第13話 婚約者様の怒声

「おい!エミーリア!」


授業が終わり、教室に怒鳴り込んできたのは婚約者様でした。

物凄い勢いで近づいてきた彼は私を殴ろうと拳を構える。

いきなりの事で流石に驚く。

機嫌が悪いと暴言を吐くのはよくある事だったが暴力に訴える事はなかった。

咄嗟に強い威圧を放った私は彼を跪かせてしまう。

しまった…!


「エミーリア、貴様ぁ!」


跪いたまま私を見上げ睨む婚約者様。

逆に威圧をかけられるが魔力量は私の方が圧倒的に多い。威圧に怯む事はないが心の動揺が激しい。

出来損ないの浮気男だったとしても彼は王族だ。王族にこんな真似を働いて許される訳がない。

止めないといけないと頭で分かっていても上手く魔力が制御出来ず威圧が止まらない。

どうしたら良いの…!


「リア、ちょっと落ち着いて」

「リーザ…」

「深呼吸して。ゆっくり魔力を抑えて」


エリーザの言葉にようやく威圧を止める事が出来た。

教室に残っていたクラスメイトも地面や椅子に座り込み顔を真っ青にしていた。

やってしまった。これはやり過ぎた。

自分のやらかしてしまった事に泣きそうになる。


「エミーリア!貴様、ローナになにをした!」


焦っていた私を放心させたのは婚約者様だった。

威圧の件を責められるのかと思ったら別の話を始める婚約者様に首を傾げた。

どういう事?

子爵令嬢とは会った。しかし少しだけ話したくらいだ。なにもしていない。


「意味が分かりません」


ハッキリと答える。

私の返答が気に入らなかったのか婚約者様は目を吊り上げた。


「意味が分からないだと!ローナが泣いていたぞ!お前に苛められたと言って泣いていたんだ!」


ん?なにを言ってるのでしょう?

思わず隣に立つエリーザを見ると私と同じように訳が分からないといった顔をしていた。


「苛めてません。いつの話ですか?」

「さっきの授業中だ!」

「ここで授業を受けていましたけど…」

「なんだと!」


婚約者様が周りにいた人に確認を取る。

尋ねられた全員が授業を受けていた事を証言してくれた。さっきの威圧の事もあり私に不利な証言をするかと疑ってしまった自分が情けない。


「くそ!どうゆう事だ!」

「ハッセル子爵令嬢とは授業前に会いました。しかし苛める時間などありませんでした」


会ってないとは言えない。彼女の待ち伏せのせいで会ってしまったからだ。

嘘は付けない。付いたら今後の事で不利になってしまう。


「…っ、もういい!」


悔しそうな表情のまま教室を出て行く婚約者様をクラス全員が唖然とした様子で見送った。


あの婚約者様の様子だと子爵令嬢アバズレは私を嵌めようとしたって事よね。

しかも杜撰な計画で…。

いや今は阿婆擦れ令嬢の事よりもクラスメイトに謝る事が先だ。


「皆さん、ご迷惑をお掛けしてしまい大変申し訳ございません」


深く深く頭を下げた。


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