侯爵令嬢は婚約破棄される前に婚約破棄する

第14話 クラスメイトは味方

「皆さん、ご迷惑をお掛けしてしまい大変申し訳ございません」

頭を下げると教室が静まり返った。

責められるかもしれないと目を瞑る。

「いや、あれは殿下が悪いですよ」

「明らかにエミーリア様を殴ろうとしてましたわ」

「殴られそうになって咄嗟に威圧しちゃったなら仕方ねーよ！気にするな！」

「自分の勘違いでやって来て婚約者を殴ろうとしたなんて許せませんわ」

それぞれ私を庇う様な発言をしてくれる。

エリーザに肩に触れられて、ゆっくりと顔を上げれば全員が優しく微笑んでくれていた。

「リア、大丈夫よ。みんな分かってくれてるから」

肩に触れていた手で優しく背中を押してくれるエリーザ。一歩前に出るとまた頭を下げた。

「ごめんなさい。ありがとうございます」

いつもなら取り繕えるのに今だけは駄目だった。思わず零れ落ちた涙に全員が固まる。困らせていると分かっていても涙が止まらなかった。

「ちょっと、なんで泣いてるのよ」

「皆さんが優しいから…」

騒つき始めるクラスメイト達。

涙を見せたくなくて、エリーザに抱き着いた。

「あー、みんな。知ってる人もいるかもしれないけどリアはあの婚約者に困らされてるの。なにかあったら協力よろしくね」

なにを話してるの。迷惑をかけたばかりでまた迷惑をかける様な真似をしたくないのに。

エリーザを見上げると満足気な笑顔を見せられた。

「あの皆さん、大丈夫ですから…」

エリーザの言葉を無かったことにしようとしたのに掻き消されたのは私の言葉だった。

「よっしゃ！分かった！」

「エミーリア様、お任せてください」

「絶対にエミーリア様を守るぞ！」

「学園では出来るだけ私達と一緒にいてくださいね」

何故、皆さん乗り気なのですか…。

楽しそうに私を守る方法を話し合うクラスメイト達を見て不思議に思う。

「あの、どうして私を助けてくれるのですか？」

当たり前の質問をしただけなのに全員に不思議そうな顔をされました。

分かっていないの、もしかして私だけですか？

「あの王子が婚約者がいる身でありながら他の女生徒に惚れ込んでいる事はみんな知ってるの。知ってるからこそ被害者であるリアを守りたいのよ」

「それだけじゃないですよ」

エリーザの言葉に反応したのは子爵令嬢の方でした。

「エミーリア様はいつも私達を助けてくださっています」

「俺はテーブルマナーの授業で助けてもらったぞ」

「私も委員会の仕事を手伝って頂きましたわ」

「僕も補習になっていた空間魔法のコツを教わりました！」

次々に「私も」「俺も」「僕も」と声が上がっていく。

それぞれの話は身に覚えがある事だ。でも、だからといってそれが私を助けてくれる理由になるかと言われたら分からない。

「確かに皆さんの言った事には覚えがあります。でもそれは当然の事をしただけで…」

一瞬ぽかんとした後、大笑いをされました。

別に笑うような事は言ってませんよね。

確認のつもりでエリーザを見るとひとしきり笑い終えたところだった。

「馬鹿ね。リアがみんなを助けるのが当然だと言うなら私達がリアを助けるのも当然のことよ？」

当然の事。そう、なのかしら…。

「頼りないかもしれませんが頼ってください！」

一人の言葉に全員が頷く。その光景にまた泣きそうになった。

もう一度前に出て頭を下げる。

「ありがとうございます。頼らせてください」