幕間7 変な令嬢※エトムント視点
ビューロウ伯爵令嬢の手を引いて向かったのは人気の少ない路地。
それにしても不思議な手をしているな。
女性に言うのも失礼な話ではあるがビューロウ伯爵令嬢の手は剣だこがあったり皮が厚かったりと貴族令嬢というより騎士のような手だった。
いくら名門の騎士家系といっても女性が剣を握るのは想像し難い。
いや、しかし…。さっきの握り拳や威勢の良さから見るにあり得そうな話だ。
「あの、いつまで手を握ってるつもりですか…」
目的の路地に着いたというのに握りっぱなしになっていた手のせいでビューロウ伯爵令嬢から不審がられてしまう。
慌てて手を離すと「別に掴まなくても逃げませんよ」と冷たい声で突き放される。
「で、淑女をこんなところに連れ込んでどんな事をされるおつもりですか?」
指摘を受けてからハッとする。
とりあえず人の少ないところと選んだ場所だったが普通に考えて連れて来る場所じゃなかった。
「す、すま…」
「謝罪は良いですからエトムント殿下がリアにフラれたという話は本当かどうか聞かせてください」
なんだ、この令嬢は…。
エミーリアも私に興味ないといった感じであったがここまで冷たい態度を取られた事はない。
さっさと話して解放しろという雰囲気がだだ漏れの彼女に告白に至るまでの経緯を話す。その途中でビューロウ伯爵令嬢の顔色が変わった。
エミーリアが誘拐された話をしてしまったからだ。
「リアが誘拐?無事ですか!怪我は?」
「問題ない。誘拐されてからすぐに助けに行ったからな」
「良かった…」
私には冷たいがエミーリアには優しいんだな。
彼女の無事が分かると心底安心したように笑ったビューロウ伯爵令嬢はちょっとだけ可愛く見えた。
「もう後で叱らないと…。で、リアを救出した後はどうなったのですか?」
「孤児院に戻って、それで…クリスと仲良さそうにしているリアを見ていたら渡したくない気持ちに襲われて……そのまま勢いに任せて告白した」
友を思う優しい微笑みが一瞬で残念な物を見るような目に変わる。
恥を忍んで話したというのにその反応は何だ。
「よく告白する気になれましたね」
「自分でも驚いたよ」
「リアとクリストフ様の雰囲気を見ていたら無謀だと分かりそうなのに。もしかしてエトムント殿下ってば……いえ、なんでもありません」
今馬鹿って言おうとしたな。
間違っていないので否定出来ないのが悔しいところだ。
「君はリアには優しいのに私には冷たいのだな」
「リアは大切な親友ですし、エトムント殿下に媚を売る理由がありませんから」
「普通のご令嬢は王子と聞けば擦り寄るものだろ」
「自分が王子の隣に立つ器を持っていないと分かっていて言い寄る気持ちが理解出来ません」
身の程を弁えている、という事か。
騎士である父と兄に囲まれて育ったからこその考え方なのかもしれない。
「まあ、こんな話は置いといてリアを困らせる気はもうないのですよね?」
明らかにこんな話で片付ける内容じゃなかったのに。
ビューロウ伯爵令嬢の中では王子より友人の存在の方が大きいのか。
「ないな。あの二人の邪魔をする気もない」
「そうですか。それを聞く事が出来て安心しました」
友人の困り事がなくなると分かったからかビューロウ伯爵令嬢は嬉しそうに微笑んだ。
「では、聞きたい事も聞けましたし、私はこれで失礼致します」
最後に見せられたのは名門伯爵令嬢に相応しい優雅に礼だった。
「変な令嬢だ…」
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