幕間12 無自覚※エトムント視点
エリーザとのお茶会が終わりガゼボを後にする。
また今度と声をかければ「また今度お話しましょう」と返されて、それだけで嬉しくなる自分がいた。
「随分と楽しそうだったね」
教室に戻る最中、声を掛けてきたのはクリストフだった。同じ場所に戻るのだ。一緒にいかないわけがない。
ふとクリストフの周りを見回してしまうのは先程まで彼と一緒に居たルドヴィッグ殿が居なくなっているから。
「リアならビューロウ伯爵令嬢のところに行ったよ」
クリストフと二人揃っていたら勝負について話せたのに残念だ。
そう思っていると私の視線から何かを察したのだろうクリストフが答えてくる。
ふとガゼボの方に視線を向けると確かにエミーリアはエリーザと話をしている様子。大方、お茶会がどうだったかを聞いているのだろう。
「リアの事を聞きたかったわけじゃない」
「え?」
エミーリアとエリーザが合流する事くらいは予想出来ていた。だからルドヴィッグ殿の姿を探したのだ。
私の返答にクリストフは驚いた表情をこちらに向ける。
「ルドヴィッグ殿はどこに行った?」
「ああ、次の授業の準備に向かわせたよ。今にもエトに噛み付きそうだったからね」
ルドヴィッグ殿から見た私は溺愛している妹と二人きりになった男。敵なのだろうな。
やはり私が挑まなくてもそのうち彼から勝負を仕掛けてくる可能性が高そうだ。
彼と戦う前にやるべき事がある。エリーザとの約束通りクリストフに許可を得なければいけないのだ。
善は急げと言うし、今ルドヴィッグ殿との勝負について話すか。
「クリス、頼みがある」
「エトが僕に頼み事をするなんて珍しいね」
「実はルドヴィッグ殿と模擬戦をする許可が欲しい」
「どういう事?」
いきなり言い出した為クリストフは戸惑った表情になる。
ルドヴィッグ殿と勝負をしたくなった経緯を説明していく。黙って聞いていたクリストフは話が終盤になるにつれて楽しそうな笑みを浮かベ始める。
「ビューロウ伯爵令嬢の為にルドヴィッグと勝負をしたいって事だよね?」
「そうだな」
エリーザに良いところを見せたい。
彼女との距離を縮める際に立ち塞がるであろう存在を打ち倒したい。
その気持ちから勝負を挑もうとしているのだ。
「エト、ビューロウ伯爵令嬢の事をどう思っている?」
「いきなりだな」
「良いから答えて」
「面白いご令嬢だと思っている。話していて苦にならないな」
エリーザは私が王子だからと熱っぽい視線を送って来たり、擦り寄って来ない。媚を売るどころが距離を置こうとするのだ。
真面目で優しくて、友達思い。それでいて普通の令嬢とは異なる面を多く持っている。
他とは比べられないくらいの魅力が詰まった女性だ。
「無自覚なのか…」
クリストフからの言葉に首を傾げた。
何が無自覚なのだろうか。よく分からないが話を進めさせて貰おう。
「エリーザ嬢は仲良くなりたい女性だ」
「あ、うん…」
「彼女と距離を縮める為にはルドヴィッグ殿を倒す必要がある。勝負を許可してくれ」
こちらが真剣に言っているのにクリストフは今にも吹き出して笑いそうになっている。
何か面白い事でも言ったか?と考えてみるが思い当たる節がない。
「何故笑う」
「い、いや、ごめん。何でない」
何でもないって顔じゃないだろと睨み付ける。
笑い出しそうになるのを堪え切ったクリストフは普段通りの爽やか表情をこちらに向けた。
さっきのは何だったのだ。
「ルドヴィッグとの勝負だね。許可するよ」
「本当か?」
「うん。ビューロウ伯爵令嬢が二人の勝負を見学する件も僕から学園に話しておこう」
それは助かる話だ。
他国の王子である私が話すよりクリストフが話した方が問題が起き難い。
「ルドヴィッグには僕から話しておこうか?」
「良いのか?」
「僕が間に入った方が話を進めやすいでしょ」
下手にルドヴィッグ殿を焚き付けて、その場で勝負をするわけにもいかない。
確かにクリストフの介入は好ましい話だ。
「勝負の日時はどうする?」
「最近は訓練不足で少し腕が鈍っているからな…」
天才と呼ばれる相手に中途半端な状態で勝負を挑むのは危険だ。
出来るだけ万全の状態にしておかなければいけない。
そうなると時間が必要だな。
「三週間後は?」
「どうして三週間後なんだ?」
「ルドヴィッグが特別講師を終える日の催しとして扱えば変に勘繰る人も減るだろ」
確かにその通りだ。
天才騎士の最後の授業、隣国の王子が挑むのは催し扱いになるだろう。
それに三週間もあれば私も準備が出来る。
良い提案だと思う。
「では、そうしてくれ」
「分かった」
「感謝する」
三週間か。
ルドヴィッグ殿の戦い方がどのようなものか知る必要もあるな。
彼の妹であるエリーザに聞くのが一番だろう。きっと教えてくれるはずだ。
また彼女と話す機会が出来そうで頰を緩める。
「三週間のうちに自覚しろよ」
クリストフの言葉の意味を理解したのはもっと後の事だった。
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