第15話 隣国王太子とお出かけ③

「あ、あの、ありがとうございます」


走り去っていく男性客を見ていると絡まれていた女性店員がエトムント殿下に近寄りお礼を言う。

頬を赤らめ嬉しそうにする姿を見て、彼を好きになってしまったのだろうと予想する。


「ああ」


短く返答するエトムント殿下の仏頂面に気がついていないのか女性店員は彼の服の裾を掴み、上目遣いで会話を続ける。


「あの、お礼をしたいのですが…」

「要らん」

「そんな事言わないでください。何をしたら良いですか?」


私は何を見せられているのだろうか。

ただエトムント殿下が女性に好かれやすい体質をしているのだけはよく分かる。

女性店員は私の姿を確認するとニヤリと意地の悪い笑顔を見せぴったりとエトムント殿下にくっ付いた。

どうやら恋人だと勘違いされているらしい。

私の顔よりも貴女がくっ付いている相手の表情を見た方が良いと思いますよ。と教えてあげたい気分だ。

エトムント殿下はゴミを見るような目で女性店員を見下ろしていた。


「離れろ」

「え…」

「この店の店員は仕事中でも男に擦り寄るのか。不愉快だ」

「ひどいっ!」


女性店員の腕を払い除けエトムント殿下は冷たく言い放つ。当たり前の事を言っているのに女性店員は涙を流しながら再び彼に擦り寄ろうとする。

既視感があると思ったら阿婆擦れさんが学園にいた時に見た光景ですね。


「私はただお礼をしたいだけなのに!」

「要らんと言っただろ」


ただエトムント殿下に擦り寄りたいだけ、の間違いじゃないでしょうか。

付き合いきれないといった風に女性店員の側を離れ私の元にやって来るエトムント殿下。


「リア、店を出よう」

「そうですね」

「お、お待ちください!」


慌てた様子で出てきたのはカフェの店長だった。


「誰だ」

「このカフェのオーナーですよ」


小さな声で尋ねられたので耳打ちで教える。


「こ、この度はうちの店員がご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません」


頭を下げた後ちらりと私を見上げるオーナーとは知り合いだ。

エトムント殿下には言わなかったがここは学園に通っている女生徒の親御さんが経営しているお店。

前に連れてきてもらった時に紹介を受けた為、オーナーは私が侯爵令嬢であると知っている、侯爵家の反感を買わないように頭を下げているのだろう。


「客に言い寄る女がいるとは。一体どういう教育をしているんだ」

「大変申し訳ございません」

「もう良い。ちゃんと教育をしろ」


エトムント殿下とオーナーに睨まれる女性店員は居心地が悪そうにしているが自業自得だ。

こちらに向いたオーナーは不安そうな表情を見せる。


「リア様…その…」

「私は被害を受けていませんので何もしませんが気をつけてくださいね」

「本当に申し訳ございません」


このカフェに入ろうと言ったのは間違いでしたね。

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