第6話 住む家に向かうよ
アリエルの店から出て、俺の家向かう道中いくつかの質問をセレーナにしてみる。
「なぁ、あのシールみたいなのもこのペンダントもギフトってやつになるか?」
「ええ、ロムル王も言ってたと思いますが『本来の使えない能力が使えるようになる』と言うのは厳密ではないのです。『後から付け足された全ての力』がギフトの定義で、大まかに分けると【身体強化系】【魔法系】【固有スキル系】【アイテム系】になりますね」
「なるほど、じゃあアリエルからもらったあのシールは身体強化系でペンダントはアイテム系に分類されると?」
「そうですね。後はランクによってそれぞれありますが、基本的にはその4種類に分類されてますね。魔法は少し特殊ですが」
「そういえばこのペンダントがあれば色々な魔法が使えるようになるみたいなこと言ってたけど、アイテム系でも魔法が使えるんの?」
「まず、基礎知識として知っておいて欲しいのですが。魔法を放出するためには魔法石が必要になるんです。ギフトで魔法が使えるようになっても石に含まれる魔力が必要になるのですぐ使えないんです」
セレーナは立ち止まり俺の首に下げたペンダントを指を差す。
「そのペンダントの魔法石は大量の魔力が含まれてるので、大体の魔法を最大限に引き出してくれるでしょう」
なんとなくわかったけど要は魔法を使うには二つのギフトが必要ってわけだ。
だとしたら魔法系のギフトをまだ持ってないぞ。
「とはいえ、まだこの世界にきたばかりなのですから、魔法はまたで良いかと思いましので買わなかったんですよ。必要になりましたらアリエルのところ行きましょう」
そうだよな、まだまだわからないことばかりなのにあまり詰め込んでも頭が爆発してしまう。
現に情報が多すぎてまだ理解できないことばかりだ。
そもそも、目的もないのに剣だの魔法だの使えたところで一体何に使うってんだか。
自由にして良いと言われても、自由すぎて何をしたらいいのか意外にわからないものなのだ。
それは、大きな紙を渡されて好きなものを書けと言われるようなもので、描くものを指定されないと何も思い付かないのに似ている。
そんなことを考えながら歩いていたら、住居が見えてくる。
なかなか立派な家じゃないか、少し年季が入ってるがこの国の大臣が住んでただけのことはある。
セレーナに案内され中に入る。
すると、先に到着して家具の設置をしているウィステリアの声が聞こえてくる。
「ここを見てください! まだ埃が残ってるでしょう? もう一度拭き直してください。終わったらちゃんとから拭きしといて下さいね」
二人の男を従え、部屋の掃除をしているようだ。体格のよい男が疲れ果てた顔を浮かべこちらに向かってくる。
「た、助けてくれセレーナさん。こっちに来てからずっと働きづめで休憩もしてないんですよ。ウィステリアさんも人が変わったように人使いが荒くなるし」
怯えるように大きな体を震わせ、助けを求めてくる。もう一人の男も奥でウィステリアな叱られてるみたいだ。
セレーナは「やっぱり」と愛想笑いをして、ウィステリアを呼ぶ。
「ご苦労様ウィステリア。やはりあなたに任せて良かったわ。こんな綺麗になったんだから、そろそろこの辺でいいですよ」
ウィステリアは「ありがとうございます」と言うが納得していないみたいだ。
「しかし、まだ見えてない箇所が終わったおりませんので今しばらくお待ち下さい」
そうだけ言うと、助けを求めてきた男を引っ張り奥へ戻っていく。男は引きずられながら泣きそう顔でこっちを見てくる。
それを見たセレーナが助け船を出す。
「ウィステリア、今日はもうこれでいいわ。ソウタ様も疲れてますし、また明日にでもお願いします」
セレーナの声を聞き、ウィステリアはこちらに引き返してくる。
「そうですか……セレーナ様がそう言うのあれば仕方ありません。……ではせめてあの棚の裏だけでも掃除してもよろしいですか?」
セレーナは困った顔で「もう大丈夫ですから」とやんわり断る。
それを受けしぶしぶ了解し、男二人を呼びに行く。
「では、私どもはこれで失礼致します。明日にでもまた続きをしに参りますので今しばらくの間ご辛抱を」
そう言うが、もうどこも掃除をするところがないほど、ピカピカに磨きあげられている。
「これだけ綺麗にしていただいたんで、後は自分でボチボチやりますよ」
セレーナが二人の男に「あなた方もご苦労様でした」と告げる。
二人の男はホッとした表情を浮かべて、ウィステリアと共に帰ってゆく。
「ホントにウィステリアのお掃除好きは困ったものです。あの子掃除のこととなると人格変わっちゃうから」
「セレーナとウィステリアさんってどんな関係なんだ? 結構親しい感じだったけど」
「あの子は私の直属の給仕なんですよ。今回私の失態でこんなことになったんで、やれることは精一杯やらせていただこうと思ったんです」
そっかセレーナは今回のことに責任を感じてるんだ。俺にも申し訳ないって言ってたし。
国の召喚士といえばかなり偉いだろうし、町案内も他の人間に任せることも出来ただろうしな。
「ありがとうセレーナ。ここまでして貰ったらもう十分だ。自分の仕事もあるだろうし、今は世界が大変な時だから俺のことなら気にしないでくれ」
「あっ、いえ、決してそう言うわけではないですよ。私も久しぶりに町へ行きたかったですし、アリエルにも会いたかったですし。今日一日楽しかったですよ」
「それに……」と言いかけてやめる。
えっなに? もしかして俺のこと好きなのか? それならそうと言ってくれよ。
なんなら実は一目惚れでしたって、こっちから言っちゃう?
「いえ、なんでもありません。それでは最後にこれを渡しておきます」
そう言って皮の袋を取り出す。袋の中を見てみると金貨のようなものが入ってる。
「この世界の通貨です。先ほどお渡しした金色のプレートがあれば困らないとは思うんですが、一応少しだけ渡しておきますね。それから、お付きの者はどうしますか? 国から従者を付けることもできますよ」
居たらいいんだろうけどなんか監視されてる気分になりそうなので断っておく。
「分かりました。では、やってみたいことや困ったことがあれば城のほうに来るか、アリエルに相談してみてください」
「ありがとう。しばらくはのんびりこの世界を散策させてもらおうと思ってるよ」
「はい! せっかくなんで是非とも異世界ライフを楽しんで下さいね。さて、私もそろそろ行かないと」
別れの挨拶を済ませた後、城に帰っていくセレーナを見送る。
見送りが終わると部屋に戻り、真新しいシーツが敷かれたベッドの上に体を預ける。
今日も色々ありすぎて、まだ頭が追い付かないが明日からゆっくり考えるか。
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