第40話 応援

エトムント殿下への気持ちに気が付いて約一週間が経過した。いよいよ明日は彼と兄の勝負の日だ。

やれる事はやったと思う。

彼が兄に勝てるかは微妙なところ。ただ最後の練習試合で本気を出したヨハナを負かしたのだ。王子として恥じない戦いを見せられると思う。


「ヨハナが負けるところは久しぶりに見ました」


エトムント殿下から最後にお茶でも誘われたので二人で話す事にした。

自分が負けると思っていなかったヨハナは私達から距離を置いたところで剣の素振りをしている。

おそらく私がエトムント殿下と二人きりで話せるように気を使ってくれたのだ。

負けた事が悔しかったって気持ちの方が大きいでしょうけどね。


「そうなのか?」


驚いた表情を向けてくるエトムント殿下に頷いて肯定する。

ヨハナが負けるところを見たのはもう何年も前だ。彼女が強いと聞いて挑もうとする人が多かったがいつも簡単にあしらわれていた。

そのヨハナに二週間足らずの特訓で勝ったのだ。エトムント殿下は剣術の才があるのだろう。


「そういえばヨハナに勝った時に言っていた言葉ってどういう意味ですか?」


最後の練習試合が終わった際、エトムント殿下はヨハナに「これで認めてもらえたか?」と尋ねていたのだ。彼女は拗ねた顔で首を横に振っていたけど一体どういう意味なのだろうか。

私の質問を聞いたエトムント殿下は何に驚いたのか紅茶が気管に入ってしまったらしく咽せてしまう。


「だ、大丈夫ですか?」

「平気だ…」


平気と言われるが息苦しそうにしているところを見るにかなり辛そうだ。

聞いたら駄目な質問だったのかしら。

もしそうだったら申し訳ない事をしてしまった。


「無理に答えなくて大丈夫ですから…。変な質問をしてしまってすみません」


気になるし、無理に聞き出したい気持ちはある。ただエトムント殿下に嫌われるような真似はしたくない。

苦笑いを浮かべる私に彼は眉間に皺を寄せた。


「すまない。今は話せないんだ」

「そうですか」


こちらから引く事で「実は…」と話してもらえるかもしれない。一瞬でも期待した浅ましい自分がいたが現実は甘くなかったようだ。

落ち込む顔を見せたくなくて誤魔化すように紅茶のカップを口に押し付けた。

普段飲んでいる物と変わらないレモンティー。それなのにいつもより酸っぱく感じる。


「その、ルドヴィッグ殿に勝ったら話すから…もう少し待っていてくれないか?」

「ルド兄様に勝ったら?」


そういえばエトムント殿下に認めてもらえたかと聞かれたヨハナは「ルド様に勝ったら認めますよ」と返していた。

あの言葉の意味もよく分からないが兄と三人で賭け事でもやっているのだろうか。


「エリーザ嬢、明日の勝負…」

「はい?」

「私だけを応援してくれないか?」


唐突な事に戸惑うし、どういう意図が含まれているのか気になる。ただ好きな人に自分だけを応援して欲しいとお願いされたのだ。断るわけにはいかない。


「分かりました。エトムント殿下だけを応援します」


私としても兄に勝って欲しいと思っている。

彼が勝てるように精一杯応援しよう。

私の答えにエトムント殿下は花咲く笑顔で「ありがとう」とお礼を言った。



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