第34話 また服が穴だらけに
アリエルに運ばれてる最中に寝てしまってたらしく、ベッドの上で目を覚ます。
ベッドから起き上がってみたら、上半身には包帯が巻かれており傷口が少し痛む。
ここは病院なのか? 周囲を見渡すと、小さな椅子でアリエルが寝ているのが見える。
俺が起きたのに気がついたのか、アリエルも目を覚ます。
「おお! 目を覚ましたか。なかなか起きないから心配したぞ」
「心配かけたな。ずっとそこに居てくれたのか?」
「そうだ、診療所に着いたら意識がなかったから気になってな。傷口は大したことはないみたいだが出血は結構あったらしい」
「ごめん。意識が無かったのは多分疲れて寝てしまったんだと思う。傷は少し痛む程度ですぐにも動けそうだよ」
「はっはっはっ! なかなかの重労働だったうえに戦闘もしたからな。それは疲れて寝てしまうか。ここから出る手続きをしてくるから少し待っていろ」
アリエルは部屋を出ていったので、俺も帰る準備をするためにハンガーにかけてある穴だらけの服を着る。
アリエルが戻ってきて診療所から出た後、とりあえず服を買いに行くことにする。
「服も体も穴だらけにさせられたな。またあいつと戦うと思うとそれだけで嫌になるな」
「しかし、あのエイドとかいう青年に感謝するんだな。おかげでまた一つ強くなれたことだし、あの戦いで得た収穫は大きいだろう」
「まあそうなんだけど、出来ればあの技はやめてほしいな。でも、助言もあってなんとか応戦することが出来たよ。アリエルも剣とか使えるのか?」
「私を誰だと思ってるんだ? 剣の道くらいは心得てる。ギフトを売るにはまず自分が使いこなせないと話しにならないからな」
「毎回無茶苦茶なことばっかり言ってるからあまり信用出来ないはずなんだけどさ。たまに良いこと言うからな」
「失礼な。頭で理解するのではなく感覚を研ぎ澄ましていくと良いだろう。あの木剣をしばらく使ってみるといい。確かに強い武器を手に入れればすぐには強くなるが、本当の意味での強さは手に入れられんからな」
「精進するよ。そういえば、エイドが使ってた武器ってどういう仕組みなんだ?」
「私もあんなものを見たことがないから驚いたよ。あのような不可思議なものはこの世界に存在しないはずだ」
そうか、やっぱりリネット達と同じ世界から来た可能性があるな。後でサーシャ達に連絡してみるか。
宿屋に戻ってきたので先に購入した服に着替えて、荷物の中から貰った通信機を取り出す。
早速サーシャに連絡しようとしてみたところ、通信機ピカピカと点滅しているの気付く。
登山に行ってる間に連絡があったようだな。エイドの件もあるから報告しとくか。
側面にあるボタンを押してしばらく待っていたら、向こうからサーシャの声が聞こえてくる。
「ソウタさん? 聞こえますか?」
「サーシャ? ああ聞こえるよ。なんか点滅してるんだけど、連絡した?」
「ええ、実はまた謎の敵が襲ってきたのでソウタさんも襲われてるんじゃないかと思って連絡しました」
「こっちにもこの間の針男が来たよ。なんとかなったけど、そっちは無事か?」
「やはりそうでしたか。こっちもどうにか撃退はしましたが、また現れそうなんで気をつけて下さい。ともあれ無事で良かったです」
「お互いにな。今回戦ってみて分かったんだけど、あいつらの使う武器ってサーシャ達のやつに似てないか?」
「そうなんです。こちらも同じことを話してたんですが、私達の世界から来た可能性が高いですね。目的は……多分私だと思います」
「え? でも、二人はこの世界を救うために選ばれたんだろ? そんな人間を殺したら自分達の首を絞めることになるだろ」
「まだなんとも言えませんが、少し思い当たる節もあります。もしそうなら色々合点がいくこともありますし」
「こっちに着いた早々狙われてたりとかしてたしな。だったら任務どころじゃないんじゃないか?」
「これは私達の世界にも関係することですし、仮にそうであっても放棄するわけにはいきません。それにきっと助けが来てくれます」
「なら、次にあいつらが襲ってきたら縛り上げて問いただしてやろうぜ。そういや、ジュラールに関して進展あったのか?」
それに対してサーシャからの返答がなく、代わりに向こう側からリネットの声が聞こえてくる。
「あなた今どこにいるの? ずっと連絡してたのに全然応答ないから心配したわよ」
「すまんすまん。こっちも大変だったんだよ。俺は今用事でサルブレムにある火山にいるんだ。二人は?」
「今のところ動きがないから、ジュラールが騎士団長をしていたニフソウイ国のロルローンってところに向かってるわ」
「前にトレインが言ってたところか。じゃあ、俺も用事が終わったら一旦そっちに向かってみようか」
「あいつらがソウタの方に襲いに行っても困るしね。それにこの世界について分かったこともあるからそれも話したいわね」
「こっちも知り合いに聞いたんだけど、どうにも勇者達は政治的に利用されてるだけらしいから、勇者達より強い奴等がいてもおかしくないってさ」
「勇者達がやられて各国がそろそろ別の対策を練るだろうから、そこも気になるわね。もし、こっちに来れそうならニフソウイで合流しましょう」
サーシャ達との話を終え、地図を開いてニフソウイの場所を確認してみる。
うーん、この場所からニフソウイに向かった方が近いな。ちょっと聞きにいくか。
アリエルの部屋に行きノックを鳴らす。
「アリエルちょっと話があるんだけど、入っていいか?」
ドア越しから「入っていいぞ」と返答があり、部屋の中に入る。
「どうした? 何かあったのか?」
「まぁ、ちょっとな。それで依頼の方なんだけどまだあるのか?」
「一応これで終わりだから明日にでもティントに帰る予定だ」
「実はこれから行くところがあるんだけど、ここから行った方が近いからそっちに向かってもいいかな? ティントでやることがあるなら、もちろん一緒に帰るけど」
「荷物が少しあるくらいだから問題はないが、どこに行くんだ?」
「ニフソウイにあるロルローンってところなんだ」
「ふむ、ロルローンか……。確かにここからの方が近いな。そうか、ではソウタちゃんとはここでお別れということになるな」
「本来なら持って帰るまでが依頼のはずなんだが、中途半端になってしまってすまない」
「気にするな。何か用事があるとは言ってたし、私も少し頼みすぎたのかもしれんからな」
「そんなことはないさ。頼んだのは俺だし、一緒に素材を集めるのは本当に楽しかったよ。もろもろ片付いたらまたやりたいな」
「うむ、私も久しぶりに一緒に旅が出来て楽しかったぞ。狂暴な山羊も見れたしな」
「ははっ、あいつはもう勘弁してほしいな」
「他にもああいうのは沢山いるので、落ち着いたらまた会いに行こう。それと、これは依頼の報酬だ。受け取っておけ」
アリエルは金貨袋を俺に投げ渡す。
それを受けと取ると、ずっしりと重い感覚が手に伝わってくる。
「お、おい。これ結構入ってるんじゃないか?」
「今回のスパイラルホーンは難易度も高めだからそれなりの報酬はある。後は私から少し色を付けておいた」
「アリエルには何から何まで世話になってるな。ありがたく受け取っておくよ。いずれなにかの形で返すから覚えておいてくれ」
「それは楽しみだ。期待して待っておくしよう。それで? もう行くのか?」
「いや、今から行ってもそんなに変わらないだろうから、明日の朝に出立するよ」
「そうか。ならば最後に飯でも食いに行こう。ソウタちゃんも体力がまだ回復してないだろうしな」
「そうだったな。よし、たっぷり食べて明日からの英気を養うとするか!」
アリエルと最後の晩餐を楽しみ、その日は疲れを癒すため深い眠りにつく。
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