第13話 解決?
「リア様、ご婚約おめでとうございます」
ガゼボに着くなり笑顔でお祝いを告げた兄にエミーリアは嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます」
「幼い頃からクリス様とリア様が婚約者であればと考えていましたが今になって叶うとは思いませんでしたよ」
クリストフ殿下と婚約してからエミーリアは何度この台詞を言われたのだろうか。
私が知っている限りでは十回を超えている。
最初は反応に困っていたエミーリアも言われ過ぎて慣れたのか笑顔で受け流せるようになっているようだ。
「ところでリア様に聞きたい事があるのですがよろしいでしょうか?」
「聞きたい事ですか?私に答えられる事でしたら構いませんよ」
「エトなんとか殿下と妹の噂について聞かせて貰えませんか?」
場の空気が固まった。
それ私の前で聞く事じゃないでしょ。空気読みなさいよ、馬鹿兄様。
流石のエミーリアもこの質問にはどう答えたら良いのか分からない様子だ。
「エトムント殿下とリーザの噂ですか?ただの噂ですから気にする事はありません」
「ですが火のないところ煙は立ちません。まさかエトなんとか殿下はリーザに良からぬ事を…」
「あり得ません」
即答で否定するエミーリアに兄は安心したように息を吐く。
続けて噂が流れ始めた原因についても説明を始めてくれた。エミーリアの言葉だからなのか兄は「なるほど」とあっさり納得する。
「つまりリア様を庇う為にエトなんとか殿下は嘘をついたのですか…」
「リーザを巻き込むような形になってしまって申し訳ありません」
「いえ、そういう事でしたら仕方ないです」
誤解も解けたし、学園から立ち去ってくれるかもしれないと淡い期待をしたのが間違いだった。
「ですが、どうしてエトなんとか殿下がリーザを追いかけ回しているという噂があるのですか?」
「それは彼がエリーザに謝罪をしようとしていたからで…」
「追いかけ回したり贈り物をする意味は何ですか?」
「ですから謝罪を…」
「王族なのですから堂々として居れば良いでしょう。エトなんとか殿下はリーザに気があるからそのような行為に走ったのでは?」
エトムント殿下の気持ちがエミーリアにあると説明すれば簡単に終わる話だ。しかし彼の気持ちを勝手に話すわけにもいかない。
どう説明したら良いのか分からず返答に困るエミーリアに申し訳ない気持ちになる。
「ルド兄様、リアを困らせ…」
「ルドヴィック、僕の婚約者を困らせるな」
私の言葉を掻き消すような低い声を出したのはクリストフ殿下だった。
いつの間に現れたのよ。
兄は驚いた表情を見せたがすぐに彼に向かって跪いた。
「申し訳ありません、クリス様。リア様を困らせるつもりは…」
「謝罪をするならリアにしろ」
威圧的な言葉に兄は立ち上がりエミーリアに向かって頭を下げた。
「リア様、申し訳ありません」
「いえ、大丈夫ですから」
もっと責めても良いのに。
むしろ責めてくれと思う私とは違って優しいエミーリアは簡単に許してしまう。
兄は安心したように息を漏らした。
「ルドヴィック、今回はリアに免じて許すけど次は無いよ」
「畏まりました」
兄はクリストフ殿下に向かって深く頭を下げる。
良かった。これでエミーリアに迷惑がかかる事はなくなる。
「ですが、その…妹の噂が気になるのです」
まだその話を続けるのかと溜め息を吐きたくなった。
「エトがビューロウ伯爵令嬢に気があるかどうかをリアが知っているわけないだろ」
さらっと嘘ついたわ。
クリストフ殿下もエミーリアもエトムント殿下が誰を想っているのか知っているくせに。
本当の事を言うわけにはいかないから仕方ないけど。
「では、クリス様は知っていますか?」
「知らないよ。気になるならエト本人に聞けば良いと思うけど」
ちょっと冗談でしょ。
この人、何言ってるのよ。
出来る事なら兄とエトムント殿下には関わりを持って欲しくない。焦る私と違ってクリストフ殿下は至って冷静だ。
「聞こうとするのは構わないけど隣国の王子相手に問題を起こした時点でお前には謹慎処分を言い渡すつもりだ」
その程度の事で謹慎処分にするのかと思うがエトムント殿下は友好国の王子だ。ちょっとした事が大問題に繋がる事もある。
つまり最初から質問する許可を与える気はないのだ。
兄は悔しそうに唇を噛み締めた。
「エトの件はあまり深く考えるな。そもそもビューロウ伯爵令嬢に気があるなら既に縁談を申し出ているだろ」
「確かにそうですね?」
え、そんな事で納得しちゃうの?
兄を見るとキラキラした笑顔でクリストフ殿下を見つめていた。
「冷静に考えればその通りですね!どうしてその考えに及ばなかったのでしょうか…」
「頭に血が上っていたせいだろ。騎士ならもっと落ち着いて物事を考えろ」
「す、すみません。まだまだ未熟者ですね」
へらへら笑う兄と呆れた表情のクリストフ殿下。そして苦笑いのエミーリアだ。
こんな単純な話で納得しちゃうのね。どうして思い付かなかったのよ。
冷静に考えられていなかったのは兄だけでなく私も同じだった。人前でなければ頭を抱えているところだ。
「それから剣術科の教師がお前を探していた。行ってやれ」
「分かりました」
私とエトムント殿下の件が誤解だったと納得したのだろう。
スッキリした表情の兄は再度エミーリア達にお祝いを言ってから笑顔で駆けて行った。
「面倒事が一つ解決出来て良かったね、ビューロウ伯爵令嬢」
キラキラ笑顔のクリストフ様。
おそらく今度催されるエトムント殿下のお見合いパーティーで私に迷惑をかける事を帳消しにする為に助けてくれたのだろう。
もしくはエミーリアにこれ以上の被害が及ばないようにする為だ。
「あ、ありがとうございます…」
引き攣った笑顔しか出てこなかった。
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