幕間14 友との会話※エトムント視点
ルドヴィック殿と勝負をする事となったのは良いがエリーザに指南して貰う約束は取り付けられていない。
そもそも男が女性に剣術を教えて貰うのはどうなのだろうか。男尊女卑の酷い祖国だったら話を持ち掛けるだけで引かれそうなものだ。
てっきりいつものガゼボでエミーリアと昼食を取っていると思ったのだけど、そこ居たのは彼女と婚約者のクリストフのみ。
「クリス、リア」
深刻そうに何かを話す二人に近付くと防音結界が張られており近付いて良いのか分からなくなる。私の存在に気が付いたのはエミーリアの方だった。私に向かって手を振る仕草をする事でクリストフもこちらに気が付いて結界を解除してくれる。
大事な話をしているのなら邪魔をするわけにはいかなかったが二人は揃って私の方に笑いかけてくる。こちらに来いという事だろう。
「邪魔して悪いな」
「気にしなくて良いよ。エトに話があったから」
「そうなのか?」
時機が良かったのかクリストフから笑いかけられた。
並び合って座る二人の前に腰掛ける。
明らかに誰かが座っていた形跡がある事からその誰かがエリーザだと予想出来てしまう。むしろ彼女以外でここに座ろうとする勇気ある者は居ない。
エミーリアの侍女が用意してくれたお茶を口に含もうとした瞬間、聞かされたのは意外な話だった。
「実はリーザがエト様に剣術を教えたいみたいなのです」
お茶を飲む前で良かった。もし飲んでいたら吹き出していたところだ。
今エミーリアは何と言った?
エリーザが私に剣術を教えたがっている?
私も同じ事を考えていたがまさか過ぎる展開だ。
「そ、それはどうして…」
「エト様はルドヴィック様の剣技を何も知らないでしょう?それでは不利になってしまうと考えたみたいですね」
確かにルドヴィック殿の剣技は何一つとして知らない。少しでも勝利に近付く為エリーザに教わろうとしていたのだけど嬉しい誤算だ。ただ剣技を教わりもしないと勝てないと思われているのが癪な部分がある。
実力の差があり過ぎるから仕方ない事だと分かっていても苛立つものは苛立つ。
「訓練の場所は僕が提供するから安心して」
「そうなのか?」
「ルドヴィックにも他の貴族達にも騒がれない場所だよ」
「有難い話だな」
ルドヴィック殿にエリーザと話しているところを見られたら大騒ぎになるだろうし、他の貴族達に見られたら彼女が野蛮な人間であると変な噂が流されてしまいそうだ。
それだけは避けたい。
「実は私もエリーザ嬢に剣の指南を頼もうと思って居たんだ」
「どうしてリーザなの?」
「彼女はルドヴィック殿の事をよく知っているだろ?」
彼女とルドヴィック殿がどのくらいの間一緒に剣の稽古をしていたのかは知らないが家族なのだ。他の人間に聞くよりも遥かに良いだろう。というのは建前で本音は少しでも彼女と話す時間が欲しいだけだ。
私の言葉にクリストフとエミーリアは揃って苦笑いを浮かべた。やはり男が女性に剣の指南を頼もうとしていたのは変だったのだろうか。
「案外上手くいくかもね」
「そうね。お似合いだわ」
目の前で繰り広げられる会話に首を傾げる。
何の話をしているのだ?
私の視線に気が付いたエミーリアが「何でもありません」とぎこちない笑顔を見せてくる。聞いて欲しくないのだろうと疑問は胸の奥に仕舞い込む。
「確かにビューロウ伯爵令嬢に教わるのが一番だね」
「クリスもそう思うか」
「ああ、そうだね」
どうやら変に思われたわけではなさそうだ。
胸を撫で下ろしているとエミーリアから声を掛けられる。
「エト様、リーザに剣を教わるのは良いですけど怪我をさせないようにしてくださいね」
「心得ている」
嫁入り前の娘の身体に傷を付けるわけがないし、私自身も彼女に傷を作って欲しくないと強く思う。
剣を教えて貰うと言っても彼女とは軽く打ち合う程度になるだろう。彼女とは話せるだけで良いのでそれでも構わない。
「クリス、エリーザ嬢とは別にお前も私に剣術を教えてくれないか?」
流石に女性だけに任せるというわけにはいかずクリストフに頼むと一瞬驚かれたが最後は満面の笑みで「任せて」と返された。
剣術のみだったら勝てる自信があるが魔法込みだったら間違いなく彼に軍配が上がる。せめて彼に勝てるくらいには仕上げておきたいところだ。
「ルドヴィック殿はどのくらい強い?」
「少なくとも僕の十倍は実力があるね」
ぐっと唇を噛み締めた。
勝てる兆しは今のところ見えないが諦めてなるものか。惨めな姿になったとしてもエリーザに勝利を届けるのだ。
「勝ちに拘らなくてもルドヴィック様相手なら十分間戦えるだけで十分な実力の持ち主だと…」
「それでは約束が果たせない」
一方的な約束ではあるしエリーザも私が勝てると思っていないかもしれない。
私の自己満足に終わるかもしれないがそれでも…。
馬鹿みたいに一人で盛り上がっている私が哀れなのか、心配しているのかエミーリアとクリストフは眉を下げてこちらを見つめてくる。
「エリーザ嬢に話があるから失礼する。二人の時間を邪魔して悪かった」
若干の居心地の悪さを感じて席を立ち上がる。
ガゼボを離れようとするとエミーリアから声をかけられた。
「私は応援していますから」
「僕もエトを応援しているよ」
ルドヴィック殿との勝負の話をしているはずなのにその言葉には別の意味が含まれているような気がしてならなかった。
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