第28話 狙われる

「どうしてヨハナもついて来てるのよ」


御者台に座るヨハナを小窓から眺めながら呟く。

放課後になりエミーリアと一緒に王城に向かおうとホルヴェーク侯爵家の馬車のあるところまで行くと彼女の侍女カルラとヨハナが楽しそうに談笑していたのだ。

てっきり一人で伯爵邸に帰ると思ったのに「私もついて行きますね」と笑顔で言われてしまった。


「きっとリーザの事が心配なのよ」


目の前に座る友人が苦笑いで答える。

彼女の侍女はヨハナによって御者台に連れて行かれた。私達を二人きりにする為かもしれないけど、単に話す相手が欲しかっただけかもしれない。


「あの子はエトムント殿下が見たいだけでしょ」


当然な話だけどヨハナはエトムント殿下と会った事はない。姿絵で顔だけ知っているだけだ。

私の話からどんな人物か気になっていたので良い機会だとついて来たのだろう。

幼馴染としてヨハナの性格をよく知っているエミーリアは否定出来ず苦笑いを浮かべた。


「ちょっとくらいは心配していると思うわ」

「私が問題を起こさないか心配しているのよ」

「それは…あるでしょうね」

「否定してよ」


じっと見つめながら言うと「ごめんなさい」と謝られる。

王城で問題を起こすわけがないのに。

小さい頃はエミーリアと一緒に悪戯をした事もあるけど。あれは大きなお城に連れて来られてはしゃいでいたからだ。この歳になってはしゃぐわけがない。


「遊びに行くわけじゃないのに」

「それはそうだけどリーザが王城に行くってなると騒ぐ印象が」

「何年前の話をしているのよ」

「十年前?王城で走り回って迷子になっていたじゃない」


騎士団の訓練を見るのに飽きた私は王城を走り回り迷子になったのだ。見つけてくれたのはエミーリアだった。ただ二人揃ってどこに帰ったら良いのか分からず泣いた記憶がある。

結局ホルヴェーク侯爵に助けられたのよね。


「ああ、そういえば…」


エミーリアの言葉がぴたりと止まったのと同時に馬車も停車してしまう。外を見ると明らかに森の中。王城に到着したというわけじゃなさそうだ。

外の様子を確認しようと扉に手を掛けたところでエミーリアに止められる。


「今は出ない方が良いわ」

「どうして?」

「窓の外を見れば分かるわよ」


エミーリアに言われるがまま小窓から外を眺めるとヨハナ達が見知らぬ男性五人と戦っているのが見えた。

物取りなのか暗殺者なのか。どちらか分からないが圧倒的にこちらが有利だ。


「もしかしてリアっていつもこんな風に狙われているの?」

「時々よ。仕方ないわ、王太子の婚約者だもの」


王太子の婚約者が命を狙われやすいというのは想像に難くない。しかし目の当たりにしてしまうと心配になってくる。

それに気が付いたのだろうエミーリアは苦笑しながら「心配しなくても大丈夫よ」と返してきた。

護衛は万全なのだろうがやっぱり心配する気持ちは変わらない。


「クリストフ殿下は知っているの?」

「心配かけたくないから言ってないわ」


クリストフ殿下の事だ。もしエミーリアの命が狙われていると知ったら相手を許さないだろう。

もう知っているような気がするし、大方裏で全てを処理しているのだろう。

そう思っていると馬車の扉が開いた。姿を見せたのはヨハナだ。


「リア様、リーザ様、大丈夫ですか?」

「それはこっちの台詞よ。血が…」

「ああ、これは返り血ですので」


笑顔で答えるヨハナ。返り血だから平気というわけでもないのに。

彼女の身体に触れて浄化魔法で血を消していく。

全てが消えた頃に「ありがとうございます」とお礼を言われる。


「あれはどうしましょう?どうやらお二人を狙っての犯行だったみたいですけど」 

「私はともかくリーザも狙っていたの?」

「おそらく貴族派の差金でしょうね」


私達が二人で馬車を乗り込むのを目撃した貴族派の人間が命令したのだろう。もしくはクリストフ殿下かエトムント殿下の婚約者になりたくて仕方ない貴族令嬢の差金だ。

全くもって厄介な話である。


「依頼主を吐かせて来ましょうか?」


爛々とした眼差しを送ってくるヨハナに苦笑いになる。おそらく拷問をやりたいのでしょうけどここでやられても困る話だ。


「王城に行ったらお父様に報告して対処して貰って」

「畏まりました」


私の命が狙われたと知った父を想像するだけで疲れるが一番早く対処してくれる人であるので仕方ない。


「ビューロウ伯爵に報告して良かったの?王城に訪れる事がバレてしまうわよ」

「適当に言い訳するから別に良いわ。そっちこそ今回の件はクリストフ殿下に伝わるわよ」

「私だけが狙われるならともかくリーザを狙ったのよ。今回に限ってはクリスの手を借りるわ」


相変わらず私の為に怒るところは変わらない。

笑顔なのに恐怖心を煽ってくる友人に苦笑いが漏れた。



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