第19話 バトルは終わらない

 翌日。目を覚ました俺はベッドから起き上がろうとするが、身体の痛みと全身の気だるさで体が中々起き上がろうとしてくれない。


 それでもなんとか起き上がって身体の傷口を見てみたら、傷がキレイに消えている。


 すごいな。普通だったら救急車で運ばれて、集中治療室行きでもおかしくない怪我だったのに、サーシャのあの魔法で治ったってことか。


 時計を見るとまだ八時なのでどうするか悩む。


 いつもより少し早いが喉も乾いてるし、二人に声をかけてみるか。


 隣の部屋に行ってノックをすると、サーシャの返事が聞こえてきてドアが開く。  


 「ソウタさんもう起きても大丈夫なんですか?」


 「少し気だるいけど体は元気だ。麻痺も治ってるし、馬車が来るまで時間があるから一緒にお茶でもどうかと思って」


 「何事も無くて良かったです……ちょっと待ってて下さい!」


 サーシャは部屋の奥に引っ込んでいき、起きたばかりと思われるリネットを連れて出てくる。


 「おはよう。怪我はどう?」


 「おかげで何ともないよ。それより起こしてしまったんじゃないか?」


 リネットはセットされてない髪を手櫛で整えながら首を横に振る。


 「ちょうど良かったわ。そろそろ起きて準備しないといけなかったから」


 「そうなんです、この子ったら私が起こさないと全然起きないんですよ。もうすぐ起こすつもりでしたから気にしないで下さい」


 寝起きのリネットを連れて、俺達は近くの軽食屋に足を運ぶことにする。


 田舎町で朝ということもあり、開いてる店自体は少ないが、店の中は人の出入りがちらほらとあって、それなりに賑わっている。


 「少しお腹も空いたし、なにか食べるか。おっ、この滋養強壮サンドってやつなんかちょうど良さそうだな」


 「なに言ってるのよ、あなたは血が足りないんだからお肉を食べないとダメよ。それに絶対それ美味しくないやつでしょ」


 「朝から肉なんてリネットだって食えないだろ?」


 それを聞いたリネットが俺を見て鼻で笑う。


 「余裕に決まってるでしょ。私はこの肉団子とピラフの大盛りセットでも頼もうかしら」


 「じゃあ俺はこの滋養強壮サンドとジュースにしようかな」


 「いいのね? この間もしわっしわの魚を食べて美味しい美味しいとか言ってたけど、明らかに無理してたのを気付いてなかったとでも? おまけにそれで足りなくて私の肉を盗んだの忘れたの?」


 「おいおい、盗んだなんて人聞きの悪いことを言うなよ。一口貰っただけだろう。それにあれはリネットが選んだやつで、今回はサンドなんだから不味いわけがないだろ」


 「サンドなんだから不味いわけがないってどういう理屈か知らないけど、忠告はしたからね」


 サーシャはモーニングセットを選んで、俺達はそれを注文する。


 しばらく待っていたら、大盛りピラフの上に大量の肉団子が乗った皿と、俺の注文した滋養強壮サンドが運ばれる。


 なんか大量の草が挟まれてるけど、サンドされてるんだから不味いわけがないだろ。


 そう確信して、俺はさっそく一口頬張ってみる。


 ふぐっ! 口のなかに漢方薬の香りが広がり、噛めば噛むほど草の食感と相まって不味くなってくる。


 歪んだ顔をして食べてる俺を見たリネットが、自信に満ち溢れた表情で俺を眺める。


 「お味はどう? 美味しくないでしょ? さっき店員さんに聞いたんだけど、それって地元の人がお酒を飲み過ぎたときに食べるものなんですって。通称二日酔いサンドって言われてるみたいよ」


 くっ! 苦味と独特な匂いでなかなか喉を通っていかないが、リネットに屈するわけにはいかない。


 「ははっ、そうなんだ。そういうのって大体不味いけどこれは美味しいな。リネットだってそんな山盛りのピラフと肉団子完食できるのか?」


 「え? あ、当たり前じゃないこんなの余裕よ。言っとくけど一口もあげないからね」


 たまに朝だろうととんでもない量を提供してくる店があるからな。


 昔、喫茶店の表にある食品サンプルに騙されて酷い目にあったことがあるから、それ以来個人経営っぽい店の朝食セットは警戒するようにしている。


 「リネットも昨日戦いで体力を使っただろうし、そのくらいは余裕か。一口くれだなんて言わないから思う存分食べてくれ」


 リネットが勢いよく食べ進めるも、半分くらい食べたところで箸の動きが遅くなる。


 「どうしたんだ? まだ半分くらい残ってるじゃないか」


 「美味しすぎてゆっくり食べてるだけよ。あなたの方こそさっきから口の中でずっと噛んでてなかなか飲み込めないみたいだけど、やっぱり美味しくないんじゃないの?」


 「美味しすぎて食べるのが勿体無いから、よく噛んで食べてるだけだ。いやぁ、本当に美味しいなこのサンドイッチ」


 この不毛な争いをよそにサーシャは優雅にデザートを食べている。


 「二人とも朝から賑やかでいいわね。そのサンドイッチもそんなに美味しいなら少し持っていきましょうか」


 サーシャよ……それはやめとこう。


 食事を済ました俺達は再び馬車に乗り、最後の目的地を目指す。


 リネットが苦しそうに外を眺めている。


 「食い過ぎたんじゃないのか? 結構量があっただろう」


 「うう……そうね。今後はお互いに変な張り合いをするのはやめましょう」


 「それに関しては同意だな。少し寝てればお腹も空くだろ」


 「その辺のことは気をつけるようにするわ。それと昨日のことも謝っとかないとね。危うくあなたを死なせてしまうところだったわ」


 「昨日は冷静な判断が出来なかった俺のミスでもあるし、護衛として雇われてるんだから謝ることはないよ」


 「あのとき私が針男を相手にしてれば、あそこまでダメージを負うことはなかったかもしれないし、鎧に手間取ってすぐ助けにいけなかった私の責任よ」


 横からサーシャも会話に入ってくる。


 「それは私からも謝罪させていただきます。ソウタさんを置いてリネットの方に行かずに一緒に戦ってれば良かったのです。護衛を依頼したとはいえ、あのような危険な目に合わせてしまってすいません」 


 「二人ともちょっと待てよ。あれは誰の責任でもなくて相手が強いのもあったし、サーシャにリネットの援護に行くように頼んだのは俺だしな。それに死にかけはしたけど、今回の戦いで俺自身の収穫もたくさんあったから結果としてあれで良かったんだ」


 リネットとサーシャは何も言わず黙っている。

 

 実際魔法だってあの状態だったからこそちゃんと発動したと思うし、相手の言葉に惑わされるのはよくないってのも勉強になった。


 二人とも責任を感じてるからどう言ったって気にするんだろうけど……。あれでいってみるか。


 「それにな、やはり俺は勇者なのかもしれん……」


 二人が突然なに言い出すんだこいつ、みたいな顔をして俺を見る。


 「というのもだな。見てなかっただろうが、満身創痍の俺がやつに魔法を食らわせてやったんだ。魔法なんてまともに使えないのに土壇場で発動するなんて普通はあり得ないだろ? 更に木人と戦ったときは思考に対して身体が追いつかなかったけど、昨日はわりと思い通りに動けた。我ながら自分の才能が怖いと感じたよ」


 リネットがプッと笑いだす。

 

 「突然なにを言い始めるのかと思ったら、勇者かもしれないだなんて。確かにあいつに善戦してたし、才能はあるかもしれないけどあなたボロボロだったじゃない」


 「そりゃあ本当の勇者が言うと嫌みになるけど、凡人が言うならただの強がりだよ。身体が動きやすくなったのは多分貰ったギフトのおかげだろうしな。ただ二人が責任を感じすぎてる気がしてさ」


 「ごめんなさい。気を使わせたのね。余計なことに巻きんでしまったんじゃないかと少し後悔してたの」


 「そんなことはないさ。むしろ暇な異世界生活を送るはずだった俺にやることができて感謝してるくらいだ。二人に会わなかったら、こっちに来たことを後悔してたかもしれない」


 「そう言ってもらえると救われるわ。私達が始めにあったのがあなたで良かったのかもね。それに凡人のソウタだからこそ勇者を越える可能性はあると思うわ」


 「最初に会ったのがソウタさんじゃなかったら、私達も今頃どうなってたかわからないですもの。目的地まであと少しですが護衛をお願いしますね」


 「ああ! 自信を持って任せろとは言えないが、最後まで護衛させてもらうよ」

 

 

 

 



 

 

 


 

 

 





 


 

 


 

 


 

 

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