第8話 厄介事が続く

週末になりエミーリアと二人でスイーツ巡りのはずだったのに。


「どうしてクリストフ殿下を連れて来ているのよ」


目の前に座る友人を睨みつけると苦笑いを返された。

二人きりでのんびり楽しむ予定だったのに何故かクリストフ殿下が来ているのだ。大方エミーリアと遊びたいからって理由なのでしょうけど友人との時間を邪魔されたくない。


「どうしても来たいって聞かなくて…」


ケーキも食べず紅茶を飲んでいるクリストフ殿下は私の視線に気がつくと「僕の事は気にしなくて良いよ」と笑いかけてくる。気になるに決まっているだろう。

王太子じゃなかったら今すぐ追い返しているわよ。

まさかエトムント殿下も一緒じゃないでしょうね。

慌てて周囲を見渡すがそれらしき人物はいない。


「そんな不安そうにしなくてもエトは来てないよ」

「クリストフ殿下が来ている理由の方が謎ですけどね」


エトムント殿下が来ていない事に安心するがクリストフ殿下が来ている理由が謎だ。


「休日に婚約者と居たいのは当たり前の事だと思うけど」

「平日でも一緒じゃないですか…。あまりベタベタすると嫌われますよ」


学園の休み時間は基本的に一緒に居るし、放課後も一緒に王城で公務をしていると聞いている。

わざわざ休日まで会う必要があるのかと睨みつけると爽やか笑顔で返された。


「リアが僕を嫌う?あり得ないよね?」

「私に振らないでください」

「嫌いになるの?」

「なりませんけど…」


折角の休日に何を見せられているのだろうか。

自分が問題を抱えていなければ盛大に揶揄う事の出来る会話なのだけど生憎と今はそんな気分になれない。


「それはどうでも良いですけどクリストフ殿下が来た本当の狙いは何ですか?」

「本当の理由?」

「わざわざ来た理由があるのでしょう?」


エミーリアと一緒に居たい気持ちは本物であるだろうけど気遣い屋のクリストフ殿下が目的も無しに邪魔するとは思えない。しかも防音の効いた個室まで用意しているのだ。相応の理由があるのだろう。

呆れた視線を送ると彼は肩を竦めて面白くなさそうな表情を見せた。


「エトの事に関して取り急ぎ伝える事があったから来たんだ。終わったら帰るよ」


またエトムント殿下の件かと溜息を吐きそうになる。


「お見合いパーティーでしたっけ?あれの件ですか?」

「うん、その通り」

「参加はしますよ。挨拶したら帰りますけど」


それで良いと言われたのだ。

参加して挨拶をしたら退散させて貰おうと思っていたのにクリストフ殿下は申し訳なさそうな表情を作った。


「その事だけどすぐに帰られるのは困るんだ」

「え?すぐに帰っても良いと聞きましたけど…」


教えてくれたエミーリアを見るとクリストフ殿下と同じく申し訳なさそうにこちらを見ていた。

状況が変わったって事なのね。

全くもって面倒な話である。


「どうしてすぐに帰ってはいけないのですか?」

「貴族派の人間を牽制する為だ」


クリストフ殿下の言葉にケーキを食べる手が止まった。

この国は内部が酷く荒れているわけではない。

ただ抗争がないわけでもないのだ。

王族を中心としている王族派と自身達の権力と独立性をより強めようする貴族派、そしてどちらにもつかない中立派に派閥が分かれている。


エミーリアの実家であるホルヴェーク侯爵家は中立派を謳っているが王族の婚約者となった事で王族派として扱われているのだ。

強い権力を保持する侯爵家と王族の関わりが深まった事で貴族派は焦っていると聞いている。

そこで湧いて出てきたのが隣国王子の婚約者探し。

王族派の立場が今以上に良くなる事を危惧した貴族派の人間が躍起になって自分達の娘を嫁がせようとしているのだろう。ただそれをウィザードの王族が望むわけがない。下手に権力を持たれたくないからだ。

それ故に中立派の娘がエトムント殿下に嫁ぐ事を望んでいるのだろう。

貴族派を刺激せず王族派を喜ばせないようにする為だ。

そして私の実家ビューロウ伯爵家は中立派。

現段階でエトムント殿下の婚約者候補に最も近しい人物として扱われている私は貴族派を牽制する存在として都合が良いのだろう。


「政治的な都合ですか…」

「君を巻き込んでしまう事は申し訳ないと思っているが今回だけは我慢してくれ」


王族に頭を下げられて断れるわけがないし、この決定はおそらく陛下の采配だ。


「出来るだけエトムント殿下の側に居れば良いという事ですよね」

「ああ、そうだ」

「分かりました」

「感謝する」


厄介事が続くと深く溜め息を吐いた。

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