幕間4 隣国王子とパーティー※エミーリア視点
「リア」
放課後、王太子妃の公務を行う為に訪れた王城で私に声をかけてきたのはエトムント殿下だった。
「エトムント殿下」
「エトとは呼んでくれないのか?」
「王城では誰が聞き耳を立てているかも分かりませんので」
寂しそうな表情を向けられるがクリスと婚約した今また変な噂が流れるのは厄介な話である。それに彼を好きであるのに他の人との不貞を疑われるのは嫌なのだ。
不本意ながらも納得してくれるエトムント殿下に頭を下げる。
「ところでリアはクリスに会いに来たのか?」
「いえ公務に来ました」
「公務…」
「ゾンネ王国と違ってウィザードでは王太子の婚約者にも公務は生じますから」
ゾンネ王国の貴族達は男尊女卑がとにかく酷い。
女性は働く必要がないと仕事を取り上げられるし、子を産む機械のように扱われる場合がある。だからこそ出来るだけ稼ぎのある男性に寄生する生活を送らないといけない。
それはゾンネ王国の魔法が未発達である理由も繋がってくると考えられる。
才能を持っていても女性であるだけで表舞台には立てないのだ。逆に才能がなくとも男性であるだけで目立つことが出来る。そうやって何十年、何百年の時を過ごしてきたからこそ他国との差が出てしまったのだろう。
エトムント殿下が即位して少しでも変われば良いのですけどね。
「エトムント殿下こそどうしてこちらに?」
隣国からの大切な客人でもあるエトムント殿下は王城から離れたところに用意された邸で暮らしを送っているのだ。わざわざ出向くという事は何か大切な用事があったのかもしれない。
「陛下達に呼ばれたのだ。ビューロウ伯爵令嬢との件で」
「リーザとの?」
「本当に婚約者になるのか?と質問された」
どうやら学園内での噂は陛下達の耳にも届いたようだ。
ゾンネ王国の王族がウィザード王国のご令嬢と婚約するかもしれない。
そう聞かされたら国王陛下として確認を取らなければいけないのは当たり前の話だ。
「勿論ただの噂だと答えたよ。ビューロウ伯爵令嬢を困らせるわけにはいかないからな」
「そうですか」
ないとは思っていたけど下手に肯定されていたらエリーザの怒りが爆発したに違いない。
私が安心している前でエトムント殿下は浮かない表情を作ってみせた。
「どうかされたのですか?」
「ビューロウ伯爵令嬢に迷惑をかけずに終わって良かったのだが他の問題が発生してしまってな」
「問題?」
「王妃が私の婚約者探しを手伝うと言って今度大規模な顔合わせパーティーを開く事が決まってしまったんだ」
「パーティーですか?」
「ああ、私の為に婚約者のいないご令嬢を集めてくれるらしい」
簡単に言うとエトムント殿下が早く婚約者を見つける為に婚約者の居ないご令嬢を集めてお見合いをさせる気なのだ。
貴族達は大喜びするがエトムント殿下からすれば迷惑なのだろう。
「嫌ならお断りすれば良かったのでは?」
賓客扱いの彼が嫌がれば王妃様であっても強制する事は出来ないはず。無理に受け入れる事なかったのに。
「……リアを忘れられる良い機会だと思ったからだ」
「え?」
「他の貴族令嬢と会って良い人が居ればリアを忘れる事が出来る。そう考えたから王妃の提案を受け入れたんだ」
ああ、彼は私の事を…。
泣きそうな表情で伝えてくるエトムント殿下に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「結果は悲惨なものに終わるかもしれないが行動を起こさないよりマシだろう?」
「エトムント殿下…」
「謝らなくて良い。悪いのは未練がましくリアを好きで居続けている私なのだから」
謝らないでくれと言われて小さく頷いた。
今の私が彼にしてあげられる事は幸せになれるよう願う事くらいだ。他に出来る事はない。
「エトムント殿下が幸せになれる事を願っております」
「ありがとう。それでは失礼する」
立ち去って行くエトムント殿下の背中は寂しそうに見えた。眺めながら一つの事に気がつく。
「……婚約者のいないご令嬢ってリーザも呼ばれるのかしら」
嫌な予感が胸の中を過った。
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