第6話 謝罪

帰りたい。


隣にはニコニコと楽しそうなクリストフ様。

目の前には仏頂面で不機嫌丸出しなエトムント殿下。

二人の王太子と席を共にしているせいで周りからは羨望やら嫉妬やらごちゃ混ぜになった視線が私に集中していた。


「クリストフ様、私も教室に戻りたいのですけど…」


頼むように言ってみるがクリストフ様は笑顔で首を横に振る。


「駄目だよ。ちゃんと食べないと体調を崩してしまう」


私は食べる方ではないので少し食べれば十分なのだ。

折角の食事を残すのは食堂で働いている人達に失礼だと思うけど無理して戻してしまうよりはマシだと思う。


「クリス、彼女は帰りたがっている。帰してやればいい」


早く教室に行きたい私の援護をしてくれたのはエトムント殿下だった。

気遣いではなく自身から私を遠ざけたいから助けてくれたのだろう。


「少しでも長くリアと一緒に居たいんだ」


その砂糖菓子に蜂蜜をたっぷりかけような甘ったるい視線をやめてほしい。しれっと机の下で手を繋いでくる彼に戸惑う。


「ふんっ、結局お前もクリス狙いなのか」


吐き捨てるように言うエトムント殿下。

どこをどう見たら私がクリストフ様を狙っているように見えるというのだ。

彼の目は節穴なのだろうか。


「狙っていません」

「誤魔化さなくて良い。女は権力持ちが好きだからな」


その言葉にかちんと来る。

どうして私がここまで言われないといけないのよ。


「私は一ヶ月前に婚約を解消した身ですよ。すぐに婚約者を作ろうとは思いません」


婚約解消の件は学園の生徒なら皆が知っている事だ。

今更エトムント殿下に知られても痛くも痒くもない。

捲し立てるように言った後、紅茶を口に含んでからほっと息を吐く。

目の前から物悲しそうな視線を送られてくる。視線の先を辿るとエトムント殿下に辿り着いた。


「まだ何か言いたい事があるのでしょうか?」

「いや、その……本当なのか?」

「何がでしょうか?」


しどろもどろになるエトムント殿下に首を傾げる。


「その、婚約解消をしたというのは本当なのか?」

「本当の事ですわ。ね、クリストフ様」


黙っていたクリストフ様に視線を向ければ小さく頷き同意してくれる。

それを見たエトムント殿下は顔を青褪めていた。

一体どうしたというのだろうか。


「す、すまなかった…」


急な謝罪に目を大きくする。

本当に何があったのだろうか。私はただ婚約解消の話をしただけなのに。


「何の謝罪ですか?」

「いや、その、婚約解消をしているとは知らず勝手な事を言ってしまった…」


そういえばゾンネ王国では男尊女卑が酷く、婚約破棄はもちろん婚約解消された貴族女性は身分関係なしに酷い扱いを受けると聞く。

そう考えると彼の謝罪の意味も理解出来る。

しかし謝ってもらう必要はないのだ。だって私は婚約を自ら解消したのだから。


「別に気にしてませんよ」


冷たい声が漏れた。

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