第26話 相談
「エトムント殿下が好きかもしれない?」
ホルヴェーク侯爵邸のエミーリアの自室に訪れるなり昼間に起きた騒動について洗いざらい話した。
一瞬怒りかけていた彼女を宥めて話したのはエトムント殿下の事が気になっているという事だ。
意外だったのだろうエミーリアは目を大きく開いて苦笑いを見せた。
「す、好きというか気になっているの…」
散々エミーリアを焚き付けるような事を言っていたけど実際のところ好きという感情の事はよく分かっていない。だから自分の中に芽生えている気持ちが本当に恋なのか分からないのだ。
それに人から恋の相談をされる事はあったけど自分の事を相談するのは初めての事。
恥ずかしさに顔が赤く染まる。
「もしエトムント殿下を好きだったとしてリーザはどうしたいの?」
「どうしたいって…」
「恋人になりたいとか婚約者になりたいとかあるでしょ」
恋人?婚約者?
エトムント殿下とそういう特別な関係になったところを想像して一人で恥ずかしくなる。
容易に想像出来てしまうって想像力が豊か過ぎるでしょ。
「す、好きなのか分からないのにそこまで考えられないわよ…」
本当は恋人になった姿を想像したけど気持ち悪いと思われたら嫌なので黙っておく事にした。
恋愛初心者然とする私が面白いのかエミーリアはくすりと笑って「それもそうね」と言ってくる。
ちょっと前までは逆の立場で揶揄っていられたのに。
揶揄われる側って結構胸に来るのね。
「リア、好きってどんな気持ち?」
自分が感じる好きとエミーリアの感じる好きが同じであるとは思わないけどちょっとくらいは参考になると思って尋ねる。
少しは照れると思ったのにエミーリアは恥ずかしがる素振りすら見せず真面目に考え始めた。
やっぱり私よりもずっと真面目よね。
「特別な人を思う気持ち?」
「意味が分からないのだけど」
「付き合うならこの人じゃないと駄目って思ったり、他の人と比べられないくらい大切だと思う気持ちかしら」
他の人と比べられないくらい大切かどうかは分からない。家族もエミーリアも大切だ。彼一人だけが特別というわけじゃない気がする。
ただ誰かと付き合うとなったらエトムント殿下じゃないと嫌だと思う。
「後は他の誰かに奪われたら嫌だと思ったり、独占したいって気持ちも好きの一種だと思うわ」
エトムント殿下が他の誰かに奪われる?
私の知らない誰かと歩いているところを想像しようとするだけで胸が痛くなる。多分嫌って事なのだろう。
独占したいかと聞かれたら微妙だ。エトムント殿下は王太子でいずれは王位を継ぐ身。その人を独占したいって無謀にも程がある。
「好き、なのかしら…」
「それは私が決める事じゃないでしょ。リーザが考えないと意味ないわ」
エミーリアから教えて貰った事を参考にして考えるとエトムント殿下の事は友人以上には思っているが恋人にしたいわけじゃないという感じだ。
これだと好きなのか分からない。
「どうしよう。余計に分からなくなったわ」
「悩むのは大切な事よ。貴族にとって恋は人生を左右する事なのだから」
「随分と達観しているのね。つい一ヶ月前までは悶々としていたくせに」
上から目線で言ってくるエミーリアをじっと見つめた。。
彼女は既に恋愛初心者じゃないので別に偉そうに言われても良いのだけど納得出来ない気持ちもある。
「そ、それは、その…」
「私が焚き付けた時はうじうじとしていたのに」
「偉そうに言って悪かったわよ!」
真っ赤になりながら謝ってくるエミーリアに「私の勝ちね」と意地悪く笑う。
正直なところ何に勝ったのか分からないがそう言いたくなったのだ。呆れたように溜め息を吐いたエミーリアは「何に勝ったのよ」と返してくる。
「何となく言いたくなったのよ」
「そう」
「とりあえずエトムント殿下の事はゆっくりと考えてみるわ。話を聞いてくれてありがとう」
「貴重なリーザを見せてくれてありがとう。相談ならいつでも乗るからね」
さっきの仕返しなのかわざと煽るように言ってくるエミーリアに苦笑いを返した。
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