第9話 心労続き

本当に言いたい事を言うだけでクリストフ殿下は帰って行った。公務が残っているくせにわざわざ出向いたらしい。

誰が聞いているか分からない学園では出来ない話題なので仕方ないけど休日に憂鬱な気分にさせてくれるとは酷い人だ。


「リーザ、平気?」


机に突っ伏した私を心配して声をかけてきたのは友人エミーリアだ。


「平気そうに見える?」


見上げて尋ねると苦笑いを返される。

貴族の娘である以上は政治の事を考えなければいけないのは分かるが中立派の人間であれば私じゃなくても良かったのでは?と思う。

私とエトムント殿下の噂を利用したい気持ちも分かるけど変な事に巻き込まないで欲しい。


「リア、さっきの話はいつ聞いたの?」

「来る時の馬車で聞いたわ」

「面倒だわ」

「陛下の命だからクリスも反論出来なかったのよ」


やっぱり陛下の命令だったのか。


「詳しい事は聞かされていないけど近頃貴族派の人間が不穏な動きを見せているみたいなの」

「リアがクリストフ殿下と婚約したからでしょ。アルバン殿下と婚約した時はそれほど騒がなかったくせに」

「王太子と第二王子だと立場が違い過ぎるもの」


それにクリストフ殿下と違ってアルバン殿下は出来損ない人間だった。周りの貴族が同情的になっていたのは仕方のない事だ。


「貴族派の人間が鬱陶しいのなら徹底的に排除すれば良いのに」

「出来れば苦労はしないわよ」

「それもそうね」


貴族派の多くは建国当初から存在する古株ばかり。いくら王家であっても過去の恩を仇で返すような真似は出来ないのだろう。

謀反でも起こされたら別でしょうけどね。


「でも、私をエトムント殿下の側に置くのは愚直的だと思うわ」


狙いがあからさま過ぎる。

貴族派から反発があってもおかしくない。


「二人には噂があるから貴族派も下手な動きは出来ないわ。エトムント殿下の怒りを買いたくないでしょうから」

「噂ね…。パーティーの頃には落ち着いていると思うけど」

「簡単になくなったら苦労はしないわよ」


噂は厄介なものだ。一度流れてしまえば事実であろうとなかろうと延々と噂されてしまう。

良い噂であれば良いのだけど私としてはあまり良くない噂なので微妙なところだ。


「パーティーで側にいたらまた噂が流れるわ。折角落ち着くまで離れてもらっているのに本末転倒じゃない」

「エトムント殿下の婚約者が決まれば落ち着くと思うけど」

「あの女嫌いの堅物殿下の婚約者が決まると思う?」


おそらくエトムント殿下はエミーリアを引き摺っている。その状態で婚約者が決まるとは到底思えない。

彼女も決まると思っていないのだろう微妙な表情を浮かべた。


「パーティーの件でお父様とルド兄様がまた大騒ぎするわ」

「ビューロウ伯爵達が?」

「ええ、エトムント殿下との噂を聞いただけで怒りを爆発させていたわ」

「それは…大変だったわね」


父と兄が私を可愛がってくれている事をエミーリアは知っている。だからこそ引き攣った笑顔になったのだろう。


「ルド兄様なんて来週から学園に来るとか言ってるし…」

「どうしてルドヴィッグ様が学園に?」

「私とエトムント殿下が怪しい関係じゃないか調べる為よ。剣術の特別講師として来るの」


学園側が許すと思っていなかったのにあっさり許可出しちゃって本当にふざけているわ。


「リーザの為に来るって事よね?相変わらず愛が深い人だわ」

「嫌われるより遥かにマシだけど面倒事を持ち込む予感しかしないわよ」


兄が学園に来るだけでも面倒なのにお見合いパーティーの件まで追加されて心労で倒れそうだわ。

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