第14話 王家の無茶振り

当たり前のようにエミーリアの隣に座るクリストフ殿下は笑顔でこちらを見つめてくる。


「兄がリアにご迷惑をおかけしました」

「別に良いよ、あれはあいつが悪いからね」

「リアもごめんね」

「気にしないで」


笑顔で許してくれる友人にはケーキをたくさん奢らないといけない。


「ルドヴィック様の誤解、あっさり解けたわね」

「こんな簡単に解けたなら初めから…」


いや、あれはクリストフ殿下が言ったから効果があったのかもしれない。私が言ったら「エトなんとか殿下を庇っているのか!」とか言われそうだ。

ふと彼と目が合うとにこりと微笑まれた。

爽やかな笑顔のはずなのにどういうわけか余計な事を言ってきそうな雰囲気を感じるのは何故だろうか。


「ビューロウ伯爵令嬢、頼みがあるのだけど」

「何でしょうか。エトムント殿下の事以外でしたらお引き受けしましょう」


これ以上エトムント殿下関連での厄介事を増やされるのは御免だという気持ちを込めて言うとクリストフ殿下の口元が一瞬引き攣った。


「どうしても駄目?」

「……内容によります」


どう足掻いても権力者には敵わないのだ。

渋々と答えればクリストフ殿下は安心したように微笑む。普通の貴族令嬢であれば大喜びなのだろうが彼の本性が良い性格をしている事を知っている身としては逃げ出したいところだ。


「そう身構えなくともエトと二人で話して欲しいだけだ」

「話ですか?何の話をすれば良いのでしょうか?」

「それは二人に任せるよ」


何か目的があるのではないのか。

怪しい。絶対に裏があるわ。

エミーリアが何か知っているかもしれないと彼女に視線を向けると苦笑い。


「リア、何か知ってる?」


黙って首を横に振られた。

もしかして今思い付いた事なの?

不審な視線をクリストフ殿下に贈ると防音の結界魔法が辺りに張られた。


「エトとビューロウ伯爵令嬢の噂が落ち着きを見せ始めているからだ。例のお見合いパーティーで貴族派を牽制する為には二人の噂は必須、今落ち着かせるわけにはいかないって言えば分かるかな」


王族らしい貫くような視線が突き刺さる。

噂が落ち着いてしまえば貴族派の人間は自分達にも機会があると思い込むだろう。彼らが調子に乗ると王族としては困るのだろう。その為エトムント殿下と私が二人で話している場面を多くの人に見せて噂を落ち着かないように図ろうと言うわけだ。

また面倒な事を…。


「ビューロウ伯爵令嬢に迷惑をかけている事は分かっている。礼は必ずしよう」

「……分かりました。場所はここで良いですか?」


エトムント殿下と話す事はないけど王族に逆らうわけにはいかない。

学園には貴族派に所属している家の人間達が多く在籍している。噂を焚き付けるのにも、彼らに見せつける為にもここは最適な場所だろう。

提案するとクリストフ殿下は申し訳なさそうに頷いてくれた。


「お礼は良いので私の家族が騒がないようにしてもらえませんか?特に兄が大騒ぎしそうなので」

「事情説明は僕が行うから安心して」

「いつエトムント殿下と話せば良いですか?」

「明日のお昼休みはどうかな?予定は?」

「特にないです」


明日はエトムント殿下と話す事になりそうだ。

出来るだけ愛想良くしなければいけないと思うだけで疲れる。


「私は良いですけどエトムント殿下は大丈夫なのですか?」

「こちらの事情は話している。ビューロウ伯爵令嬢に申し訳ないと言っていたよ」


ウィザード王国の政治事情に巻き込まれたのはエトムント殿下の方だ。

謝る事はないのに相変わらず真面目な人である。

明日会ったら臣下として謝らせて貰おう。


「クリストフ殿下、念の為に確認しますが私とエトムント殿下に婚約しろと言ったりしませんよね?」


そこまでの無茶振りに応える気はない。

クリストフ殿下はぴたりと動きを止めて、こちらをじっと見つめてくる。

変な間を作らないで欲しいのだけど。


「流石にそこまでは言わない。ただ二人が婚約する気になったら応援はするよ」

「面白がってません?」

「まさか」


この反応…。絶対に面白がっているわ。

私がエトムント殿下と婚約したいと思う気になるわけがないでしょ。

エミーリアは終始苦笑いのままだった。

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