第42話

エトムント殿下と兄の勝負は午後一番の授業内で行われる。

その事が気掛かりで午前中の授業は全く集中出来なかった。叱られずに終わったのは私の同じように二人の勝負が気になっている生徒がそれなりに居たからだ。

中にはこっそりと抜け出して観に行く算段を立てている人も居た気がする。

どうせ無理なのに。


「エトムント殿下と一緒じゃなくて良いの?」


いつものガゼボで昼食のパスタを食べているとエミーリアから尋ねられる。何の権利があって王子と昼食を一緒に出来ると言うのだろうか。

もし許可を得られたとしても一緒に食べないけど。


「あれが見張っているのに一緒に居られるわけないでしょ」


茂みを指差すとエミーリアの表情が苦笑いを浮かべた。

本気で隠れているつもりなのか今朝の事があって気不味くなっているのか兄がこちらを見張っているのだ。

見張られている中でエトムント殿下に会いに行こうと思うほど私は馬鹿じゃない。


「私が片付けて来ましょうか?」


私のグラスに水を注ぎながら言ってくるのは侍女ヨハナだ。普段は学園に来ていないが今日はエトムント殿下と兄の勝負が行われる為、特別に来ている。

しれっと怖い事を言うヨハナに「別に良いわよ」と返事をした。

エトムント殿下に会いたい気持ちはある。ただ彼に会ったところで気の利いた事を伝えられる気がしない。緊張しているであろう彼に応援していますの一言しか思い付かない自分の不器用さに呆れる。


「会いに行けば良いのに」

「リアまで変な事を言わないで」

「変な事を言ったつもりはないけど…」

「向こうは集中したいはずなのよ。私が会いに行ったら迷惑になるわ」


私の反論にヨハナは深い息を吐き、エミーリアとカルラは苦笑いを浮かべた。

何が言いたいのかよく分からないが揃いも揃って残念なものを見るような目で見ないで欲しい。


「リーザ、エトムント殿下は会いに来て欲しいと思っているわよ」

「どうして?」


仮にエトムント殿下が私に会いたがっていたとしてそれは甘ったるい理由じゃない。ただ単に剣術を指南してくれたお礼を言いたいと思っているだけだ。

会いに行くなら勝負が終わった後の方が良いと思う。


「それは…会いたいからじゃない?」


何故か疑問形で言ってくるエミーリア。私がエトムント殿下を好きだと知っているからこそ気遣ってくれているのだろう。


「勝負が終わったら会いに行くわ」


勝っても負けても会いに行くつもりだ。

私の言葉にエミーリアは残念そうに眉を顰める。

この時エトムント殿下が私を待ってくれていると私が知ったのはもう少し後の話だった。


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