第9話 友人からの忠告
クリストフ様と別れて、エリーザと一緒に教室に向かう。
「いい加減、クリストフ様の婚約者になったら?」
ふと言われた言葉に持っていた鞄を床に落としてしまう。
鞄を拾ってくれたエリーザから「なにやってるのよ」と呆れた声をかけられるがそちらが吃驚させたせいでしょと文句を言ってやりたくなる。
「はい、鞄」
「ありがとう…」
「で、クリストフ様の婚約者になる決心はついたの?」
ああ、その話題は続けるのですね。
鞄を落とした事で忘れてくれたら良かったのに。
興味津々と言った風に見てくるエリーザに首を横に振った。
「今のところは婚約者になるつもりはないわ」
「え?平然とイチャついていたくせに?」
イチャついてってあれはクリストフ様が抱き寄せてきたからであって、別に私は…。
先程の事を思い出したら顔が熱くなる。
あの言葉から察するにクリストフ様はエトムント殿下に嫉妬していたのよね。
普段冷静な彼が必死になってる姿は新鮮で、原因を作ったくせにちょっとだけ喜んでしまっている自分がいた。
「なに思い出してるのか想像出来るけど完璧な淑女のリア様がしちゃ駄目な顔になってるわよ」
「え?どんな顔になっているの?」
「気持ち悪いくらいニヤニヤしてる」
ぐさりと言葉のナイフが胸に刺さった。
気持ち悪いくらいニヤニヤって私そんな変な顔をしていたの?
不覚だわ。
「どうせクリストフ様に抱き締められた時の事でも思い出していたのでしょうけど、その顔は他の人に見せない方が良いわよ」
「……なんでクリストフ様に抱き締められた時の事を思い出しているって分かるのよ」
「何年友人やってると思ってるのよ」
「十年以上かしら」
エリーザと会ったのは五歳の時だ。
初めて出向いたお茶会で話しかけてもらったのがきっかけだった。
あの時のエリーザは今よりもずっと男勝りだったわね。
「長い付き合いなのに分からないわけないでしょ」
いくら長年の友人だからって分かる事と分からない事くらいあるだろうに。どうやら、この親友は私が思っている以上に私の事を分かってくれるようだ。
「とりあえず友人として言っておくわ。さっさとクリストフ様と婚約しなさい。じゃないと面倒な事になるわよ」
「面倒な事?」
「エトムント殿下の事よ」
急に出てきたエトムント殿下の名前に首を傾げるとエリーザは呆れたように溜め息を吐いた。
「なんでも出来るくせに色恋沙汰はダメダメね」
「え?」
「リア、友人として忠告するけどあまりエトムント殿下と親しくしちゃ駄目だからね」
「それって…」
どういう事?と聞こうとしたところで教室に着いてしまった為、聞く事が出来なかった。
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