第39話 友への報告

エトムント殿下が好きだと気が付いた日、特訓終わりに尋ねたのは友人エミーリアの執務室。

本日終わらせる分の仕事を丁度終えたところだった為そのまま二人でお茶をする事にした。

部屋に防音結界を施すと回りくどい事は無しで本題を切り出す。


「私、エトムント殿下が好きだわ」


私の言葉にエミーリアは紅茶を吹き出しそうになる。扉の側に立っていたカルラは驚いた表情を見せた

ただヨハナは澄まし顔のままだ。予想出来ていたのかどうでも良いのか眉一つ動かさない。

持っていたカップをソーサーに置いたエミーリア。どうやって話を切り出したら良いのか分からないのだろう視線をあちらこちらに移動させる。


「えっと……いつから?」

「さっき気が付いたわ」

「いきなりね」

「色々あったのよ」


自分の侍女に嫉妬したり、エトムント殿下に期待するような言葉をかけられたり。恥ずかしくて言えないけど好きになった事だけは報告したかった。

含みのある言い方をしたからだろうエミーリアは気になる様子だ。ただ優しい彼女の事だから私から話さない限りは無理に聞き出そうとはしないのだろう。


「リーザがエトムント殿下を好きだって自覚したのは分かったわ。それでリーザはどうしたいの?」


首を傾げるエミーリアに合わせて私も首を傾げた。

どうしたいって別にどうするつもりもない。

ただエトムント殿下だと自覚したというだけなのだから。


「どうもしないわよ。むしろどうしろって言うの?」


聞き返すとエミーリアは「リーザらしいわね」と苦笑する。

私らしいって何だろうか?

自分の返答に可笑しいところは見当たらない。困惑しているとエミーリアは紅茶を一口飲むと「例えば」と話を始める。


「エトムント殿下の婚約者になりたいとか思わないの?」

「は?」


エトムント殿下の婚約者?

彼が好きなのはエミーリアだし、私は王太子妃の器を持っていないのだ。

私は自分の平凡さをよく理解している。身の丈に合わない立場を得ようとは思わない人間だ。

婚約者になりたいと考える事すらしなかった。


「私には王太子の婚約者は務まらないわ」

「じゃあエトムント殿下との関係を進めようと思わないの?」

「今のままで十分よ」


普通の貴族令嬢よりは近い距離にいる。思い出が作れたら十分なのだ。欲張っちゃいけない。


「ねぇ、リーザ」

「何?」

「もしエトムント殿下に告白されたらどうする?」


エトムント殿下に告白されたら?

それはあり得ない話だ。

エミーリアの問いかけに首を振って「告白されるわけがないわ」と答えを返す。


「もしもの話よ」


仮にエトムント殿下に告白されたとしても立場の違いを考えて断ってしまうだろう。

ただ王族、貴族という面倒な事を取っ払って考えたらきっと私は…。


「付き合いたい…と思う」


好きな人から告白されて嬉しくないわけがない。

拒否するわけがないのだ。

私の答えにエミーリアは「そう…」と短く呟いてまた紅茶を口に含む。

どういうつもりでこの質問をしたのだろうか。


「リーザ、私は貴女がどんな答えを出しても味方で居るからね」

「何の話よ…」

「そのうち分かるわ」


意味あり気に笑う友に首を傾げた。

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