幕間6 侯爵令嬢と王太子※エミーリア視点

「ビューロウ伯爵令嬢の反応はどうだった?」


エリーザと別れた後に姿を現したのは婚約者のクリスだった。その表情は楽しそうなもので彼の性格の悪さを感じる。


「あからさまに嫌がっていたわよ」


クリスにお願いされてエリーザにエトムント殿下の妃になるように言ってみたいのだ。

彼がどういう理由でお願いしてきたのかはよく分からないが揶揄う材料が欲しいだけというわけではないのだろう。


「嫌がっていたのか。それは残念だな」

「残念?」


何が残念だというのだろうか。

首を傾げると「耳を貸して」と手招きを受ける。


「実はエトのやつビューロウ伯爵令嬢が気になっているみたいなんだ」

「は?」


衝撃の事実に驚く。本当なのかと疑うがクリスが言っているあたり信憑性が高いのだ。

もしかしたらエトムント殿下に相談でも受けているのだろうか。


「恋愛感情があるかは分からないけど気になってるらしいよ」

「本人に聞いたの?」

「そうだよ」


楽しそうに笑うクリス。それでエリーザにエトムント殿下の事を聞くようにお願いしてきたのか。

二人をくっ付けたがっているのが見え見えだ。

こういうところはエリーザによく似ていると思う。


「無理やりくっ付けようとしない方が良いわよ」


似たような噂の経験者的に放っておいて欲しいものだというのはよく分かっている。

叱りつけるように睨むとクリスは肩を竦めて苦笑いをした。


「無理やりくっ付けようとはしてないよ」

「本当に?」

「そんな事をしたらリアに嫌われるだろ?」


嫌いになったりはしないけど喧嘩にはなるかもしれない。好きな人と喧嘩をするのは出来れば避けたいものだ。


「嫌いにはならないわよ」

「良かった」


さりげなく腰に腕を回して来ないで欲しい。

ここは学園だ。出来るだけベタベタするのはやめようと言っているのにこの恋人は聞いてくれない。


「クリス、離れて。人に見つかったら…」

「問題ないだろ。俺達は婚約者なのだから」

「恥ずかしいからやめて」

「素直だな」


楽しそうに笑いながらクリスは離れて行った。

ちょっとだけ寂しいと思ってしまうあたり私は我儘な女だ。


「そんな寂しそうな顔をされるとキスしたくなるからやめてくれ」

「なっ…か、顔に出てた?」


慌てて自分の頰を押さえるとクリスは意地の悪い笑みを見せてくる。

嵌められたと気が付いたのはその時だった。


「本当に寂しいと思ってくれているんだな」

「クリスの馬鹿」

「ここが学園じゃなかったら気が済むまでキスしていたのに」


悔しそうに呟くクリスはやっぱり馬鹿っぽく見えた。

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