第1話 面倒事
私エリーザ・フォン・ビューロウは困っていた。
理由は簡単。隣国ゾンネからやって来た王太子エトムントフォン・ザイトリッツ殿下と恋仲であると噂されているから。
きっかけは二週間前に学園内で起きたとある騒動。
親友エミーリアが彼女を巡って起きたくだらないデート対決によって二股疑惑をかけられてしまったのだ。しかも相手はウィザードの王太子クリストフ様とエトムント殿下。
二国の王子を誑かしたとして非難されたエミーリアに文句を言いに来た令嬢達がいたのだ。
そこを助けたのが彼女の現婚約者クリストフ様。
声高らかに婚約宣言をしたところまでは良かった。そこで終わってくれていたら今頃私は親友を揶揄って過ごす日々を送れていたのだ。
しかしエミーリアがエトムント殿下に言い寄っていると食い下がる令嬢に怒ったクリストフ様がそのエトムント殿下に「リアに言い寄られたかい?」と聞いたのだ。
言い寄られていないと否定する彼に「貴方がリアに言い寄っていたのよね」と心の中で突っ込んでいる最中に聞こえて来たのは理解出来ない言葉だった。
「クリストフ殿下とホルヴェーク侯爵令嬢とそれから…ビューロウ伯爵令嬢の四人で出かけていた」
それはリアを巡って行われたデート対決を誤魔化す為にエトムント殿下がついた嘘だった。
なんで私を巻き込むのよ!と戸惑っている間にエミーリアの二股疑惑は収まり、一件落着。ではなかった。
「エミーリア様のお相手がクリストフ殿下なら、エトムント殿下のお相手はエリーザ様なのかしら…」
誰かが言った言葉だった。
男女二人ずつで出かけて一組が婚約者と分かれば残された二人も恋仲であると疑いがかけられるのは当たり前の事だと思う。
出かけたうちの残された二人。
つまり私とエトムント殿下の事だ。
私達が恋仲である疑惑は止める術なく学園中に広まった。
「本当にあり得ないわよ」
エトムント殿下と噂される日々を送っている私は苛立ちが募って仕方ない。
エミーリアを助ける為だったと分かっているが巻き込まないで解決して欲しかったのが本音だ。
「私は恋人も婚約者も要らないのに」
幼い頃から父と兄の溺愛が酷く、男は面倒な生き物であると認識してきた為、恋愛や結婚をしたいと思えなかった。
ただ興味がないわけではない。他人の恋愛話を聞くのは好き。だからエミーリアとクリストフ様を応援してきたのだ。
二人がくっ付いて幸せな日々を近くで見ていられたらそれで良かったのに。
「面倒な事に巻き込まれたわ」
早く噂が無くなれば良いのに…。
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