第17話 レイド

 馬車を走らせ町に着いたときには空がすっかり暗くなっていた。


 何事も無く着いて良かったと胸を撫で下ろし、荷物を抱えて馬車から出る。


 サーシャは御者にお金を払い、何かを話してるようだ。


 「お疲れ様でした。御者さんによれば宿もすぐ近くあるそうなので行ってみましょう」


 サーシャが場所を聞いてたらしく、すんなり宿屋が見つかり部屋も取ることが出来る。


 「明日の馬車は宿屋の主人が手配してくださるようなので、とりあえず食事にしますか」


 「そうね。乗ってるだけとはいえ結構疲れるから、軽く食事をして早く横になりたいわ」


 サルブレムのティント程ではないがそれなりに栄えてる町みたいで、通りにはお店がいくつも並んでいる。 


 俺達は適当に店に入るとどんな食べ物があるか見てみる。


 「へぇ、色々食べ物があるのね。私はやっぱり肉ね」


 「軽く食事をするんじゃなかったのか?」


 「うるさいわね。あなたはこの痩せた魚でも食べてたらいいのよ」


 リネットはメニューに描かれている、しわっしわの魚の絵を指差す。


 「干物みたいなやつだな。意外とこういうのがうまかったりするんだよ。よしこれにしよう」

   

 リネットはうげー、としかめ面になりながらサーシャになにを食べるのか聞く。

 

 「そうね……私はこの野菜の炒め物を食べてみようかしら」


 店員を呼んで注文を終えると、馴れない馬車での旅で疲れてるのか、三人とも椅子の背もたれに寄りかかる。


 「明日にはグラヴェールに入って、明後日には目的地に着くと思いますので、ご辛抱下さい」


 「それはいいとして、もしだれも居なくて何も手掛かりがなかったらどうするんだ?」


 「そうなれば一回自分達の世界に戻りたいのですが、それは無理なので私達だけで任務を遂行するしかありません」


 「俺も一応サルブレム国の知り合いがいるからちょっと話を聞いてみるか」


 「ふふ、お互いこの世界の人間じゃないのに、心配するなんて変な話ですね」


 「まったくだな。俺も勇者のようにいいギフトが貰えれば良かったんだが」


 「ギフトってこの世界だと特別なもののようですね」


 「ああ、手に入れば簡単に魔法が使えたり、身体能力がアップしたり特殊なスキルも使うことも出来る代物だよ。ギフトにはランクがあって勇者が貰うギフトは国が管理するくらいのやつらしいんだ」


 「私達も似たようなことができますがそんな簡単には使えませんから、この世界の人達が羨ましいですね」


 サーシャもブレスレットを付けてるところを見ると、リネットみたいな力が使えるってことか。


 そういや、あの青い鳥も随分見てないけど、あのブレスレットの中で飼ってるのかな?


 俺達は食事を終えて宿屋に戻り、明日の時間だけ確認して部屋を別れる。


 しかし、あのしわっしわの魚不味かったな。干物かと思ったら、水っぽいただの焼き魚とは。


 こっちの世界で食べたものはすべて美味しいものばかりだったから、完全に油断してたな。


 ベッドに倒れこむと軽く睡魔が襲ってきてそのまま眠ってしまう。


 翌日俺達は馬車に乗り再び町を目指す。

 

 道中休憩をはさみながら馬車に揺られ、ようやくグラヴェールに入る。


 グラヴェールにある最初の町に着いたときには夜になっていた。


 「ふう、今日も何事もなく着いたな。にしてもこの町随分と小さいんだな」  


 「グラヴェールの田舎町といった感じでしょうか。とりあえず宿屋を探してみましょう」


 ついでにどこか食事を出来る場所がないか探しつつ、小さいながらも一軒の宿屋を見つける。

 

 チェックインしてから外で軽く食事を済ませた後、部屋に戻ってベッドに横たわる。


 今日も疲れたな。明日には目的地に着くみたいだし、サーシャ達ともそこでお別れか。

 

 ん? あれは?


 最初部屋に入った時には気付かなかったが、部屋の隅に剣を持った騎士の鎧が飾ってある。


 失礼だけどこんな安宿に置いてある物にしては立派だな。どれ、ちょっと見てみるか。


 へえ、兜も鎧もイミテーションのわりには良くできてるな。この剣だって本物だったら俺のと交換してやりたいくらいだ。

  

 ……よく見るとこれ本物じゃないか? 


 刃先がギラついてるし……それにどうやって剣を握ってるんだ?


 嫌な予感がしてバックステップを踏んだ瞬間、鎧が俺をめがけて剣を横にスウィングする。

 

 危なっ! あのままだったら真っ二つにされるところだった。さてはこいつ、あの木人と同じやつだな。


 俺が急いで剣を持って部屋から飛び出ると、同時に隣の部屋からリネットとサーシャがドアを壊すいきおいで出てくる。


 「お前達もか?!」


 「やはり来ましたね。ここだと戦えないので外に出ましょう!」


 俺達は追ってきた鎧に蹴りを加えて急いで外に出る。


 被害が出ないよう周りを見渡し、人がいないかを確認していたら、一人の人間が月明かりに照らされ立っている。


 「おい! そこの人、逃げるんだ! ここは危ない。何者かに襲われてるんだ。出来れば自警団かなにか呼んでくれ!」


 暗くて顔はよく見えないがその人影は微かに笑ってるようにもみえる。


 俺は突如背中を押され前に転ぶ。


 「いきなりなんだよ!? 危ないだろ?!」 


 振り向くとサーシャが俺を押していて、俺が立っていた場所には入り乱れた針が剣山のように地面から生えていた。


 先ほど声をかけた男が舌打ちして話しかけてくる。


 「惜しいね。そこのお姉さんよくわかったね?」


 「ええ、いきなり攻撃を仕掛けてくるのがお好きのようですから。やはり私達が狙いですか?」


 長い前髪で目元が隠れてる男は何も言わずサーシャに何かを飛ばしてくる。


 俺は即座にサーシャの前に出て剣でそれを弾き返す。


 地面に落ちたそれを見ると三十センチくらいの針が落ちている。


 「そこのお兄さんも中々やるね」


 「そりゃどうも。出来れば少し話したいところだけど?」


 後ろでリネットが二体の鎧騎士と交戦している音が聞こえるので、早く助けに行きたいが背中を向けるわけにはいかない。   


 しかし、そろそろ騒ぎを聞きつけて人が来るはずだ。


 「今さ、そろそろ人が来るはずって思ったでしょ? 安心していいよ、この町に少し細工をしておいたからね。今頃住民の皆さんはお休みさ」


 なるほど準備万端ってわけだ。


 「サーシャはリネットの援護に回ってくれ。こいつは俺がどうにかしてみる」


 「でもそれだとソウタさんが危険です」


 「でもリネットも二匹相手はキツいだろうし、そっちが終わるまで無茶はしないで時間を稼ぐよ」


 サーシャも議論してる場合ではないと思ったのか「すぐに戻ります!」と言い残しリネットの元へ駆けつける。


 男がサーシャを見送り、俺に目を向ける。


 「僕の相手は君ってことでいいのかな?」


 「待たせたな。どうやらそうらしいぜ」


 謎の攻撃がある分やつの方が有利だろう。


 さて、どう実力差を埋めるか……。


 


 

 


 

 


 

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