第5話 怪しいギフト
セレーナに引き連れられ一軒の店にやってきた。店の薄汚れた看板には『ラエティティア』と書かれている。
セレーナは俺を促し店内に入ると、棚に見知らないアイテムがところ狭しと並べられている。
セレーナがカウンターの机でうつ伏せなっている女性に「こんにちは」と声を掛けるが、返答はない。
「もう! また寝てるのね!」
とセレーナは肩をいからせ、その人物に駆け寄り声を掛けながら身体を揺する。
「起きなさーい! アリエル! 私です! セレーナです!」
耳元で大きな声を出し、起こしにかかる。アリエルと呼ばれた人物は一瞬体をビクッとさせ、ゆっくり顔を持ち上げる。
目の焦点が合ってないのか、状況がわかってないのか口から糸を垂らし呆けている。
「起きましたか?! あなたって人は本当にもう」
「ん、あぁ? おお! セレーナじゃないか!?」
目の前のセレーナをようやく把握したのか、口元を手で拭って挨拶をする。
「よくきたな! 遊びにきたのか? それとも私になにか用事か?」
「ええ、今日はあなたに用事もあるし、ご紹介したい人がいるのよ」
セレーナは俺を紹介しようと、「こちらは……」と言い終わらないうちに、アリエルがそれを遮って喋りだす。
「お前……まさか結婚するのか?! 少し若いみたいだが何事も早い方が良いというしな。心配するな私だって少しは貯えがあるから祝儀くらいは出せる。で、挙式はいつだ?」
「違います! 結婚じゃなくてあなたも知っていると……」
「なに、恥ずかしがることはあるまい。そちらの少年よ、少し気が強いところはあるが彼女の器量は私が保証しよう。よろしく頼む」
「だから、話を最後まで聞いて! こちらは私が間違って異世界から召喚したソウタ様で、帰るまでの間この世界で生活することになるから、あなたにギフトを選んでもらうおうと思ったの!」
セレーナの怒りが爆発したのか、早口で言い終えるとアリエルに向かって説教が始まる。
「大体あなたは昔から人の話を聞かないし、すぐに訳のわからない解釈はするし、いくら注意しても治らないし、おまけに悪びれた様子もないし、もう少し女性らしく」
このままだと止みそうにないので、セレーナに「まあその辺で」と声を掛ける。
ハッ、と正気を取り戻し謝ってくる。
「ごめんなさい。そうでした、目的を見失いかけてましたわ。この人悪い人ではないんですが、いつもこういう感じなんですよ」
セレーナがこんなに感情的になることに驚いたが、言い争えるほどの旧知ということか。
ちょっと前に俺と気が合いそうとか言ってが、端から見ると俺もこんな感じだったのか?
そりゃあ誰も近寄ってこないわけだ……。
このやり取りにどこか懐かしい気持ちになる。そして、この初対面のアリエルに何故か負けられないという対抗心が芽生える。
「まぁ、そう怒るなセレーナよ。話はわかった、その少年にギフトを送りたいのだな。この世界に来たばかりのようだし、ちょうど良いのがあるぞ」
そう言うと、なにやら独り言を呟きながら奥に引っ込んでいく。
「あの子ったらまた人の話も聞かないで」とアリエルを見送る。
しばらくすると自信に満ちあふれた顔でアリエルが一枚のカードを持って戻ってくる。
「待たせたな。これがあれば誰にも引けはとるまい。さぁ、さっそく貼ってみるのだ」
セレーナはカードを受け取りそれを確認する。
「そうそう、これこれ。こういうことには察しがいいのよね」
そういうと俺の腕を掴み袖をまくる。
「これは経験を促進させる効果があるギフトなんです。Eランクのギフトですがきっと役に立つでしょう」
セレーナはカードからシールを剥がし俺の腕に貼る。するとシールの柄が一瞬光を放ち腕にぴたりとその柄が残る。
なんか湿布みたいだな。腕についたデザインの柄を手で触ってみると、皮膚と一体化してるのがわかる。
「どうだ少年!? 身体からなにか湧き上がる感じがするだろう?」
「確かに身体から熱いものを感じる。もしかしてこれが俺の潜在能力なのか?」
「そんなわけないでしょう」と俺の腕をもう一度マジマジと見る。セレーナはなにかに気づいたのか、アリエルのほうを目を向ける。
「あなた! もしかしてまたやったの?!よく見たらデザインが若干違うじゃない!」
「いやなに、先ほどの経験促進の強化版みたいなものだ。私が特別にこしらえたものだから、EランクどころかAランクに匹敵するぞ! あーはっはっはっ!」
天井を見上げ大声で笑うアリエル。こいつ、完全にイカれてやがる。
セレーナは俺を心配そうに大丈夫ですかと、顔色を窺う。
「ごめんごめん、大丈夫だよ。なんともないけど、ついノリでやっちゃって」
「もう、あなた達ったら本当に適当なんだから。でもソウタ君が少し調子取り戻せたみたいで良かったわ」
セレーナは一瞬頬膨らませるが、ニコッと笑顔になる。そしてアリエルにはやや呆れぎみ告げる。
「何度も言うけど違法なギフト生成、及び販売は固く禁じられてるのよ。次はしょっぴきますからね」
セレーナがビシッと言うとさすがのアリエルもうろたえる。
「しょっぴくみたいな物騒な発言はやめようじゃないか。もちろん趣味の範囲でやってるし、販売なんてしたことは一度もないから。なっ?」
俺みたいなやつだな……。
「あなたの腕は信用してるし、悪用しないのはわかるけど私の立場も考えて下さい。ともあれこのギフトは安全なんでしょうね?」
「もちろん! ギフト研究の第一人者である私が保証しよう」
自信満々に答えるアリエル。
「まぁ、いいわ。他になにかあるかしら?」
「そうだな、セレーナを怒らせてしまったし、私からもう一つくらいなにかプレゼントしよう」
これなんてどうだと、ポケットから丸い石の付いたペンダントを取り出す。
「いいですね。魔法も今後必要になるでしょうし。でもそれ売り物じゃないんじゃないの? もしかしてそれも……」
じろりとアリエルをのほうを見る
「ま、まぁ、さっきついでに持ってきたやつだが、この際だから持っていくがいい。ちなみに品質は折り紙付きだ」
「これは、証拠の品として受け取っておきます!」
セレーナはアリエルの手からペンダントを奪い取ると驚いた表情になる。
「なにこれ、すごい魔力を感じるわ。これがあれば大抵の魔法は使えそう」
「そうだろう? 良い魔力石が手に入ったからセレーナに自慢しようと置いといたんだけど、つい手を加えてしまった」
「アリエル、あなたいい加減ギフトクリエイターの申請をしなさい。あなたほどの腕ならすぐにでも国のトップになれるわ」
「確かに私は天才だが自由でいたいのだよ。国のためと言えば聞こえは良いが所詮はかごの中の鳥。誰かに飼われるのはごめんなのだ」
「勿体無いけど仕方ないですわね。でもこれ、本当に貰ってもいいの?」
「これから羽ばたく少年の餞別だと思ってくれ。それがあれば魔法が使えるようになるだろう」
「じゃあ、ありがたく受け取っておくわ」とセレーナは俺の首にペンダント掛ける。
「じゃあ、アリエルそろそろ私達行くわ。色々ありがとう。それから、ソウタ君にわからないことがあったら教えて上げてちょうだいね」
「ああ、いつでもくると良い。待ってるぞ少年」
俺もアリエルに一礼すると店を後にする。
目まぐるしい時間だったが、確かに悪い人ではなさそうだし、気が合いそうではあったな。
……いや、やっぱちょっとキツいか。
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