第16話 隣国王太子とお出かけ④
オーナーからの謝罪を受け取り、お店を出るとエトムント殿下は申し訳なさそうな表情をこちらに向けた。
「すまない。不愉快だったろう?」
「それはこちらの台詞ですから。私がこのお店をお勧めしなければ起きなかった事です。申し訳ありません」
頭を下げて謝れば「君は悪くない」と返される。
それでも申し訳ない気持ちは消えない。
「無駄な時間を使ってしまったな…」
町の中央広場に置いてある大時計を見れば後三十分程でクリストフ様との待ち合わせ時間になる。
もうどこかのお店に入る時間はないだろう。
ぼんやりと思っているとエトムント殿下に肩を叩かれた。
「最後に何か贈り物をさせてもらえないか?」
「最初に薔薇を頂きましたよ?」
「薔薇はいつかは枯れてしまう。ずっと持っていられるような物を贈りたいのだ」
そう言われても困る。
婚約者でもない私が隣国の王太子から贈り物を頂くというのは色々と問題があり過ぎるのだ。
「お気持ちだけで十分です」
「しかし」
「頂いた薔薇を保存加工致しますので」
元々薔薇は好きな花である為、部屋に飾って置きたいと思っていたのだ。
私の返答に納得出来ないのかエトムント殿下には不機嫌な顔をされてしまう。
「贈り物の代わりにゾンネ王国についてお話を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「それだけで良いのか?」
「知識は武器になりますから」
「君は手強いな。分かった、今回は引こう」
出来れば今後も引いて頂けると助かるのだけど。
大時計前にある噴水近くのベンチに座りゾンネ王国について尋ねる。
「海があると交易が盛んなのでしょうか?」
「そうだな。遠く離れた国との取引には便利だが取り締まりが面倒だ。海賊も現れたりするしな」
海賊。
貨物船を狙うと言われている海の盗賊達だ。
海に慣れ親しんでいる彼らとやり合うのは確かに厄介そうだと苦笑いになる。
「それにゾンネは魔法が未発達な国だ。私が死ぬまでにはウィザードに追いついて見せたい」
「こちらの国も日々成長していますよ」
「だからこそ、やりがいがあるのだろう?」
目標は高い方がいい。それは間違いないだろう。
「出来れば身寄りのない子供達も魔法が扱えるようになってほしいと願っているんだ」
「それは同感です。私も孤児院に訪れて魔法を教えてあげていますがやはり一人の力では難しいものがありますから」
この国では孤児院一軒につき入る事の出来る孤児は二十名までと決まっている。王都に百軒以上ある孤児院を一人で見て回るのは難しいのだ。
「君は……孤児院も行くのか」
「これでも元々は次期王子妃として公務をしていました。その縁で行くようになったのです」
「それは今も続けているのだろう?例の王子との婚約は解消されているのに何故だ?」
「せっかくの縁を無駄にはしたくないですし、孤児院の現状を知っていて放置も出来ませんから。私に出来る事があるなら何でもしてあげたいのです」
前国王が孤児院の数を増やしたが運営が上手くいっていた訳じゃない。孤児院に対する資金を私物化してしまう貴族がいたせいだ。
そして現国王の治世となり、ようやく悪事を働いた貴族達を捕まえる事に成功した。ちなみにその件で活躍したのは父だ。
そういうわけで運営資金は戻ってきたが今までの状況がすぐに変化するわけでもない。少しずつ改善されているのは確かだがそれでも時間はかかるだろう。
その手伝いを少しでも出来るのなら嬉しい限りだ。
「…って、私の話になっちゃいましたね」
長々しく語ってしまったと申し訳ない気持ちになる。
ふとエトムント殿下を見ると優しい微笑みを携えていた。
「いや、君の意見を聞けて良かった」
「そうですか?」
「ああ。リアが心優しい人間だという事も分かったからな」
「ありがとうございます」
お礼をすると大時計の鐘の音が響いた。
「時間か。残念だが話の続きはまた今度にしよう」
「本日はありがとうございました。お話が聞けて良かったです」
「こちらこそ付き合ってもらって助かった」
エトムント殿下が立ち去るのを見送る。
次はクリストフ様と会う番だ。
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