第36話 よく分からない侍女
「ヨハナ、誘拐未遂事件について調査して」
エミーリアの執務室から離れたところでヨハナにお願いすると「リーザ様は首を突っ込まない方が良いですよ」と返されてしまう。
「別に解決しようとは思っていないわよ。ただ何も知らない方が不安なの」
エミーリアが教えてくれるとは思うけど全ては話してくれないだろう。特に私に纏わる事に関しては伏せてしまうはず。父と兄に聞くという手もあるけど「リーザは何も心配しなくて良い」と言われる可能性が高い。
そうなってくると自分で情報を得るしかないのだ。
「何もしないと約束出来ますか?」
「私に出来る事は周囲を警戒する事くらいよ」
「それなら良いですけど…」
疑いの眼差しを送ってくるヨハナに肩を竦めて「本当に何もしないわ」と苦笑する。
そもそも今回の件は貴族派の厄介者が多く関わっているのだ。伯爵令嬢如きにどうこう出来る問題じゃない。
「数日お待ちください」
「無理させて悪いわね」
「良いですよ。リーザ様の無茶振りは今に始まった事ではありませんから」
しれっと返してくるヨハナ。反論したいところだけど実際そうなのだから笑って誤魔化すしかなかった。
「エリーザ嬢」
話している間に訓練場に着いていたようだ。先に来ていたエトムント殿下に声をかけられた。
頭を下げて「おはようございます。お待たせしてしまってすみません」と挨拶と謝罪をする。
「いや、事情は聞いている。私もさっき来たばかりだから気にしなくて良い」
穏やかな笑顔を浮かべるエトムント殿下。相変わらず優しい人だと頰が緩む。
後ろに立っていたヨハナから「だらしない顔になってますよ」と耳元で言われる。睨もうと振り向くと揶揄うように笑われてしまう。
「エリーザ嬢?どうかしたのか?」
「い、いえ、何でもないです。すぐに準備して来ますね」
逃げるように更衣室に向かった。
「リーザ様ってやっぱりエトムント殿下が好きですよね」
更衣室に入るなりヨハナから言われて動揺が走る。
私がエトムント殿下を好き?
彼女にもそう見えるのだろうか。
「やっぱりって何よ…!別に好きじゃ…」
「誤魔化すのは勝手ですが自分の気持ちには素直になった方が良いですよ」
私の言葉を遮ったヨハナは呆れたような表情を向けた。
別に気持ちを誤魔化しているつもりはない。ただ自分の中にある気持ちが恋なのか分からないのだ。
「出過ぎた事を言いました」
「別にヨハナは悪くないでしょ」
「反省していますので着替えはお一人でしてください」
「は?」
ぺこりと頭を下げたヨハナはそそくさと更衣室を出て行ってしまった。
着替えは一人でも出来る。ただ反省している人間が仕事を放棄とは如何なのだろうか。
「何を考えているのよ…」
呆れた声が響いた。
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