第8話 隣国王子と嫉妬

エトムント殿下の態度が柔軟化して一週間。

私の周りではちょっとした変化が起こっていた。


「リア、おはよう」


当初の仏頂面はどこに行ったのか爽やかな笑顔で挨拶をするのは隣国からの留学生エトムント殿下だ。

あの謝罪の日以来、学園で顔を合わせるたび彼は私に話かけてくる事が増えた。

それが私の周りで起こったちょっとした変化だ。


「エトムント殿下、おはようございます」

「ああ。リアは今日も綺麗だな」

「あ、ありがとうございます」


態度が柔軟になったのは嬉しいけど出会い頭に口説き文句を言われるのは反応に困るのでやめてほしい。


「リア、今日の昼休みは空いているか?」

「友人と昼食を取る予定です」


特に約束はしていないがエリーザとは毎日一緒にご飯を食べている。

彼女曰く「友達なのだから一緒にご飯を食べるのは当たり前!」らしい。

婚約解消の件があって遠巻きにしてくる人も多いで彼女には助けられている。


「友人とはクリスの事か?」

「いえ、ビューロウ伯爵令嬢です」

「ビューロウ……騎士団長の娘か」

「そうです」


エリーザの父親はウィザード王国騎士団の団長。

剣の腕だけなら彼に勝てる人は居ませんね。

ちなみにビューロウ伯爵家は代々騎士団長を輩出している名門の騎士家系。華やかな見た目に反してエリーザも剣の腕が立つのです。


「一緒に昼食でも、と思ったが友人と食べるなら邪魔は出来ないな」


私には普通に接してくれているエトムント殿下ですが女嫌いがなくなったわけではありません。現に女生徒と一緒に居る時は話しかけられないですからね。


「申し訳ありません」

「いや、良い。では、また会おう」


先に教室に向かうエトムント殿下。私も教室に行こうと歩き出した瞬間、後ろから腕を引っ張られる。

驚きながら振り向くとそこには不機嫌丸出しのクリストフ様が立っていた。


「エトと何を話していたの?」

「え?」

「楽しそうに何を話していたの?」

「ただの世間話ですけど…」


楽しそうに話していた記憶はないですけどね。

私の答えが不服だったのかクリストフ様は腕を離してくれない。それどころか引っ張られて彼の胸元に抱き寄せられてしまう始末だ。

誰かに見られたらどうする気なのだ。


「大丈夫だ。誰もいない」

「そういう問題じゃありません…」


慌てて離れようとするが逃してもらえない。

見上げると悲しそうに、いや、辛そうに私を見つめてくるクリストフ様と目が合った。

そんな顔をして欲しくないのに。


「リアが俺以外の男と話しているのは嫌なんだ」

「そう言われても…」

「我儘だって分かってる。それでも、好きな女が他の男と話しているのは嫌だ」


す、好きな女って…。

一瞬で頰が赤く染まる。ばくばくとうるさいのはクリストフ様の心臓の音なのか、それとも…。


「朝からお熱いですね〜」


第三者の声が聞こえて慌ててクリストフ様と距離を取る。

振り向けば呆れた顔で立っているエリーザがいた。


「仲良しなのは微笑ましいですけど、学園内でイチャつくのはやめた方が良いですよ」


彼女の言葉に二人揃って「すみません」と謝った。

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