第36話 阿婆擦れに制裁を

「その煩い口を今すぐ閉じなさい」


自分でも驚くほど低い声が出た。

今すぐ阿婆擦れに制裁を加えたい。

それしか考えられなかった。


「エミーリアさ、ん…」


こちらに振り向いた阿婆擦れは怯えた表情を見せた。

怖い顔をしている自覚はありますからね。


「様、と呼びなさい。先程陛下に言われたばかりでしょう。それとも数分前の事を忘れるくらい馬鹿なのかしら?」

「い、じめないで…」


まだ悲劇のヒロインのふりをするつもりなのでしょうか。

誰も味方はいないというのに。


「国王陛下やクリストフ王太子殿下に対する貴方の態度。臣下として到底許せるものじゃないの」


威圧をかけながら彼女の方に進んで行く。

周りの方々には王妃様が張った結界が私の威圧は届かないでしょう。


「あ、あの…」

「先程までアルバン様に擦り寄っていた阿婆擦れの癖に今度はクリストフ様ですか?自分が望めば手に入れられると本気で思っているのかしら?ふざけるのもいい加減にしなさい」


阿婆擦れ女は私から逃げるように地面を這うがこちらの威圧によって上手く動けないのだろう。

ジタバタとするだけで前に進めていない。


「本気で国母になりたいのならまず初めにその空っぽの頭をどうにかしなさい。他人を貶めるような行為をやめなさい。自分だけが幸せになれたらいいと身勝手な事を言うのはやめなさい。王妃は国の母、つまり国民を愛する母なの。今の貴女のような器の小さい女に務まると思わない事ね」


彼女に国母になって欲しいと思う人がいるのかしら。いや、いないわね。

これが国母になったら国が滅ぶわ。

それに阿婆擦れ女がの妻になるなんて絶対に許せない。


「阿婆擦れ女である貴女に私の大切なクリスは渡さないわ」


その言葉を発した瞬間、阿婆擦れ女は泡を吹いて失神する。

やっと終わったわ、と一息吐いたところで私は我に返った。

私、今なんて言ったの?

周りを見渡せば私が我を忘れて怒り狂った事が意外だったのか、それとも最後の発言に驚いたのか、全員が目を開いて驚きを隠せないでいた。

やってしまったという意識が強い私は背中に汗を掻き始める。


「ふふっ、はは…!」


一番最初に大笑いを始めたのは陛下だった。

そして何故か全員が釣られたように笑い始める。

どうして笑われているのでしょうか。


「エミーリア嬢、君は最高の女性だな」

「ありがとうございます…?」


怒りに身を任せて子爵令嬢を叱咤した女のどこが最高の女性なのでしょうか。

それとも悪い意味での最高とか…?

最後の私は酷かったものね。


「最高の君には是非、国母にな……んん!」

「陛下。それ以上はダメですよ?」

「お、お父様!」


何か言いかけた陛下の口を手で塞いだのはお父様だった。完全に不敬だ。目の前にいる阿婆擦れ女は比じゃないくらいに。

陛下だって怒って……いや、楽しそう?


「そうよ、貴方。それはクリスが言うべき事だわ」

「まぁ、それもそうだな」


また愉快に笑い始める陛下にぽかんと口が開きっぱなしだ。

呆然としている私に駆け寄ってきたのはクリストフ様でした。

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