第17話 違和感
「では、また今度」
昼休みも終わりに近づきエトムント殿下とのお茶会もお開きとなる。
お別れを言われるので「また今度お話しましょう」と返す。
少し前までは全く話したくなかった相手。親近感が湧いたからかまた話してみたくなったのだ。我ながら失礼で単純な人間だと思ってしまう。
私の返答が良かったのかエトムント殿下は満足気な表情で立ち去って行った。
「リーザ」
ガゼボに一人残された私のところにやって来たのはエミーリアだった。
てっきり兄が駆けて来るかと思っていたが午後の授業の準備があるのだろう。既にクリストフ殿下共々居なくなっていた。
「ルド兄様達は?」
「午後の授業の準備があるって言ってたわ」
予想は的中していた。
兄に絡まれるのは厄介なので安堵の息を吐くとエミーリアは苦笑いを見せた。
私の気持ちを察しての表情なのだろう。
「随分と楽しそうに話していたみたいだけど何の話をしていたの?」
「普通の世間話よ」
エトムント殿下の過去をエミーリアが知っているかどうか分からない。勝手に話すわけにもいかないので誤魔化すように言うと気の利く友人はそれ以上は何も聞いてこなかった。
「また厄介事が起こりそうなのよね」
「今度はどうしたの?」
「エトムント殿下がルド兄様と剣術で勝負したがっているみたいなの」
勝負の話になった経緯を簡単に説明する。
エミーリアは目を見開いて驚くが次の瞬間には「へぇ…」と意味あり気な声を漏らした。
「私がエトムント殿下に余計な事を言っちゃったからルド兄様と勝負しようとしているのよ…」
エトムント殿下は努力の人。
王子としての矜持がある以上やる前から勝ち負けを決められているのが気に食わなかったのだろう。
「それはそうだけど多分リーザが思っているような理由じゃないと思うわ」
「どういう事?」
「多分エトムント殿下は……いや、何でもないわ」
そこまで言っておいて勿体ぶらないで欲しい。
エミーリアをじっと見つめると目を逸らされてしまう。まるで教えたくないと言われた気分だ。
「多分だけどエトムント殿下はリーザに良いところを見せたいのよ」
「私に良いところを見せてどうするのよ」
そういうのは好きな人の前でやるものだ。
つまりエトムント殿下が良いところを見せたい相手は私じゃなくてエミーリアという事になる。
好きでもない私に良いところを見せても利益はないだろう。
「エトムント殿下は王子の矜持を守る為にルド兄様と戦いたがっているだけよ」
私に剣の腕を見せてくれるという目的もあるだろうが深い意味はない。
エミーリアを見ると呆れたような表情をこちらに向けていた。
「……リーザって鈍感なのね」
「は?」
鈍感は私じゃなくてエミーリアの方だ。彼女の鈍感っぷりが発揮されるのは恋愛面に限られるけど。
私は結構鋭い人間だと思う。
自分で言うのはどうかと思うけど少なくともリアよりは鋭い方だ。
「鈍感はリアでしょ?」
「私も人の事はあまり言えないけどリーザもなかなかよ」
「ええ…」
エトムント殿下が兄に勝負を挑もうとしている事に別の意味があるのかと考えてみるがよく分からない。
何か見落としているのかしら。
「リーザに焚き付けられたからエトムント殿下はルドヴィック様に勝負を挑もうとしているのよ」
「私が失礼な事を言ったからでしょ?」
「そうね、リーザが言ったからよ」
微妙に会話が噛み合っていない気がするのは気のせいではない。
エミーリアは何を伝えたいのだろうか。
首を傾げるが教えて貰えず変な感じだけが心に残る。
「リーザ、エトムント殿下とルドヴィック様の勝負が楽しみね」
「まだ勝負するって決まったわけじゃないでしょ」
「クリスの事だから面白いものが見れそうだって許可するわよ」
昨日の様子から許可しないだろうと思っていたがクリストフ殿下の婚約者であるエミーリアが言うのだ。
その通りになるかもしれない。
嫌な予感が胸を過った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。