幕間8 巻き込まれた伯爵令嬢※エトムント視点

私の為に設けられる事になった見合いの場。

ウィザード国王に頼まれたのは国に蔓延る貴族派の家から妃を選ばないで欲しいというものだった。

どうやら貴族派の連中に無駄な権力を持たせたくないらしい。

ゾンネ王国にも似たような厄介者達がいる。国王の気持ちも分かるのだ。だから了承させて貰った。

しかし次に頼まれたのは出来れば中立派の貴族令嬢を娶って欲しいというものだった。条件が縛られ過ぎていて嫌な気分になり始めていた私に声をかけてきたのは王妃だ。


「ビューロウ伯爵家は中立派ですよ」


ぴたりと動きが固まった。

初恋の人エミーリアとは違った意味で変わっているご令嬢がいる家。

私が最近興味を持ち始めているご令嬢の家の名前を出されて動揺したのだ。


「噂の件は聞いております。エトムント殿下が望むならビューロウ伯爵令嬢を…」


そこまで言われてようやく彼らの考えに気がついた。

中立派のビューロウ伯爵家のご令嬢を私が娶ればウィザード王家から見れば万々歳なのだろう。

王族として彼らの気持ちは分かるが彼女を利用するような考え方に気分が悪くなる。


「ビューロウ伯爵令嬢には迷惑をかけています。これ以上の迷惑はかけられません」


断るように言えばあからさまに残念そうな表情を向けられた。


「では、こちらの中からお選び頂けると…」


差し出された書類を見ると令嬢の姿絵と名前、家の爵位が記されていた。

おそらく中立派の令嬢達なのだろう。


「どうしても中立派から選ばないといけないのですか?」

「無理強いをするつもりはない。出来ればという話だ」


陛下の視線が鋭く突き刺さる。

脅しように聞こえるのは気のせいじゃないだろう。

ゾンネ王国とウィザード王国は友好国。

対等に見せている力関係。実際はウィザード王国に軍配が上がる。ないとは思うが最悪の友好関係を断ち切られる恐れがあるのだ。


「考えてさせてください」


立ち上がり礼をしてから部屋を後にする。

持たされた書類は自室に帰ってから燃やさせて貰った。


「面倒な話だ…」



二日後、友人クリストフから聞かされたのは予想外の話だった。

見合いの場でビューロウ伯爵令嬢が私の側に付いてもらう事になる話。それは陛下が決めた事だった。


「余計な事を…」


ウィザード国王はどうしてもビューロウ伯爵令嬢を私の妃としたいらしい。

何故、彼女を巻き込む。


「噂のせいだな。貴族派を牽制する為にはエトとビューロウ伯爵令嬢の噂は便利なものだ」

「だからと言って彼女を政に巻き込む必要はないだろ!」


ビューロウ伯爵令嬢との噂の件は私の失言のせいだ。

その後の対応も誤ってしまった。

彼女には迷惑をかけたくないのに…。


「ウィザードの王族として申し訳ないと思っている。無理に彼女を娶れとは言わないが見合いの場の件は了承してくれ」

「ビューロウ伯爵令嬢は何と言っている?彼女が嫌がるような真似は出来ない」

「彼女からは既に了承を貰っている」


国王の頼みとなれば断る事は出来ないだろう。

私が知りたいのは彼女の本心だ。

きっと私を嫌がっている。


「ビューロウ伯爵令嬢を妃する選択はないのか?気になっているのだろう?」


確かにビューロウ伯爵令嬢の事は気になっている。

それは今までに会った事のない貴族令嬢だからだ。

婚約者にしたかったエミーリアを娶れなくなった今まともに話が出来る女性であるビューロウ伯爵令嬢は妃の最有力候補と言える。しかしこの考え方は彼女に対して不誠実な話だ。

それに彼女自身も私の婚約者になるのは嫌がっている。


「無理強いは出来ないだろう」

「そうか…」


残念そうに言うクリストフ。

その表情はウィザード国王夫妻が残念がった時とは違ったように見えた。

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