第2話 父からの呼び出し

「リーザ様、旦那様がお呼びです」


自室のベッドでゴロゴロしていると訪ねてきた侍女ヨハナから父が呼んでいると報告を受ける。父が私を呼び出すのは非常な珍しい事だ。

嫌な予感しかしないのだけど…。


「行きたくないわ!」

「ちょっ!駄目ですよ!行ってもらわないと私が怒られてしまいます!」


布団を被って行く事を拒否すればヨハナに布団を引っ張られてしまう。

力強くない?

昔から剣で鍛えてきた腕力をもってしても彼女には敵わなかった。侍女なのに。いや、力仕事がある侍女だからこそ私に勝ったのかもしれない。

私から布団を奪い取ったヨハナは腰に手を当てて「起きてください!」と言ってくる。


「行きたくないのだけど…」

「またリア様に迷惑をかけたのですか?」

「またって…。リアは関係な……くはないけど、別の人から迷惑をかけられているのよ!」

「え?リーザ様が迷惑をかけられている?嘘ですよね?」


なんで意外そうな顔をするのよ。

確かに幼い頃からエミーリアやヨハナを振り回して迷惑をかけてきたから彼女には強く言えないけど。


「私だって迷惑をかけられる事くらいあるわよ」

「原因を作ったのはリーザ様なのでは?」

「違うわよ!失礼な子ね、誰に似たのかしら」

「幼い頃からずっとお側にいるお方の影響かと」

「つまり私のせいって言いたいのね」


ヨハナを睨むと目を逸らされてしまう。

私も性格が良くないところがあるし、言いたい事を言うところがあるけどそれでも立場を……。弁えない場合があるわね。

今日もエトムント殿下に失礼な言い方しちゃったし。


「なんにせよ旦那様のところに向かってください。怒られたくないので」

「主人を庇うのが貴女の役目でしょ…」

「雇ってくださっているのは旦那様です」

「そうだけど…」


このまま拒否していても引き摺って連れて行かれそうだ。

深く溜め息を吐いてベッドから立ち上がる。


「良かった!自主的に行ってくださるのですね!」

「私が自分で行かなくても引き摺って連れて行く気だったでしょ」

「ご命令ですので」


しれっと答えるヨハナに苦笑いしか出てこない。

それにしても私に弱い父が命令で呼び出すとは。

やっぱり嫌な予感しかしない。


「ねぇ、ヨハナ。お父様の様子はどんな感じだった?」

「物凄くニコニコされていましたよ。それはもう…」

「怖いくらいに上機嫌だったのね」

「ええ…」


普段仏頂面の父が満面の笑みになるのは怒りに燃えている時である。

この屋敷に長く仕えている者なら誰でも知っている事だ。もちろん家族である私も知っている。


「余計に行きたくなくなったわ」

「駄目ですよ」

「分かってるわよ」


深い溜め息を吐きながら父の待つ執務室へ向かった。

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