幕間6 好きな人の友人※エトムント視点
気を遣ってクリストフとエミーリアを二人きりにしてやれば仲睦まじそうに話し始めた。
その光景を見たら最初から私の付け入る隙など無かったと教えられる。
「失恋、か…」
初めての恋、初めての告白、そして初めての失恋。
ウィザード王国に来る前の自分だったら考えられないような体験をさせてもらった。
エミーリアを振り向かせる事が出来なかったのは悔しいがキッパリと振られたせいか自分でも驚くほど清々しい気分だ。
「子供達のためにお菓子でも買って来るか」
失恋した相手が恋敵だったと仲良くしている姿を見るのはやっぱり辛い。
孤児院から離れて路地を抜けたところで女性とぶつかってしまう。
「すまない、大丈夫か?」
「いえ、こちらこそよそ見をしていてすみません…って、エトムント殿下?」
「君はビューロウ伯爵令嬢か?」
倒れそうになった女性の顔を見たらエミーリアの友人ビューロウ伯爵令嬢だった。
意外な邂逅にお互い目を瞬かせる。
先に会話を切り出したのは彼女だった。
「エトムント殿下、どうしてこちらに?」
「いや、今日はリアと…」
「そういえばデート対決の日でしたね」
話している途中で被せるように呆れた声が響いた。
ビューロウ伯爵令嬢の表情を見ると呆れたような、怒ったようなものになっており、若干の嫌悪感も滲み出ている。
「エトムント殿下がリアに本気なのかは知りませんけど、あまり彼女を困らせないでくだらない」
唐突な叱声に目を大きくさせた。
女性から言い寄られる事はあっても叱られるという経験がなかった為、どう反応したら良いのか分からず固まっているとビューロウ伯爵令嬢は言葉を続ける。
「ようやくリアが自分の気持ちに気がつき始めたというのにどうして横槍を入れるのですか!」
「い、いや、それは…」
「とにかくリアとクリストフ様の邪魔をするのはやめて…」
「頼むから話を聞いてくれ!」
思わず肩を掴むと拳が飛んでくる。
避けられないと彼女の握り拳を正面から受け止めた。
意外と力強いな、この子。
ゾンネの女性は自分をか弱い者として見せようとする者が多いのだ。男を殴ろうとする人は誰一人として居ない。
それなのにビューロウ伯爵令嬢は躊躇なく私に殴りかかってきた。
おそらく咄嗟に体が動いたのだろうけど、それにしたって殴ろうとするものか?
精々はたき落とすか振り払うくらいのどちらかだろう。
受け止められると思っていなかったのか驚愕の顔がみるみるうちに青くなっていく。
「あ……す、すみません!つい!」
「いや、こちらこそ勝手に触ってすまなかった…」
つい、で殴ってきたのか。
エミーリアの友人だけあって彼女も私の知っている女性とは違うのだな。
何度も謝罪を繰り返すビューロウ伯爵令嬢に笑ってしまった。
「エトムント殿下?」
「ああ、すまない。リアとクリスの邪魔をするなという話だったな」
「え?ええ、そうですね…」
気を遣って話を戻すと若干戸惑いを見せるビューロウ伯爵令嬢。彼女を安心させる為にも教えてあげた方がいいだろう。
「先程リアに振られた。だからもうちょっかいをかけるつもりはない」
「そうですか…え?振られたって……えぇ!」
大口を叫び声を上げるビューロウ伯爵令嬢の口を咄嗟に塞ぐ。
また殴られるかと思ったが驚き戸惑い過ぎているのか今度は無抵抗だった。
「ち、注目を浴びるのは良くない。とりあえず、こっちに来てくれ」
初めて家族以外の女性の手を引いた瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。