幕間15 怒り※エトムント視点
「エリーザ嬢はどこに行った…」
教室に訪れてみたがエリーザの姿は見えなかった。
私は彼女の事を知らなさ過ぎる。エミーリアと居ない時の彼女がどんな風に過ごしているのか全く分からない。どこへ行くのかも分からないのだ。
放課後に会いに行けば良いかと歩いていると女生徒の金切り声が聞こえてくる。
「喧嘩か?」
厄介事に巻き込まれるのは勘弁して欲しいと思うが問題が起こっている以上は放っておけない。王族としての性なのだろう。
言い争うような声の方向に進むと意外な人物が視界に映り込む。
「エリーザ嬢?」
探していた人物が女生徒三人に囲まれて居たのだ。
友人と楽しくお喋り。
そうじゃない事くらい見れば分かる。
エリーザに絡む三人は見た事があった。前々から私の周りをうろちょろしている迷惑な令嬢達だ。
そう思っていると不愉快な声が響いた。
「貴女みたいな粗雑な伯爵令嬢がエトムント殿下の側に居るだけで迷惑なのよ!」
「そうよ!剣を振る事しか出来ないくせに調子乗らないで!」
「エミーリア様にくっ付いている事しか脳がないくせに!少しはあの方を見習ったらどうなの!」
エリーザは前に周囲と比べられて酷い言葉を投げ掛けられる事があると言っていた。彼女の言葉を疑っていたつもりはなかったが目の当たりにすると違ってくる。まるで祖国に居る時の自分を見ているようで胸が苦しい。
何より心を抉るのは私のせいでエリーザが絡まれている事実だ。
「言い返したらどうなの?ああ、図星だから言い返せないのね!」
ここからではエリーザの表情を見る事は叶わない。同じような事を経験している身だ。彼女がどんな風に感じている事くらいは察せられる。
きっと言い返す事が出来ない事に悔しがっているのだ。
「さっさとエトムント殿下の側から消えなさいよ!」
三人組の中心に居た女生徒がエリーザを突き飛ばす前に身体が動いていた。もう少し早く動いていれば止める事が出来たのに。
ぐらりと揺れて倒れ込むエリーザを抱き止める。
「貴様らは何をやっている」
自分でも驚く程、低い声が漏れる。
エリーザの身体を抱き締めながら三人の女生徒達を睨み付けた。
「え、エトムント殿下…」
怒りを孕む声と視線に三人は怯み、顔を青褪めさせる。震えた声で名前を呼ばれるが不愉快しか感じられない。
苛立ちから表情が歪む。
「わ、私達はビューロウ伯爵令嬢とお話を…」
「話すだけで突き飛ばす事になるのか?」
「それは…。彼女に酷い事を言われて咄嗟に…」
まるで自分達は被害者だと言おうとしている愚者達を強く睨む。
私が何も知らないと思って言っているのか?
くだらない嘘で誤魔化せると本気で思っているのか?
怒りに満ちた声は相変わらず低いものだ。
「何と言われたのだ?」
「えっと…」
「え、エトムント殿下に近付くなと言われました」
「それは貴様らが言った事だろう」
よくも私に嘘をつけたものだ。
この状況で嘘をつける図太い心だけは褒めてやっても良い。
「エトムント殿下、離して…」
愚者達を睨み付けている間に腕の中から逃れようとするエリーザがいるが頼むから今だけは、せめてこの三人組が消えるまでは離れないで欲しい。
「そもそも貴様らに私の名前を呼ぶ許可を与えた覚えはない」
エリーザの言葉に被せるように声を出す。
先程よりも眼光を鋭くさせると三人組は顔を青くさせて今にも倒れそうにふらついた。
「私の周りをうろちょろとしているのは貴様らの方だろう。これまでは大目に見てきたが我慢の限界だ。二度と私に近寄るな」
前々から気に食わなかった。
ただ他国で問題を起こすわけにもいかず見て見ぬ振りをしていたがエリーザを傷付けようとしたこいつらを許しておくわけにはいかない。
強く言い放つと中心に居た令嬢から「な、何故…」と弱々しい声が響く。庇護欲も唆られない不愉快な声だ。
「迷惑だからに決まっているだろう」
突き放すように告げる。
「今すぐエリーザに謝り、私の前から消えろ」
「え、エトムント殿下…」
「同じ事を二度も言わせるな。貴様らが言うのは謝罪の言葉のみだ」
どう足掻いても許すつもりはない。
馬鹿でもそのくらいは分かったのだろう三人組は泣きそうな表情を浮かべながらもエリーザに頭を下げた。
「も、申し訳ありません」
それだけ言うと三人はバタバタと逃げて行った。
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