第20話 始動

 目的地に着いた頃にはいつも通り空がすっかりが暗くなってからだった。

 

 ふう、ようやく着いたか。


 馬車から降りるとサーシャが馬車のほろの上に向かって呼び掛ける。


 「オルト! ご苦労様戻っていいわ」


 「ホッホッホ。かしこまりましたぞ」


 馬車の上から一羽の眼鏡をかけた青いフクロウがパタパタと飛んできて、サーシャのブレスレットに吸い込まれていく。


 「うおっ! サーシャ、今のフクロウはなんだ? 眼鏡をかけて髭もあった気がするんだが。リネットも同じようなやついたよな」


 「あれ、気付きませんでしたか? 初日から襲撃に警戒して馬車の上で見張っててもらったんです。宿屋で襲われるのは盲点でしたけどね。あの子は私の使い魔というか武器というか、話すと長くなるんですが大体そんな感じです」


 全然気付かなかったし、全然説明にもなってないが聞いたところで理解出来そうにない。


 リネットは鳥を武器に形を変えてたし、あのブレスレットになんか秘密があるんだろうか?


 気を取り直して辺りを見回す。


 町の中央にはデカイ噴水広場があり、この時間でも人通りが多くてそれなりに栄えてるようだ。


 今まで見てきた中で一番大きな町だな。

 

 「この町にいるのか?」


 「多分このアステンダルで合ってるはずです。今日はもう遅いですし、明日訪ねに行ってみます」


 今日で護衛も終了か。短い旅だったけどな

んだかんだ楽しかったな。


 明日の話次第だけどリネット達もようやく本来の任務に着くことが出来そうだ。

 

 サルブレムに戻ってなにするかなぁ。そういえばアリエルが頼みたいことがあるとか言ってたし、早く帰らないと。

  

 翌日、サーシャ達の仲間がいる場所へ一緒に向かう。


 サーシャが紙を見ながら町の路地裏に入って行き、年期のはいった一軒の家の前で止まる。

 

 リネットがノックを五回するが応答はないようだ。それでもベルナはドア越しに喋りかける。


 「すいませーん! ご注文の品お持ちしました」

  

 するとドア越しに男性の声で返事をしてくる。


 「なにも頼んでないけど?」


 「当店自慢の特製サージュピザをお持ちしました」


 返事はなかったがゆっくりドアが開き、青年が出てくる。


 青年は顔を覗かせて二人の顔を確認する。

 

 「サーシャとリネットか? 良かった無事だったんだね」


 「久しぶりねトレイン。ノーマ達は元気にしてる? それに『無事で良かった』ってどういうこと?」


 「その前にそこの後ろに居る少年は誰なんだい? 見たことない顔のようだけど」


 「彼はちょっと事情があって協力してもらってるの、こっちにきて色々あってね。私達の敵ではないことは保証するから心配しないで」


 「信用して大丈夫なんだろうな? ……とりあえず中に入ってくれ」


 俺達は青年に招かれて部屋に入る。


 意外にも中は広くて部屋数も結構あるようだが、家具などはあまりなく簡素な印象を受ける。


 「それで今どんな状況になってるの? こっちは変な敵に襲われるし、知ってると思うけど通信機器も故障してるしで散々よ」


 「何だって!? 実はノーマ達も何者かに襲われた可能性が高いんだ。僕も情報を集めに出ていたら突然襲われてさ。どうにか逃げたんだけど、戻ってきたら四人とも居なかった。通信も取れないし、君達がこっちにくる日に失踪して以来帰ってきてないから多分……」


 「そんな……。あいつらにやられたっての?」


 仲間の失踪を聞いてひどく落ち込むリネット。それを見てサーシャはリネットの腰に手を回し寄り添う。

 

 「大丈夫よ。リネットが言ってたじゃない『あの子達がそう簡単やられるはずがないって』決めつけるのはまだ早いわ。情報を集めるためきっと遠征してるよ」


 「それともうひとつ悪い情報もあって。僕達もイストウィアに連絡が取れないから、救援も呼べないし現状身動きが取れないんだ。本来なら君達がこっちに転移したら、すぐに行動を移せるようにサポートするのが僕達の役目なのに……。すまない」


 「あなたのせいではないわ。その事を伝えてくれただけでも十分です。このようなことも想定してるはずですから、助けにきてくれるでしょう」


 「連絡がつかなくなった場合を想定して、この場所を合流地点にしていたわけだしね。あらゆる事態を視野に入れて作戦を練ってるはずだから、助けにきてくれるとは思うけどそんなにポンポン転移させられないし、時間も掛かるだろう」


 「でも、まさか通信が取れなくなるなんて思ってもみなかったから、ここでトレインが居なかったら路頭に迷うところでした。向こうであなた達の情報を聞いてから転移すればよかったかもしれませんね」


 「それだと君達がこっちに来たときには状況が悪化してて、手遅れの可能性もあるわけだから何とも言えないよ」


 「それは一理ありますね。あなた達に情報を聞いたら早い段階で行動をとる予定でしたし。遅くなって後手に回ると止められるものも止められなくなるかもしれませんから」  

 

 「そうだ、大事なこと言い忘れてたね。色々調べたんだけど世界の危機を引き起こしそうなやつが一人だけいたよ。ニフソウイという国の騎士団員であるジュラールという男が、ムングスルドって国にある兵器みたいなのを突如強奪したんだ。現在行方をくらませてるが仲間もいるらしく、なにかしでかすんじゃないかと言われてる。詳しくは後で渡すノートを見てほしい」 


 それを聞いたリネットとサーシャが俺の顔を見る。

 

 「どうやら、あなたの言ってたのと同じやつらしいわね」


 「その少年はなにか知っているのかい?」


 「この世界の国々が勇者候補を召喚したのは知ってるわよね? 彼がそのうちの一人ってわけ」


 「もちろんだ、今続々と各国の勇者が動きだしてるからね。なるほど、君がこの世界を救う勇者なわけだ。僕達は派手には動けないから目的が同じなら是非協力させてほしい」


 またここに一人俺を勇者だと勘違いする人間が……。


 とはいえ、やっぱりギフトを盗んだやつがこの世界の危機を招く元凶なわけだ。


 「そういえば、マリィ達はまだきてないんですか? 転移ポイントを考えたらそろそろ合流しても良さそうなものですが」


 「まだ訪ねてきてないよ。この様子だと彼女達も襲撃されてる可能性が高いね。彼女達なら大丈夫だと思うけど心配だな。しばらくここで待って来なければ探しにいってみるよ」


 そう言うとトレインは部屋の棚からなにかを持ってくる。


 「予備の通信機を渡しておくよ。それと僕達が集めた情報のノートだ。中身を見れば大体この世界の情勢がわかるはずだよ」


 リネットはそれらを受け取りノートのページをめくる。


 「ノーマの字だわ。私達の為に色々調べて書いてくれているのね。……また会えるでしょうから今はやれることをやるだけね」


 「そうだね、今は与えられたことをやるだけだ。僕も君達のサポートに専念する。そういえば今日の夜、グラヴェールから出立した勇者パーティーがここを通るらしい」


 「そのジュラールってやつがどこにいるかわからないから、勇者達の後ろに付いていく方が早いかもね」


 「その少年は他の勇者と一緒に討伐に向かわないのかい?」


 「え? あーっと、そうそう、彼は特別に自由行動が認められてるのよ」


 リネットが慌ててごまかそうとするが、それがかえって怪しまれてるようだ。


 「そ、そうなんだ。まあ二人が信用してるなら余計な詮索はしないけど、ジュラールの件はよろしく頼むよ。後は謎の襲撃にも十分注意して行動をしよう」


 俺達は話を聞き終わると一旦宿屋に戻ることにする。


 


 


 


 

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