第15話 第一王子の怒り②

あの馬鹿王子襲撃事件(エリーザ命名)以来、私はクラスメイトと仲良くなりました。

前よりも話すようになりましたし、私の事も愛称で呼んでもらっています。

充実した日々を送るきっかけを与えてくれた婚約者様には感謝しても良いかもしれませんね。

それはそれとして、どこから漏れたのか事件の話がクリストフ様に伝わってしまったらしく私は王城に呼び出しを受けた。


「リア、こっち」


ガゼボに通されると既に待機していたクリストフ様に声をかけられる。にっこりとしているのに目が笑っていない彼に頰を引き攣らせた。

怒ってるのよね…。

とりあえず挨拶が先だとスカートを摘み、腰を折る。


「本日はお招き頂きありがとうございます」

「いや、わざわざ来てもらって悪かったね」


座って、と言われるので前の席に座る。

用意してもらった紅茶を一口飲んだところでクリストフ様が口を開いた。


「どうやら、うちのアルバン《バカ》がやらかしたみたいだね」


怒りを隠そうとしないクリストフ様に苦笑いしか出来ない。


「悪いけどリアからも話を聞かせてもらえるかな?」

「分かりました」


子爵令嬢に変な絡まれ方をされた事。

婚約者様に言い掛かりを付けられ殴られそうになった事。

婚約者様に威圧を放ってしまい跪かせてしまった事。

順を追って話していく。


「以上です」


私が話を終えるとクリストフ様は徐に立ち上がった。無言で場を離れようとする彼に首を傾げる。


「クリストフ様?」

「……ろす」

「え?」


声が小さくて聞こえなかった。

今度は耳を近づけて聞いてみると。


「殺す」

「く、クリストフ様?」

「あの屑殺してやる」


不穏な言葉に目が瞬いた。

顔を覗き込むと無表情。しかし緑色の瞳には怒りの炎が灯っていた。

次の瞬間には彼の怒りが魔力となって漏れ出てくる。


「リア、待ってろ。あの屑を殺してくるから」

「ち、ちょっと待ってください!」


歩き始めるクリストフ様の前に出る。

婚約者様には言い掛かりを付けられただけ。暴力自体は未然に防いだ為、特に被害はなかった。

ここまで怒るような事はされていない。


「リア、退け」

「退きません!」


クリストフ様から放たれる魔力量が増す。

すぐ近くにいた使用人達が彼の魔力に当てられて倒れていくのが視界の端に映った。

早く彼を止めなければ。


「あいつを庇うの?」

「まさか。ただ彼に対する報復は自分で行いたいのです」


真っ直ぐ見つめて自分の気持ちを伝える。

数分後、こちらに引く気がないと理解したのかクリストフ様は溢れ出ていた魔力を抑えてくれた。

周囲を確認すると使用人達は気を失い、ガゼボは半壊、木々が倒れていた。

なかなかに酷い光景だ。


「私の為に怒ってくださってありがとうございます。ですが、やり過ぎです」


クリストフ様は「ごめん」と呟いた。

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