第23話
「先生、貸してみな。このナイフはな、こうやって使うんだよ」
レオンの手からナイフを受けとると、ダインは鞘にいれたまま魔力を流していく。
すると、ダインの姿がすうっと空間に溶け込むように徐々に消えていくのがわかる。
「ふう、こんなもんだ」
完全に消える少し手間で中断すると、元通りはっきり見えるようになったダインはナイフをレオンに返した。
「今のは途中で辞めたわけじゃなくて、俺の力だとあれが限界ってことだ。作り手だから多少は使えるってレベルだな。だが、このナイフの力を引き出せるやつが使うと……」
そこまで言って、ダインはレオンに魔力を流し込むよう促す。
「んっと、こうか?」
促されて適当にナイフへ魔力を流してみると、自らの身体が空気に溶け込んでいくのを感じる。
それは本人の実感だけでなく、周囲から見ても著しいものだった。
「こりゃすごいな。自分で作ったものながら、ここまでとは……」
初めて自分の作った武器の効果を実感して驚いているダインの目には既にレオンの姿は写っていなかった。
隣にいる店員も同様であり、急に消えたレオンの姿を探してキョロキョロと周囲を見回している。
「おろ、先生は……ここ、かな?」
完全にレオンが姿を消したタイミングで興味深そうな雰囲気のフィーナがやってきて、キョロキョロとあたりを見たあと、あたりをつけてえいっと何もない空間に抱き着く。
「――わっ! フィーナはすごいな。二人は俺のことを完全に見失っていたぞ」
効果を解除して姿を現したレオンはあっさりと彼を見つけたフィーナの頭を撫でて褒める。
彼女の野生の勘にも似た感知能力の高さに感心していた。
「えへへー、すごいでしょ? 野生の魔物と戦うことが多いから、自然と気配を察知できるようになったんだよね! そのナイフのやつも魔法で姿を隠してるけど、気配は完全に消えてないからわかったんだよ!」
ニコニコとご機嫌なフィーナは頭を撫でられるのに身を任せながら、見つけられた理由を説明していく。
「ほう、フィーナ嬢ちゃんクラスになるとこれでもダメなのか……改良の余地はありそうだな」
見破られて感心する気持ちと悔しい気持ちが入り混じったダインは考え込むようにそうつぶやくと、踵を返して工房に戻ってしまった。
「ま、まあ、いいものをもらったよ。これがあれば、身の危険を守るのに役立ちそうだ……それで、フィーナはいい武器が見つかったか?」
そんなダインの背を心配そうに見ながらもナイフをありがたく思ったレオンはそれをしまい、ここで本来の目的であるフィーナの武器探しに話を戻す。
「えっと……これなんかいいかなって」
どこか遠慮気味のフィーナが見つけたのは少し厚めの刀身の片手剣だった。
それを二本手にしていた。
「なるほどな、確かに丈夫そうだ」
レオンはそれをじっと見てみるが、硬い金属を使っているため、ちょっとやそっとでは壊れそうにないとわかる。
これならば、フィーナの戦闘にも耐えられそうである。
「お目が高いですね。それは最新の手法で、硬度の高い金属に魔力付与性の高い金属を混ぜ合わせて作っているんです。そこに、硬度をあげる魔法を付与することで、多少のことでは刃こぼれをしないものになっています」
店員も自信ありそうにこの剣を推してくる。
「わかった、じゃあ二本ともくれるかな」
「っ……いいの!?」
レオンが即答したため、驚き戸惑ったフィーナは思わず確認してしまう。
フィーナが選んだのは、最新の手法を使って作られているため、なかなかいい値段がついていた。
自分の力に耐えうるものを選んだが、値段を見て申し訳なさもあって彼女の表情にはいつもの元気がなかった。
「あぁ、武器は妥協すべきじゃない、大事なものだからな。少しでも戦いに役立つなら安いもんだ」
ふっと優しく笑ってそう言いながら、レオンは金を取り出してカウンターに並べていく。
「はい、ありがとうございます。お包みしましょうか?」
「いえ、このまま持って帰ります! せんせー、ありがと! えへへっ」
ぱあっと表情を明るくしたフィーナはまるで宝物を手に入れた子どもであるかのように、大事に二本の剣を抱えている。
「それじゃ、家に戻るか。俺もいいものをもらったし、フィーナも満足するものを手に入れられた。そして、商人たちも買い物をしてってくれている。いいことだらけだ」
レオンたちが買い物をしている間にも、商人たちは武器、防具、服、装飾品に興味を示して買い求めている。
どれをとっても品質が高く、よそでは手に入りづらいような高いレベルのものばかりであったため、少し値段が高くても飛ぶように売れていく。
「――先生! あの!」
店を出たフィーナはなにやら落ち着かない様子で、新しい武器を前にうずうずしている様子であり、チラチラと森がある方向に視線を向けている。
「なるほど、つまり早速使ってみたいということか。大剣はどうした? フィーナのメイン武器だろう、持っていかなくていいのかい?」
「あ、家!」
今度は視線を屋敷の方へと向けていく。
「ははっ、わかったわかった。家に帰って大剣を取って森に行ってきていいぞ。あー、でもできれば素材はとってきて欲しいかな」
「りょうっかい!」
フィーナは元気よく返事をすると、機嫌よく跳ねるように屋敷へと走って行った。
屋敷の鍵はレオンとフィーナだけが持つようにしているため、彼女も自由に出入りできるようになっている。
「さてさて、店の様子は好調。商人たちもだいぶ興味を示してくれている。次は宣伝が必要になるところだが……」
店の品物を独占しようと、商人たちが他に情報を流さない可能性がある。
(でも、イーライが情報を広げてくれる、か?)
そんなことを考えていると、丁度服屋からイーライが出てきたところに出くわす。
「おぉ、レオン様! こちらの店はすごいですね! 店の数は少ないですが、それでも並んでいる商品の質が物凄く高いです! 早速仕入れさせていただきました! もちろん安心して頂きたいのですが、こちらを我々の街で売ろうと思っておりますが、シルベリアで仕入れたことはキチンと話しますから宣伝になりますよ!」
つやつやとした表情で話すイーライの言葉は先ほどまでレオンが不安に思っていた問題を解決してくれるものだった。
「あー、それはありがたいが……いいのか?」
ここで買えるとわかってしまえば、こちらに人が流れてしまうのでは? という懸念をレオンは持っている。
「もちろん問題ありません! レオン様やみなさんにはとてもお世話になっていますし、なによりシルベリアが栄えれば、我々にも新しいチャンスがめぐってきますので!」
前半の感謝の気持ちは本当のことで、後半の自分たちのチャンスというのも嘘偽りのない本音だった。
「わかった、色々と助かるよ。ありがとう」
「勿体なきお言葉です……申し訳ありません、他の店も見ていきたいのでこのあたりで失礼します!」
胸に手を当ててイーライは深々と一礼すると、別の店へと急いでいった。
(つかみはバッチリだな)
そんなイーライの背を見送りながら、レオンは少し領主としての自信をつけていた。
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