第8話 第一王子の怒り
連れて来られたのは幼い頃から定期的にお茶会を開いているガゼボだった。
クリストフ様は私を座らせてからメイドに指示を出す。それが終わると私の目の前に腰掛けた。
「リアはどうしてここに来たの?もう王子妃教育は終わったはずだよね?」
「いえ、それは…」
「もしかしてアルバンに会いに来たの?」
「違います!」
即座に反応する。
声を荒げた事によりクリストフ様は驚いた表情をこちらに向けた。
「じゃあ、どうして?」
「陛下達に会いに来ました」
私と陛下達の仲が良いという事はクリストフ様も知っている。
不思議に思われる事はないだろうと思ったのだけど幼馴染というのは厄介なものだ。
「それだけ?」
鋭い視線がこちらに突き刺さる。
「えっと…」
それだけはないです。ですが、帰ってきたばかりのクリストフ様に婚約破棄の事を話しても良いのでしょうか。
彼になら話しても構わないと思うのですが…。
「貴方の弟が浮気しています。その挙句、身勝手な婚約破棄をしようとしています。だから、こちらから先に婚約を破棄したいのです」
そんな気分が悪くなる話をするのはやっぱり悩みます。
「話せない?」
「ちょっとだけ言いづらくて…」
「悩みがあるなら聞くけど」
「悩みというか…」
「僕に話せない事なの?」
その罪悪感を煽るような表情やめてください。でも、どちらにせよ彼にも知られてしまう事ですから今のうちに話しておくのも良いのかもしれません。
「あの、クリストフ様、実は…」
婚約者様が浮気をしている事。
その浮気相手と結婚したくて私との婚約を破棄しようと企んでいる事。
それを知った私が先に婚約を破棄しようと動いている事。
全てを話し終える頃にはクリストフ様は無表情になっていた。
何を考えているのか全く分からない。
「リア」
「なんでしょうか?」
「あの馬鹿にどんな制裁を加えるつもり?」
そういえばよく考えてませんでしたね。
とりあえず婚約破棄をされそうになった場面で婚約破棄してやろうと考えていたのですが。
「リア。やるからにはちゃんとやろう?」
「あの、クリストフ様…?」
目が死んでます。というより濁ってませんか。
普段は宝石のように澄んだ緑色なのに、今は濁ってますね。
それよりもやるからにはちゃんとやるって…。
「あの馬鹿は僕の大切なリアを傷付けたんでしょ」
大切?ああ、大切な妹って意味でしょうね。
「えっと、自尊心はちょっと傷付けられましたね?」
「愚弟も許せないけど、浮気相手の阿婆擦れ女も許せない」
クリストフ様、もしかしてかなり怒っていらっしゃる?
こちらに向けられた笑顔はお母様が暴れる直前の笑顔によく似ていて嫌な汗をかきます。
「馬鹿は観衆の中で恥晒しにしてやろう。ついでに王家を除籍でいい。阿婆擦れ女とくっ付ける手助けはしてやる。結婚したかったんだから感謝されるよ」
不穏な単語がいくつも聞こえてきたのですが、気のせいですよね。
優しくて穏和なクリストフ様が…。
「散々リアのことを馬鹿にしてきたあの大馬鹿はもう邪魔だよね」
「いや、流石に除籍は…」
「僕は怒っているんだ。これくらいしないと許せそうにない」
これはお母様より厄介な相手に話をしてしまったかもしれません。
「大丈夫だよ。僕が婚約破棄させてあげるからね」
とりあえず除籍はさせないように動くしかないですね。
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