも知らなくて」


 「驚いたな。お前さんほどの腕があって木剣を使えってのか。でも一応もしもの時に備えて持っておくといい」


 そう言って訓練場の奥から一本の剣を持ってきて俺に渡す。


 「これなんか使いやすいんじゃないか? 片手剣で長さもそんなに変わらないし、重さも少し軽いだろう。新品ではないがメンテナンスはしっかりしてあるし、その辺の冒険者が持ってるものよりも断然いいぞ!」


 剣を抜いて構えてみる。


 確かに柄の部分が前のやつより握りやすいし、重さも少し軽いので振りやすい。


 「すごくいいですね! 前のやつに比べると段違いで使いやすいです。でも、送り届けただけなのに、こんなのもらっていいんですか?」


 「構わんよ。ちょっと前に騎士団長をしていたやつが片手剣を使っていてな。そいつがいなくなってから使うやつも減って、どう処分するか悩んでたところだったんだ」


 「ジュラールって人ですよね? そういえば俺のことその人の仲間だと思ってませんでしたか?」


 「ああ、あいつも変な構えで片手剣を使って戦ってたからな。それを部下も真似してたから、そいつらに教わったんじゃないかと思ったんだ」


 「アナに話を聞きました。なんでも、いろんな方に信頼されてたらしいですね。一度でいいから俺も会ってみたくなりましたよ」


 「やめとけ、やめとけ。あいつにはどう逆立ちしても勝てないぞ。なんせ俺が騎士団長の座を譲ったくらいのやつだからな。入団してあっという間に騎士団長になったのにすぐ辞めやがって。まったく、どいつもこいつも責任感がなくて困る」


 ガレインさんが呆れたように首を横に振る。


 「いえ、戦ってみたいからじゃなくて、アナがあんなになって探す人ってどんな人なのか気になって」


 「全てが規格外のやつだよ。剣の腕にしても頭の回転にしても誰よりも優れてたし、おまけに人格者で面も良いんだからタチが悪いぜ! うちも探してるが、姫さんはあいつにぞっこんだから居ても立っても居られなかったんだろうな」


 「ははっ、ガレインさんも嫉妬するくらいの人なんですね」

 

 「まあな。あいつほどの人間はどこにも居ないと断言してもいい。それにしても、あのバカどこほっつき歩いてんだか。お前も名前くらいは知ってるらしいが、今や世界中のお尋ね者だから探そうなんて思わんことだ。そういやお前の名前を聞いてなかったな」

 

 「そういえばそうでした。紹介が遅れました、俺はソウタって名前です」


 「ソウタ? 珍しい名前だな。生まれはどこなんだ?」


「……実は俺、こういう人間なんです」


 ポケットから勇者を証明する金のプレートを出して見せる。


 ガレインさんが「何だ?」とそのプレートを手に取って見る。


 プレートを少し見た後、ガレインさんの顔色がみるみるうちに変わっていく。


 「これはサルブレムの国章か……。お前、異世界から召喚された勇者だったのかよ。お前達のことは話には聞いている。どうりで変な装備してるわりに強いと思ったぜ。ジュラールの居場所でも探りに来たのか?」


 「まあ……そういうことになります。アナに会ったのは偶然ですが、ジュラールさんについて知ってそうなことがあれば聞こうと思ってました。ただ、俺は勇者とか関係なく個人的にジュラールを探してるんです」


 「姫の件は感謝するが、知ってても教えるわけにはいかんな。それと悪いがその剣を返してくれ。ジュラールを倒そうってやつにくれてやるわけにはいかんのでな。お小遣いでも貰ったらさっさと帰るんだな」


 ガレインさんが俺から剣を取り上げて、訓練場に戻ろうとする。


 話を聞いてるとジュラールとは同じ騎士団の仲間だったのもあって心配してるみたいだしな。


 俺が知らないふりして探りを入れたらそりゃ怒るよな。


 

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