第4話 剣、買っちゃいました
城から少し歩いていくとだんだん町の中に入っていく。市場だろうか、多くの店が並んでいて、通りを人が行き来している。
おお! なんか腰に剣を差して、革の胸当てを装備している人間もいるじゃないか。
これこれ、こういうのを見たかったんだよ。それに見とれているとセレーナは「こちらです」と俺の手を引く。
大きな鉄板の上でクレープの生地みたいなやつを焼いている屋台に案内すると、なにやら注文しているようだ。
俺は近くのテーブルと椅子に待たされ、しばらくすると飲み物が入ったコップと紙に包まれた物を持ってくる。
「お待たせしました」と紙袋を一つ俺に渡しセレーナも椅子に腰を下ろす。
「口に合うかわかりませんが、食べてみてください」
セレーナは俺が食べるのをじっと見て待っている。
それに食べづらさを感じつつも、袋から取りだし一口食べてみる。
うまい、ローストされた肉とシャキシャキとした野菜。そして、レモンのような柑橘系の酸味と甘辛い味付け。
「美味しい! これ、地球で売ったらみんな絶対買いますよ。肉の食感が新しくて、これがいいですね」
「まぁ、お口に合って良かったですわ。こちらのドリンクも、このティント名産のハナボナから採れたやつなんですよ!」
セレーナは満面の笑顔でそこまで言うと、なにかを思い出したかのような感じで突然顔を下に向ける。
「どうしました? 俺なんか変なこと言いました?」
「いえ、私のミスで異世界なんかに召喚してしまって本当にすいません。出来るだけ早く元の世界に戻れるよう手配致します」
セレーナは申し訳なさそうな顔で謝罪する。
「いやいや、異世界にはきてみたかったんで、むしろ嬉しかったんですよ」
「そうなのですか? でも昨日から浮かない表情で元気もないように見受けられましたので、せめてなにかと思いましたがやはりソウタ様に申し訳なくて」
そのことか。農夫以下と言われて落ち込んでたのが表にすごい出ちゃってたんだろうな。
「そんなに考えすぎないで下さい。最初勇者候補って言われて、実はそうじゃなかった自分に落胆しただけなんで」
「そうだったんですか。それでも落胆させたのは私のせいですよ。でも、どうして異世界なんかに?」
「恥ずかしい話なんですが、以前からよく異世界の夢を見てたんです。夢の中の自分は剣とか持ってて、誰かと戦ってたりしてましてね。それで何故かわからないですが、夢の中の世界が本来自分がいる場所のような気がして、異世界に行く方法を模索してたんです」
おかげでオカルトにどっぷり浸かってしまい、周囲から冷ややか目で見られてたのを思い出しつつ話を続ける。
「召喚されたときにもしかしたらここが夢の中で見た世界で、自分には特別ななにかがあると思ってしまったんです。結果ただの思い違いだったんですけどね……」
「いえ恥ずかしいことなんかありませんよ。いつかその世界に行ければ良いですね。それにこの世界でも特別な人であると言うことは変わりません。」
「自分でもそんなありもしない話信じてるなんて我ながら頭をどうかしてると思います。多分思春期の病気をこじらせてるだけなんで、そのうち正気に戻れるんじゃないかと。それと昨日初対面でなんか偉そうな態度をとってしまい、こちらこそすいませんでした。あれも夢の中の自分があんな感じでして、つい出てしまうんです」
勘違いしてあんな言動をとった自分を本当に殺したい気持ちだ。
「そういえば最初に出会った時『これは失礼した姫君』みたいなしゃべり方でしたよね。びっくりはしましたが謝る必要はないですし、全然気にしてませんよ」
セレーナは「あっ!」となにか閃いたのか手を叩く。
「そうだわ! 私の友人がこの辺りでお店を開いてるので武器屋を覗いた後に寄っていきましょう。私からプレゼントしたいものもありますし、きっと気が合うと思います。それと敬語はやめていただいて、私のことはセレーナとお呼び下さい」
「わかりまし……わかったよセレーナ。セレーナも敬語はやめて俺のことも呼び捨てにしてくれ」
呼び捨てにすることに気恥ずかしさを覚え、食事を済ませると武器屋に向かう。
店内に入るとさっそく大きな剣から女性でも扱える程度の剣が陳列している。他にも槍や杖などもある。
地球にも模造刀とかあるけど重厚感が違うような気がするな。しばらく童心に帰り店内を物色する。
店の主人に触ってもいいか確認してみる。
「おう、気に入ったのがあれば、触ってもいいし持って確認してみてもいいぞ」
俺は近くあった大きな剣を手にする。ずしり重い感覚が筋肉に伝わる。
「はは、重いだろ? そいつは大型のモンスターを仕留めるようのやつだからな」
こんなの振り回してたら格好いいだろうな。美しい剣の刀身を眺めてたら、突然誰かが剣を振るってる姿が脳内をよぎるする。
こんなの初めてだ。何度も異世界での夢は見てたが、目が覚めてる状態でこんな風になったことはない。
「それが気に入りましたか? 今後使う機会があるかもしれないので買っときますか?」
剣を眺めたまま止まってたからなのか、セレーナが声をかけてくる。
それだったらと、なんとなく少し小さめのブロードソードのほうを選ぶ。
「あっ、でもお金が……」
「それならば心配無用です。ロルム王から好きなだけ使っていいと許可は出てますもの」
基本的に必要ではないものは買わない主義なのだが、欲しい気持ちが勝ってしまいお願いすることにした。
「いいのか? この世界の物価はわからないけど剣だし、結構高そうなんだが」
「大体この辺りのお給金二ヶ月分といったところですね。ここのお店は初心者の方とか、冒険者が現地で足りない装備を整えるためのところなので安いほうなんですよ」
セレーナが店の主人にこの世界の通貨と思われるものを渡し、剣を受け取ると俺に「どうぞ」と差し出す。
「こんなに簡単に買えるんだな。もし買えたとしても地球だと手続きが大変で町とかは絶対歩けないよ」
「一応この世界でも町中での抜刀は禁止されてるし、購入するには最初国に申請しないとダメなんです。でも、ソウタ君は一応勇者候補としての特権で許可されてるんです」
そう言うとセレーナは金色のプレートを俺に渡す。プレートには花の模様となにかのサインが彫られている。
「これは、今回召喚された全ての国の勇者候補の方に配られているもので、国民はこれを持っている者に協力する義務がはあるんです。この国章とサインはサルブレム国の証ってことですね」
「俺が持ってていいのかわからないけど、無くさないよう大事に持っとくよ」
「はい、色々便利なんで利用してください。どんな効力があるかは、この間渡した小冊子に書いてます。さて、それでは次に寄って行きたいところがあるのですが、いいですか?」
そういえば友人の店に行くって言ってたよな。セレーナの友人ってどんな感じの人なんだろうか。ちょっと楽しみだな。
買ったばかりの剣を腰に差して、セレーナについてゆく。
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