第35話 別れと出会い
翌日の朝。馬車が来るところまでアリエルが見送りに来てくれる。
「では、気を付けてな」
「色々ありがとう。帰ったらまた会いに行くよ。セレーナには用事があるとは言っておいたから、問い詰められることはないと思うよ」
「それは良かった。セレーナに怒られるのはこりごりだから、なんと言おうか考えてたところだ」
「ははっ。帰ったら今度三人で食事でもしよう」
「ならば私達の行きつけの店を紹介しよう。おっ、馬車が着たようだぞ」
「じゃあ行ってくるよ。セレーナにもよろしく言っといてくれ」
アリエルに別れを告げて、馬車に乗り込みニフソウイへと向かう。
ニフソウイまで結構あるな。アリエルから貰った報酬があるから旅費はどうにかなりそうだけど、いくつかの町を経由することになりそうだな。
まあ、こればかりはどうしようもないし、のんびり行くとするか。
ニフソウイに向かってることをサーシャ達に連絡してみたところ、彼女達の方が少し早く到着するらしい。
道中ニフソウイまでの行き方を町の人に聞きながら、なんとかニフソウイ国内に入ることが出来たので、首都ロルローンを目指す。
しかし、一人だと話し相手もいないから長く感じるし寂しいもんだな。
次の町に向かって街道を走っていたら、馬車が急に止まり女性の声が聞こえる。
なんだ?! 人でも倒れたのか?
何事かと馬車から降りてみる。
すると、可愛らしいドレスを着た十六才くらいの少女が御者に助けを求めてる。
「悪い人達から追いかけられてるんです! お願いですから乗せていただけませんか?!」
「そんなこと言われてもねえ……」
御者が困ったようにこっちを見るが、俺も突然の出来事にどうしていいか分からない。
「えーと。君は一人でこんなところまで来たの?」
「そうです! ですから早く乗せて下さい! お金ならば後でいくらでもお支払いします」
うーん……。こんな人里離れた場所でドレスを着たお嬢様が一人で居るか? もしかしたら俺を狙ってる奴等の仲間なんじゃないか?
「その悪い人ってのになんで追われてるんだ?」
「もういいです! ただ、誰かに私のことを聞かれても知らないとだけ答えて下さい」
少女が諦めてその場から立ち去ろうとしたそのとき、三人の男がこっちに向かって走ってくる。
「いたぞ! こっちだ!」
その声に気付いた少女が俺の後ろに隠れる。
おいおい、本当に追われてるのか? だとしたら乗せてやれば良かったか。
「ようやく見つけましたよ。さあ、早く帰りますよ」
男達がこちらに近づいてきて、後ろに隠れてる少女に向かって言うも、少女は動こうとはしない。
「そう言って私を殺しに来たんでしょう? 私は騙されませんよ!」
「何を言うんですか! まったく……これ以上手間を掛けさせないで下さい。そこの少年にも迷惑が掛かるでしょう」
男の一人がやや呆れ気味に少女を連れていこうとするが、少女は抵抗する。
参ったなあ。状況が飲み込めないけど、このままこの少女を見過ごす訳にもいかないか。
「まあまあ、ちょっと待ってくださいよ。嫌がってる少女を無理矢理連れて行くのは良くないんじゃないですか? 事情は分からないけど、悪い人に追われてるって言ってましたし」
「そんなことを……。まあいい、お前には関係ないことだ。すっこんでいろ」
「随分な言い方ですね。確かに関係はないけどこのままだと後味が悪いから、俺が責任を持って彼女を送り届けますよ。それでどうですか?」
「冒険者風情が調子に乗るな。我々の邪魔をするなら痛い目に合うぞ?」
男は腰に差した剣を抜いて脅しをかけてくるので、負けじとこちらも腰に差した木剣を抜いて応対する。
「ははは! なんだ小僧そんなもので戦うのか? いいから大人しく引いておけ」
「しばらくこれを使えって言われたんでな。そっちが引けばこちらも引こう」
男が「チッ!」と舌打ちをして剣を振り下ろしてくる。
遅い!
相手の懐に飛び込み体を密着させて、木剣で相手の体を押しやり吹き飛ばす。
それを見ていた二人目の男が剣を抜いて襲いかかってくる。
二人目の男も同じように密着して、剣を持ってる方の腕を木剣で押さえつけ、そのまま体全体を半回転させ相手を転倒させる。
二人の男は起き上がって剣を構え直し、今度は警戒して左右に展開する
ここまで黙って見ていた四十歳くらいのがっしりした体躯の男が口を開く。
「やめとけ、やめとけ。お前等じゃその少年には勝てんぜ」
「だ、団長。しかし、このまま取り逃がすとまた探すのが大変ですよ」
「はっはっは! 確かにもう勘弁してもらいたいもんだ。だが、こんな面白そうな少年に出会えたんだから人探しも悪くないな」
「まさか団長自らこの少年と戦うんですか?」
団長と呼ばれた男は何も返答せず、俺の方を向いて背中から大剣を抜く。
「……もう一本の方の剣を抜け。俺達も黙って帰ってやるわけにはいかんのでな。最悪死ぬことになっても恨むなよ」
剣を持った瞬間目の色が変わった?!
「いや、俺はこっちでやらせてもらう。どっちにしろそんなもの受け止められないだろうしな」
「なら好きにしろ。こちらからいくぞ!」
男は両手で大剣を握りしめて走ってきて、下から上に向かって剣を斬り上げる。
足元から迫る剣を避けて一旦距離を取る。
大振り! だが早いな! それに力もありそうだから、当たったら真っ二つにされそうだ。
とはいえ、細かい動きは出来ないだろうし早さならこっちの方が上のはずだ。
俺はいつも通り片手で剣を持って懐に飛び込もうとするが、相手の威圧感に気圧され足が前に出ない。
なんだ? 体が飛び込むのを躊躇してるのか……。くっ、怯んでる場合じゃないだろう、ここでいかないとやられるの待つだけだ!
俺は勇気を振りこちらから先に攻撃を仕掛ける。
男は近づけさせないように剣を横になぎ払ってくる。しかし、ギリギリの距離でこれをかわす。
この隙を逃さずこちらの攻撃が届く間合いに入り、一気に畳み掛ける。
あれだけの重さならすぐには次の攻撃に移れないはず。
男は後ろに下がりながら距離を取ろうとするが、攻め続けて距離を取らせないようにする。
押しきれるか? そう思った瞬間不意に腹部に強い痛みが走り後方に飛ばされてしまう。
ぐふっ! 何だ!?
何が起きたのか倒れたまま男の方を見上げると、男は俺の腹を蹴り上げたらしく足を上げている。
「お前……まさかジュラールの仲間か?」
「ジュラールの仲間だって? 名前だけなら知ってるが顔を見たことすらないよ」
俺は腹部を押さえながら起き上がり木剣を構える。
しかし、男はそれを無視して大剣を背中に戻す。
「そうか……ならいい。しかし、中々やるじゃないか少年。俺に足を使わせるとは大したもんだ」
「こっちはあんたの攻撃が当たったら即死なんだから、反撃をされないように必死さ。でもまさか蹴ってくるとは思わなかったよ」
「まあ、使ってる本人が一番武器の強みと弱点を分かるからな。弱点を補うためには色々と工夫するもんさ。さて、じゃあお前等戻るぞ」
まさかこれで帰ってくれるのか?
団長と呼ばれた男が二人の男に命令して帰ろうとするも、男の一人がそれを引き留める。
「でも、三人で取り押さえて強引にでも連れて帰ったほうがいいんじゃないですか?」
「いや、その必要はないだろう。後はその少年に約束通り送り届けてもらおう。姫さんもそれでいいだろ?」
「……仕方ありませんね。後で彼に送ってもらいます」
後ろで戦いを見守っていた少女が、男の言うことに渋々納得すると俺の乗っていた馬車に乗り込む。
ええ!? いやいや、確かに送り届けるとは言ったけど、未だに状況がわからないんだからせめて説明していってくれよ!
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